B



「黄瀬オラテメエエエエ!!!首寄越せやあああ!」


黄瀬が後ろを見てげっと呟いたのと俺の背中にとんでもない衝撃が走ったのはほぼ同時だった。
予想外の出来事に受け身も取れず迫ってくる地面に成す術もなく目を剥いた。
冷たい廊下に投げ出されたものと思っていたが、体は斜めった状態で不自然に浮いていた。胸と腹の間に何者かの手が回っている。


「…は?」
「ご、ごめんまさか当たるとは…大丈夫?文句は黄色いのに言ってね…」
「ひっどいっすよ@@っちーー!!飛び蹴りとかぁ!」


俺も受け止めてよ!とかほざく黄瀬は地面にへばりついている。
恐る恐る上を見上げてみればどっかで見たことある男が恐ろしい形相で黄瀬を睨んでいた。
@@っち、とか呼んだな。……あ。


「黄瀬の、恋人…だっけ?」
「は あ !?」
「そうッスよ笠松先輩!こちらが俺の愛しの@@っちー」
「……笠松先輩ね、うん、もう立てる?」
「あ、ああ」

背中は若干まだ鈍く痛んでいるが、立てないほどじゃない。
俺が両足でしっかり地面に立ったのを見届けると@@とかいうやつはうん、と頷いて立ち上がった黄瀬に近づくと


「死にさらせオラァ!!」
「いだいっ!」


見事としか言い様のない回し蹴りを黄瀬にお見舞いしていた。
再び地に沈んだ黄瀬を踏みつけてるのはいいんだが、黄瀬、嬉しそうな顔してるしあんまり効果ねえんじゃねえかな…。
踏みつけたままそいつは俺に振り返った。


「どうもお騒がせしました笠松先輩とやら。あと俺はこいつと、クラスメイト以外の、何者でもないので、そこんとこ勘違いしないでほしい」
「笠松先輩、@@っちは照れてるだけッスよー」
「股間踏むぞてめえ」
「喜んで!!!」
「喜ぶんじゃねえ!!」


噂に聞いた通りの暴君だな、と思う。そこがいいんだとよく黄瀬は言ってた。顔赤らめて…思い出すだけで鳥肌が立つ。


「なあその辺にしとけよ、黄瀬喜ぶだけだし」
「ほっといて!俺はこいつに恨み晴らさねえとやってられねえんだよ!」
「ええー俺なんかしたっけ…」
「お前だろうがあああ!俺の体操着盗ってったの!!」
「えっもうバレたんスか!?」
「驚くのはそこじゃねえだろうが…!!」


やめろって言ったのに聞かねえ。しかもこいつ今大分不躾だったよな。
しかもこっち出会い頭に蹴られてるし…謝罪もほどほど。
黄瀬が何かやらかして怒ってるのかもしれねえが、それとこれとは話が別だ。

つかつかそいつに歩み寄って、思いきり頭をひっぱたいた。


「ってぇな!!何す「先輩に対する口の聞き方がなってねえな」…へ」


鋭い視線が一変して、戸惑う子供のように丸くなった。
正座、と廊下を指差すと何で!と反発してきたが一切俺は退かず正座!!と強い口調で廊下を足で叩いた。
するとぶつくさ言いながらもゆっくり正座する。ついでに黄瀬も正座させた。周りの視線が突き刺さるがそれくらいしないと身にしみねえバカと見た。

「全責任が黄瀬にあるとは言えやりすぎだ!周りよく見ろ!」
「黄瀬がいけねえんだ!俺のせいじゃ」
「先輩には敬語使え!」
「ご…ごめんなさい…」
「@@っちがごめんなさいって!ごめんなさいって!もっかい言って!!」
「てめえはうるせえんだよ黄瀬!」
「いだっ!笠松先輩に殴られても嬉しくないッス!!」


黄瀬が何やっても動じないのはわかってたことだから諦めてっけど、こっちには効果があったみたいだ。唇を尖らせて肩を落としてる様は…あれだな、犬に似てる。黄瀬とは違うタイプの犬。



「反省したか?」
「…う、…はい…」
「ならいい」


しょぼくれてる頭を撫でると一瞬目をしばたいて、そいつは目尻をほんのり赤らめていた。な…なんかもっと撫でたくなるな…
黄瀬がずるい!と騒ぎだしたから手を離せばそいつは勢いよく立ち上がった。くそ、俺よりでけえじゃねえか!


「がっガキじゃねえんですから!バカ!黄瀬のバーカ!!」
「俺!?」
「さっさと体操着返せよなバカー!!」


そう吐き捨てながらそいつは一目散に駆けていき、廊下の角を曲がったところで見えなくなった。
撫でた手のひらを見つめて、握る。


「あいつ、お前の恋人じゃねえんだな?」
「違うッス恋人ッス」
「あっそ」
「聞いてます!?ちょ、ダメッスからね@@っちは!笠松先輩ってば!」


ああいうやつもいるんだな

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