@



「か……帰って、ください…!お願いします…!!!」


必死に玄関に凭れながら、@@はひどい頭痛のする頭を断腸の思いで下げた。



風邪を引いたらしい。@@が。
それを耳にしたのは丁度30分前。
体育館から見えるサッカー部の練習風景に@@がいないことに気付いた赤司はサッカー部に直訴しにいったのだ。「@@をどこに隠した」と。話しかけられた平部員は竦み上がりながら「風邪でさっき…!早退しました…!」と命ばかりはお助けをと土下座して丁寧に教えてくれた。

それは一大事。
残りの部員には何も告げず「各自自主練!いいか絶対さぼるんじゃないぞ」と主将権限をフルに使い自分だけそっと抜け出たのだが、それを見逃さなかったのは人間観察が趣味という黒子。
同じように平部員に聞いて、赤司の後をちゃっかり追った。

向かう場所は一緒なわけで。途中鉢合わせた二人は笑顔と真顔を崩さず、言葉は一切発さないまま同時に@@の家のインターホンを連打したのが30秒前。


「だそうだテツヤ。さあ帰れ」
「赤司くんこそ帰ってください。主将なしで部活とか笑えませんよ」
「いや…どっちも…帰っておねがい…」
「@@一人を残して帰るなんて出来るわけがないじゃないか」
「見たところご家族の方はいないみたいですし」
「早いよ観察が…!いいから帰っ…!!」


大声を出しかけた途端、@@の体から力が抜けた。
ふらつく体を二人で支え、その体の熱さに驚く。


「こんな状態で無理をするな@@」
「水臭いじゃないですかこんななるまで黙ってたなんて…」
「いや…お前らこなきゃ…もっと平和…」
「さて寝室は二階だったな」
「お邪魔します」
「聞いてよ……まじで…」


もう反論する力も@@には残っていなかった。
身長の足りない二人にずるずる引き摺られながら@@の体は家の奥へ引き込まれていくのであった。








「まずは着替えだな」



@@は早退後制服もろくに着替えず死んでいたので、服はそのままだった。腕捲りをした赤司が両手をわきわきさせながら近づいてくる。


「い、いい…!自分でやる…!!」
「遠慮するな」
「やめてえ!お婿いけなくなるう!」
「僕が貰うんだから構わない!」
「り、力説……だと……」
「@@くんのパジャマは……」
「ちょ、やめっ漁らないで黒子!」


赤司と攻防を繰り広げている横で黒子が@@のクローゼットをわしゃわしゃ探っている。だめだ、三番目の引き出しは開けないで…!

「これは…」
「あああうううあああ……!!」
「これはなんですか@@くん」


背後からにょきにょき影を生やすだけでは飽きたらず、目元まで影を濃くしながら黒子は三番目の引き出しの奥から一冊本を取り出した。
痺れを切らせた赤司にシャツを引きちぎられながら@@は熱で真っ赤な顔を両手で覆い隠した。


「何だそれは」
「僕の口からはとても」


そっと渡された本を目にして赤司に衝撃走るーーーーー


「これは何かな、@@」
「あ、あれです……」
「あれってどれ」
「で、ですから…!!」
「僕に聞こえるように、この本のタイトルを言ってもらおうか」
「そ、そんな後無体な…!!」
「早く」
「…!……!!い、《淫乱メイド特集「ご主人様そこは違う穴です」》…!」
「録音オッケーです」
「よし」
「殺せよ……!!もういっそ殺せよ…!!」


風邪でこんなにも辛いのに!性癖まで暴露させられて@@のライフはゼロどころかオーバーキルだ。思春期の男の子だもの、そういう本一冊持ってたっていいじゃない…!
ぐったりしてたらいつの間にか上下着替えさせられている。これを地獄と呼ばずしてなんと呼ぼう。
ちーん、とどこからか鉄を叩くような音が@@には聞こえた。


「そうですか…@@くんはこういうのが好きだったんですね…」
「メイド服くらいすぐ用意できる。よかったな@@」
「何が!?ねえ何が!!これ以上傷口抉るのやめてよ!」
「それよりテツヤ、さっきのデータは後で送っておくように」
「間違って消しちゃいました」
「お前に限ってそんなヘマはしないと、僕は知っているよ」
「チッ」
「なあマジで帰ってくんない…!!」
「「断る」」
「……」


必死に布団に潜りながら言っても二人に一刀両断された。


「うつったらどうすんだよ…俺のことはもういいから…ほっといて…」



きゅんっ


「……今のなんの音」



なんと奥ゆかしいことだろう。
全身全霊で体の辛さを訴えているのに、この期に及んで健康体の自分達を気遣うとは。@@としてはもう一人で泣かせてくれ状態であったのだが、赤司と黒子のフィルターを通せばプラス思考に拍車をかける以外の何物でもない。そして熱に浮かされた顔、ご馳走さまでした。


「@@くんが風邪を引いていて本当によかったです」
「病体に激しい運動はさせられないからね」
「よく…よくわかりません!」


第六感がこれ以上考えてはいけないと告げているのを感じ取って@@は布団を頭からすっぽり被って思考を遮断した。
二人が舌なめずりをしてこちらを見ていた真意は……よそう、考えるのは。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -