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なんでここまできたの?
お前が病気だって聞いたから
俺のこと心配した?
………じゃなきゃ来ねえよ
お互いにしか聞こえないような声量で囁きあって@@が喉の奥から絞り出す珍しい本音に色々堪えきれなくなった紫原は思いっきり@@の体をすぐそばにあったベッドに押し倒した。
息つく間も与えず覆い被さって何か言いかけた@@の唇を自分のもので塞いだ。少し歯がぶつかって痛みを感じたが、久々に感じる感触の幸せに比べたら。
「んぐ、っ…ふ」
「んむ、@@、…来んのおそいよ」
「うるせーよ」
「@@」
@@の唇を啄むように食んで手の中の指輪の感触を確かめた。
夢じゃない。こんな夢があってたまるか。
「結婚しよ」
「……なんでお前が言うんだよ」
不服そうな物言いの割りに@@は笑っていた。
紫原は少し上体を起こして手の指輪をはにかみながら指に嵌める。
「……@@、これきつい」
「…ごめんサイズ間違えた」
「でもいーよ、これで」
「なんでだよギチギチだぞ」
紫原の指のサイズに合っていない指輪は彼の指を締め上げ若干食い込んでいて大層窮屈そうだった。でも紫原は笑って首を振る。
「どーせ嵌めたら一生外さないし」
「…あっそ」
今度は@@が紫原の襟元を引っ張って口付けた。
久々なせいかお互い遠慮がなくて、互いの口許を唾液で汚しながら夢中で貪る。
調子づいた紫原はするりと@@の服の裾から手を忍ばせるが服の上から瞬時に押さえられた。
「ごら、ガキはこんなことしねえぞ」
「大人になったからいいじゃん」
「なりたくないって言ったくせに」
「じゃあ@@が大人にしてよ」
カーディガンのボタンを片手で外しながら見下ろしてくる紫原の顔は、もうとても子供と呼べるものじゃない。
けどまあ、してくれというのなら手加減は要らなさそうである。
「じゃあ初夜ってことにしといてやるよハニー」
「それめっちゃいい」
「……2度と言わねえ」
待った甲斐は、確かにあった。
ストレスの原因を跡形もなく吹っ飛ばした紫原の病状はみるみるうちに回復した。再診した折、医師が君は人間か?と驚愕するほどの早さで。
味覚が復活すれば修行も出来るし師匠も喜んで一石二鳥。
良いことづくめではあったが、紫原にとっての良い薬には期限があった。
「やっぱあと一週間くらい」
「バカ言え…これ以上滞在したらチームから追い出される」
空港の搭乗ゲートの前で押し問答を繰り返し早15分。そろそろフライトの時間がマジでやばい。
暫くの間病欠という扱いで試合も練習も誤魔化し続けた@@だがどうしたって限界があって、監督が大分怪しんで何度も連絡を入れてきていた。
「俺も帰ろうかな…」
「ダァメ!!修行終わるまで帰ってくんな!」
「ケチ!!」
「ケチで結構!我慢させるためにここまできたんだぞ」
@@は紫原の左手を自分の左手で取って眼前に掲げた。
窮屈そうなリングが鈍く光っている。
我慢は、何も紫原にだけさせるものじゃない。取った左手を握りこむ。
「さっさと一人前になって帰ってこい。俺だってさ…さっ…さみしいよ」
「……っ@@!!!」
「ウグエェ!!」
「すぐ帰る絶対すぐ帰る!!」
「わ…わかっ…わかったから…!!ぐるじい…!!」
「@@大好きぃい…!!!」
「(ちーん)」