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30000ヒット記念アンケート上位三人とのドタバタ結婚話紫原編。至って普通に結婚してたり大人だったりするので、パラレルとして受け止めてくださいね。




「うわ」


とある個室に足を踏み入れた刹那、紫原は小さく声をあげて顔を歪めた。
油物とアルコールのにおいが充満している座敷の個室、入り口には家のものが所属するプロサッカーチームご一行様の名前が記された看板があったので部屋は間違いないはずだ。しかし見つからない。

酒と男臭い無法地帯に足を踏み入れたくなくて出入り口で目だけ動かしていると入り口手前にいた若い男が紫原を見ておおっ!と声をあげた。


「@@〜!おい@@ー!お迎えだぞぉ〜!あれ?嫁さん?旦那さん?あっはーどっちでもいいやぁ!!」
「@@どこにいんの」
「あそこぉ〜」


完璧に酔いが回っている男は上座を指差して後ろにバタンと倒れた。
ちょっと連れてきて、と言おうとしたのにこれじゃあもう何も頼めそうにない。仕方なく紫原は座敷に踏入り、酔いつぶれた屍たちを踏み越えながら上座に向かった。


「@@、帰るよ」
「んむぁ〜?およっ、あつしー!あつしじゃーん!!なんでいんのー」


@@は畳に横になって座布団を抱き締めていた。どうりで見つからないわけだ。
顔は首まで真っ赤だし呂律も回っていない。周りと同じように酔っぱらいであることはよくわかる。ひらひら振られる腕を掴んで引っ張った。


「11時には帰ってきてって言ったじゃん」
「まだ10時〜?」
「もう1時!!」
「あれほんとらぁ〜」
「……帰るよ」

飲めないくせにこんな飲みやがって、と紫原は周りに転がっている空のグラスを憎々しげに睨んだ。
ぐでぐでになった@@の身体を抱えあげて紫原は立ち上がった。
@@はへらへら笑っている。
あれほど家以外で飲むなって言ってるのにこの男は……



「ヒューヒュー!ラブラブじゃんエース様ー!!」
「いいだろ独身どもー俺んだぞー俺の嫁だぞーーーー!」
「くれよー敦ちゃんくれよー」
「殺すぞ」
「…@@、歩けんなら歩いてよ」
「ええー敦だっこぉ」


甘えたな様子の@@に酔っぱらいどもが更にヒートアップして囃し立ててくる。普段つんけんしてるものだからこの状況は大変嬉しいのだが、外でやってほしくなかった。要は自分だけが見たいのだ。
何人か蹴飛ばしながらようやく座敷の出入り口に戻ってこれた。


「おつかれ@@ー!」
「今夜はお楽しみか死ねやーー!!」
「いきるー今日頑張っちゃうかあつしい」
「うるさいばかちん」


酔っぱらいは本当に質が悪い。素面で言えよ。


***

@@の酔い醒ましのため、タクシーを拾うのはやめた。
このまま抱えて帰る。家までさほど距離もないし人通りもほぼないようなものなので抱えて歩いてたって構わないだろう。警察に見つかったところで酔っぱらいだからで済む。
ずりおちてきた@@を抱え直しながら紫原はうんと頷いた。



「敦あまいーあまいにおいがするーケーキ余ってるー?」
「今日売れ残りない」



にべもなく言い返すと@@は大層不満げにええーと溢した。
紫原が店主のパティスリーは連日大盛況の人気店だ。最近雑誌で特集されたこともあってお願いでもしておかない限り@@がおこぼれに預かるのは難しい。普段は夜食がわりに残しておいてやるのだが、「今日打ち上げいくわ」と連絡が入ったとき酔って帰ってくることが予想されたので腹いせのために全部売り切ってやった。


「早く帰ってこないほうが悪いんじゃん」
「だって待ってたら敦くるかなあーって」
「俺だって待ってたのに」


いつでもこの男は待たせる側。迎えにきてくれたのは、あの一度きり。
左手でばしんと@@の背中をひっぱたいた。大袈裟にむせかえっている。


「いたい…指輪ごりっていった…」
「たまには迎えにきてよ」


甲斐性を見せたのはあのときだけ。

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