B



『"心因性味覚障害"?』
《うん、医者がそうだって。なんか…ストレス?のせい?》
『俺に聞かれてもな…』


つい三日前、電話で紫原が愚痴の合間になんか俺病気なんだって、とあっけらかんに言った。何を食べても全く味が感じられないと。


『だ、大丈夫なのか』
《んーあんま大丈夫じゃないかも。お菓子とか全然味しねえし》


つまんねーと紫原はぼやいているが、つまんねーじゃ済まない問題だこれは。今紫原が修行しているパティシエなんて仕事は味覚がなければ話にならない。


『心因性って…薬で治るものなのか?』
《薬はあるけど、ストレスの原因無くすのが一番なんだってさ》
『…一度帰国しなよアツシ。@@に会ったほうがいい』
《…やだ》
『どうして』


ストレスなんてものから一番遠いように感じられるあの紫原が溜め込む理由なんて@@以外にあるはずがない。
紫原は師匠や周りの人間にも帰国を勧められていたが一向に首を縦に振らなかった。


《帰ったって寂しくなるだけじゃん。どうせまたこっちに帰ってこなきゃいけないし》
『アツシ……』
《@@が……@@が帰ってこいって言うまで、俺絶対帰んない》



というわけ。
氷室があらかた説明すると@@はガクウウと肩を落としてテーブルに崩れ落ちた。死にゃしない、そういう安心感ともうどうしたらいいかわからないという脱力感が入り交じって思考がぐちゃぐちゃだ。


「似た者同士っていうか…@@もアツシも意地っ張りすぎ」
「意地張ってねえよ」
「なら@@は寂しくないのか?ちっとも?」
「ああ、ちっとも」


氷室は目を見張った。ここまで潔いとは思わなかったからだ。
お互いを想い合っていると思ったから諦めたのに、これじゃああんまりじゃないか。


「怒るぞ。@@」
「うっさいなーあいつはあいつで道作ってんだから、帰ってこいなんて言えねえだろ」
「でもアツシは@@が言わないとずっとこのままだ」
「あいつの道を邪魔できない」



もうすがりあって生きてく子供じゃないんだ。
@@は紫原に絶対帰ってこいとは言わない。氷室は確信した。



「意地っ張り」
「なんとでも言え」


冷めきったハンバーガーはやっぱり砂みたいな味しかしなかった。

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