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「わざとじゃねえわ!目覚ましがだななんか壊れてて…え?ペナルティ?ふざけろ反省してんだろ!」


携帯片手に@@は声をあらげながら走っていた。急いで走っているせいでがっちゃがっちゃ激しくバッグが揺れている。
今日は日曜。サッカー部は休日練習が朝からあるため、しっかり目覚ましをかけて就寝した@@だったが目覚めの一発で目覚ましが大破し、二度ねののち寝坊に至った。


「とりあえずあと五分で着くから外周追加はやめ…もしもし!?聞いてる!?」


通話は一方的に切られたようだ。舌打ちをして@@は携帯をポケットにしまい、スピードを上げた。この角を曲がればあとは学校まで一直線。
部長への言い訳はあとで考えることにする。

そして角を曲がる直前、@@の死角となる角の影で人影が動いたのが見えた。


「うおあぶね」
「ギャーーーッ!!」


持ち前の反射神経でそれを避けた。
すると人影はそのまま前へ突進、バランスを崩して顔からアスファルトに投げ出された。

「何で避けるんスかァ!!」
「いや、避けるだろ普通…」
「いった鼻打った…!!」


帝光女子用制服に身を包んだ美少女は赤くなった鼻を抑え、涙を浮かべながら@@を振り返った。


「姉貴の嘘つき…!何が恋の始まり…!!」
「あの、大丈夫…?主に頭とか…」
「えっ?あ…ちょっと足くじいちゃったかもー…」
「はあ…学校行くとこ?帰るとこ?」
「え、えっと…行くところ…」


@@は美少女につかつかと歩み寄り、背中を向けて座り込んだ。


「送ってやっからはよ乗って」
「マジスか!?」
「嘘ついてどうすんだよ…」
「や、優しいなあって…!!」
「おい…鼻血でてんぞ…」



曲がり角で待ち伏せして、二人が衝突したそのときが恋のはじまり。
とかいう謎の姉のレクチャーは案外間違っていなかったかもしれない。
女の細い体だと余計広く感じる@@の背中を頬擦りして堪能しつつ、美少女もとい黄瀬は悦に浸りきっていた。


「日曜だから保険医いねえわ。部室で手当てする」
「お、オッケーッス」

男のときなら唾つけときゃ治るだろとでも吐き捨てられていただろう。
女性とはずるい。でも今は自分もそのずるい部類に入っている。
女体最高…

「人助けしたから遅刻も免除だなクックック…」
「えーっ!そっちが狙い!?」
「ただで人助けなんかするかよ」
「最低…!!!(でも好き…!!)」



男臭いサッカー部の部室に連れていかれ、@@は黄瀬をベンチに座らせて救急箱を傍らに置くとちょっと待ってて、と部室を出ていった。


「遅刻だぞ**」
「ちょっとまあ聞いてよ、来る途中で人助けしたから…」


@@は部室の外で部長とおぼしき男と話している。
開け放ったままの扉の内側にいる黄瀬を見た途端、部長はなんと!と声を上げた。


「それなら仕方ないな…」
「でしょ!?」
「えっ、誰あのかわいい子!」
「**がバスケ部以外とフラグ立つわけ!?」
「うるせーぞそこ!ちょっと手当てしてくるから先に練習よろしく〜」


部員たちを適当にあしらい、@@は嬉々としながらこちらへ戻ってきた。ちらちらと様子を伺おうとしてくる部員たちが煩わしいのか、部室のドアはしっかり閉めていた。

「(み…密室!!@@っちと密室で二人っきり!)」
「スプレーすっから、くじいたの右?左?」
「(どどどどうしよう!ここまでうまくいくと思わなかったッス…!)」
「聞いて…おい鼻血!!鼻血垂れてる!!」
「あ、すんませ…」


ちょっと朝から血を出し続けたせいか頭がくらくらする。
額を抑えていたら、鼻にティッシュが押し付けられた。

「病院行けば?」
「近ァッ!!」
「いやお前倒れそうだし」


紳士的に背中を支える手の温度を感じ、息づかいが生々しく聞こえるこの距離感。自分から近づいたところで三秒以上これほどの距離がもったことがあるだろうか。いやない。絶対にない。三秒以内にしばき倒されるのが関の山。開いた襟ぐりから見える鎖骨に焦点があったとき、黄瀬の思考はショーとした。


「@@っちの鎖骨ブホァッ!!」
「は、鼻血噴火した!!お、おい死ぬのか!おいこれは致死量!おい!」


願ってやまない@@という存在がこんなに近くにいるのに、志半ばで黄瀬はひっくり返った。

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