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(これはひどい)


黒子テツヤは静かに激怒した。
分厚い雲が天を覆い、今にも泣き出しそうな時刻に丁度学校を出ようとしていた矢先のことだった。降りだす前に帰ろうと足早に昇降口を出て五歩くらい歩いたときだったろうか、前触れもなく集中豪雨が彼の頭上を襲ったのは。

どうせ誰にも気づかれないなら、もう天候すら自分を無視してくれと思ったのはこのときが初めてだった。


上から下までしとどに濡れてどうしよう……と立ち尽くしていると、背後から自分を呼ぶ声が。聞き慣れた声に即座に振り向いた。
Tシャツにハーフパンツ姿の@@がうわぁーと苦笑いしながら屋根の下に立っている。


「黒子〜何やってんの〜?濡れたい気分なのー?」
「不可抗力だったんです」
「よくわかんねえけど濡れっぱだと風邪引くんじゃねーの。帰るか戻るかしろよ」
「戻ります」
「いや帰れよ」


ずぶ濡れのまま昇降口まで戻ると、待ち構えていた@@が首にかけていたスポーツタオルを抜き取ってわしゃわしゃと黒子の髪を拭いた。


「部活ですか?」
「うん、室内練だけどな。バスケ部休みだっけ今日」
「はい」
「しっかしずぶ濡れだなー着替えは?」
「ありましたが…全滅です」


さっきの集中豪雨のおかげでバッグ内は浸水しきっている。
教科書類は置き勉しているから難を逃れているが、洗濯するために持ち帰ろうとしていた体操着やジャージは犠牲となっていた。


「やっぱ帰れば?」
「(折角誰もいないのに@@くんを見逃すのは気が引ける)止むまで待ちたい気分なんです」
「なんじゃそら…」
「戻ってきてしまいましたし。ここで会ったが百年目。@@くんの部活が終わるまで待ってるので一緒に帰りませんか?」
「百年も経ってねえだろ。別にいいけどさぁ」



黒子は後ろ手で拳を握りしめガッツポーズ。
先程まで天候を恨みがましく思っていたが今は深く頭を下げてお礼申したい気分である。


「とにかくそのカッコじゃマジで風邪引くし、俺の着替え貸してやるから来い」
「!!」



雨最高。





黒子は自分を抱き締めていた。寒いわけじゃなく、なんかもう全身でこの幸せを噛み締めたいからだ。

サッカー部部室に連れていかれ、ロッカーから取り出されたのは@@の試合用のユニフォームだった。

「ユニしかなくて悪ィな、まー洗ってあっから許せよ」
「洗ってなくても構わないくらいです」
「いやくせえよそれ」


@@は苦笑いだったが、黒子としては本気であった。
黒を基調としたサッカー部ユニフォーム。水色で大きく9の背番号、胸元には**の刺繍がしてある。


「黒子が着るとでかく見えんな、はは」


袖口は黒子の肘近く。裾はすっぽり腿を覆い隠していた。
パンツは腰回りがあっていないのでさっきからずり落ちてきていて何度も引き上げなければならなかった。

しかしそんなことはどうでもいい。

「(こっ……これが…彼シャツ……!!!)」


この充足感は筆舌に尽くしがたい。
洗剤の芳香に紛れて香る@@自身のにおい。
よく黄瀬が@@の衣類をくすねて制裁を喰らっているのを「なんて下等な」と見下していた部分があったが、こういうことが出来るなら盗っていきたくなる気持ちもわからなくもない。


「(しかも@@くんの名前入ってますしね)」
「なんだよ、そんなにユニ気に入ったのか」
「はい、まあ…」
「ならもうサッカー部入っちまえばいいのに。なーんて…」
「悪くないですね」
「や、待て…そんな簡単にバスケ部捨てたらあかんて…」


熱烈に勧誘されたら断る自信がない…口許に手を当てて黒子はくそ真面目に考えていた。
腕を動かすと、ずるりと肩から襟口がずり落ちてきて@@が甲斐甲斐しくそれを引き上げる。


「んーなんか彼女に着せてるみたいね、これ」
「かのじょ……」
「悪くねえよなあ黒子かわいいから〜ぎゃはは、なんって…」


そっと胸に押し付けられた黒子の頭を見て、@@の言葉が止まる。
からかわないでください、とでも返事がくると思っていただけに@@は狼狽えた。

「ご、ごめん冗談だって…怒んないでよ…」
「それでいいです」
「はい?」
「…………………その、僕がかの」


「キャプテェエエエエエエン!!!**が部室でちちくりあってるーーーーー!!!!」


こ の や ろ う



「ち、ちがっ!!てめえこら何言ってんだしばくぞ!!!」
「**校内ランニング20周追加な!」
「待ってよねえ!誤解!誤解ーーーー!!」


@@は真っ赤な顔で開きっぱなしだった部室の扉から走って出ていってしまった。ものすごいチャンスを逃した気がして、黒子は脱力する。
とりあえずさっき邪魔してきた誰かには恨みの念を送っておこう。そりゃあもう心底真っ黒な念を。


(悪くないって言ったってことは、ありってことですよね@@くん)



心のなかで呟いて黒子はユニフォームの襟口を引っ張る。
香り、うつればいいのに。




夕刻、バスケ部全員にこんなメールが届いたそうな。

to 青峰大輝 赤司征十郎 黄瀬涼太 緑間真太郎 紫原敦
title なし

本文
彼シャツd=(^o^)=b


添付画像あり



次の日からやたら衣類を寄越せと@@が言われるようになった原因を@@は今も知らない。



ユニフォーム捏造。
黒子くんはつくづく黒と水色が似合うと思った結果。

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