B





未来が見えない。明日が見えない。@@の目に写るのは目の前にあるどどめ色の諸悪。煮立った粥はごぽごぽと気泡を浮かばせてまるでお伽噺の魔女の鍋のようだった。
どうして慣れない(出来ない)ことをしようとするの…?@@が聞けば二人から帰って来るのは「他ならない、@@のためだから」だと。

ありがた迷惑と言う言葉を辞書でひいて赤線で30回はなぞってほしい。



「俺、今、食欲、無い」
「さっき腹が減ったと言ってたじゃないか」
「熱、上がった」
「はい、冷えピタです」


ピタッ


ピタッじゃねえよ。準備がよろしすぎてもうどうしたらいいのかわからない。煮え立つ物体Xを生唾を飲み込みながら凝視していると、赤司が仕方ないな…と苦笑しながら蓮華を手に取った。


「熱が上がりすぎて自分で食べるのも儘ならないんだろう」
「いいえ!?」
「じゃあ口を開けてもらおうか」
「会話しよう!?いつも言ってるけど俺の話聞こう!」
「やめてください赤司くん、@@くん嫌がってます」
「く、黒子…!やっぱお前「なので僕がやります」


ブルータス、お前もか。
@@の頭に先日授業で読み上げさせられた歴史人の言葉が甦った。
どうしてこの二人は揃ってしまうと変なところで張り合うんだ。何故譲り合わないんだ。


「さあ@@くんあーんしてください今すぐ」
「い…いやです…!!」
「捩じ込まれたいか」
「ひとりでできるもん!ひとりでできるもん!」
「まだ@@はおかあさんといっしょじゃないと駄目な歳だ」
「俺たち同い年!!」
「いいから遠慮せずに」


@@が声を張り上げたのを見計らって開いた口めがけて黒子が蓮華をファントムシュート。負けじと赤司も蓮華を押し込んできた。
歯と蓮華はぶつかるし、口の中で蓮華同士が争ってるし何より流れ込んできた粥が不味い。不味いんだよ。
梅の酸味とか卵や小豆の甘味が混ざりあってとてもまずい。失神するレベルでないのが逆に苦しかった。


「うぉっぷ…!!!」


我慢に我慢を重ねながら飲み込むと、何故か二人は期待に満ちた瞳で見つめてくる。喉の奥に残る妙な味を噛み締めながら、@@涙ながらにうなずいた。


「おいし(くはな)いよ……」


二人の満足そうなはにかみの代償に、@@は自分の胃袋を売った。





鍋いっぱいのそれを完食した頃には、自分の体だというのにてめえこんなことしてタダで済むと思うなよ、と胃袋が反旗を翻していた。ぶっちゃけ吐きそうだしお腹がいたい。食後に飲んだ薬さえ戻ってきそうだ。
帰ってきたときより格段にげっそりした顔で@@は布団に横たわっていた。



「もう……ゴールしていいかな…」
「そうですね、薬も飲んだことですし寝たほうがいいですよ」
「添い寝が必要なら言えばいいのに」
「言ってないよ!!うっ、ごほっ」
「冗談だ。ほら、もう寝ろ」


思ったよりあっさりと赤司は引いた。
あやすように@@の頭を撫でる手は熱が上がったせいかひんやりと感じて眠気を誘う。
揺らぎ始めた意識のなかでふと、「そういえば」と@@は思い起こす。友人が見舞いに来るなんて初めてだったなと。

体の調子は悪くなった気しかしないが、元を正せば二人は@@の身を案じてわざわざ来てくれたのだ。それは、喜ぶべきか。


「………風邪、うつってもしらねえぞ」
「君からの菌なら喜んで貰いますよ」
「黒子にうつったらお前死ぬだろ」
「@@くんに殺されるなら本望です」
「違う。あの……赤司ちょっとなんとかして」
「任せておけ。@@の手は汚さない」
「いや始末しろって言ってんじゃねえんだよ…!!もういい寝る…」


物好きばっかりだ。こんなやつの見舞いに来るなんて。


好きなんだから、当然。

そう言ったのはどっちの声だったか。



お花畑で逢いましょう




「……寝たな」
「寝ましたね」


規則的に胸を上下させながら眠る@@を見下ろし、二人は春風のように優しい微笑みを浮かべながら自分の携帯を取り出した。


「三枚までですよ、あんまり撮ると気づかれます」
「(パシャシャシャシャ)おっと連写モードになっていたよ。僕としたことが」
「……君を終生のライバルと認識しました」
「受けて立とう、テツヤ」

「うーん…ううーーーん……」


@@の明日はどっちだ。

後日、@@は全快し上機嫌だったがあんなにひっついていたのに風邪がうつらなかった二人は大層ご不満だったとかそうじゃなかったとか。







サヤカ様リクエストの赤司VS黒子でした。
食えない同士二人の水面下の戦いは熾烈であるような気がします。
こんな具合ですが大丈夫だったでしょうか…!!親愛なるサヤカ様に捧げます!リクエストありがとうございました!

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