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ふいに部屋に灯りが差し込んだ。廊下の灯り。部屋の扉が開いていて出入り口に立つ人間は逆行になりながらゼエゼエ肩で息をしている。その後ろにいた師匠が紫原にウインクをかましてそっとフェードアウトする。

紫原の手から携帯が落ちた。

ずかずか部屋に入り込んできたそいつは携帯を拾い上げ、額に浮かぶ汗を手で拭いながら紫原のかわりに電話に出た。


「もしもし!?お前の地図わかりにくいよ!道でこっちの人に会わなかったら俺路頭に迷ってたぞ!」
《@@っちが早くって急かすから!》
「急いじゃったの!つい!とりあえず助かったわ、またあとで連絡すっ」


@@が言い切る前に紫原が思いっきり@@に抱き付いた。
指が滑って電話の通話終了ボタンを押してしまい、あえなく通話終了。



「……なんできたの」
「お前には帰ってきてほしくなかったから」
「ばかじゃん…」


力加減がわからずに、強く@@の背の服を握ったら背中の肉ごと掴んだらしくいてえ!と@@が悲鳴を上げた。でも離しはしなかった。


「会いたいって言わなかったくせに、ほっぽらかしたくせに」
「ごめんって」
「やだぜってー許さない」
「……もう子供じゃねえんだぞ」


駄々こねんな。
いさなめるように@@は言って紫原の背中を撫でる。


「子どもでいい。@@といられるんなら子どもの方がいい」
「そういうわけにも」
「大人なんかなりたくない!」



がなった途端堰を切ったように紫原の目からぼろぼろ滴が零れた。
しかも嗚咽を抑えないものだから怪獣のような鳴き声が部屋にこだました。あーもう!としがみついてくる巨体を引き剥がして@@は紫原を見据える。


「泣くな!大人になれ!!」
「やだ!」
「なれ!!」
「無理!」
「どのタイミングで渡したらいいかわかんねえからとりあえず黙れ!!」


目を真っ赤に泣き腫らしながらしゃくりあげ、@@の剣幕に紫原は一瞬黙った。ちょっと待って、と@@は上着のポケットを漁る。
そして握りこぶしを紫原の前につきだすのだ。


「大人になるんなら、やる」
「…なにこれ…」
「手出せ」


紫原が恐る恐る手を出すと、その掌に叩きつけるがごとく@@が握り拳を置いた。手の上に固いものを残し、@@はぷいっとそっぽを向く。


「いらねえなら返せよ!!」


耳を真っ赤にしながら@@は震え声で怒鳴った。
掌に残されたのはなんの飾りっ気もない、質素な細いシルバーリング。


(なにこれ、なにこれ)


唇から言葉が出なかった。
こんなところまで来て、突然こんなものを渡して。
これじゃあまるで。アレみたいじゃないか。


「…@@は、俺のこと、すき?」
「……何で聞くんだよ」
「すきだから、こんなの渡すの?」


@@は耳を真っ赤にして黙りこんでしまう。
怒る気もない、断るつもりもない。ただ一言だけでいいから伝えてくれればいいんだ。「今くらいちゃんと言ってよ」そう紫原がぼそりと呟くと羞恥のせいかはたまた別の意味合いでか、顔も目も真っ赤にして過剰な水分を含んだ瞳を見開きながら@@は振り返った。



「愛してるよ!!!」



@@の首元にチェーンでぶら下がった紫原と同じリングが揺れた。

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