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きたる、2月14日。乙女たちの決戦日。
昨日買い込んだチョコを鞄に忍ばせた彼らもまた戦士の顔つきで登校していた。目指す場所は@@の腕の中ただひとつ。
深く息を吸い、長く吐き出して黄瀬は己のクラスへ平常心を装いながらふみこんだ。

「おはよーッス@@っち、」
「イッヤアアアアアア!やめてえええええ!!」


おはようのかわりにどかんと一発響いた@@の悲鳴。
古典的にずるう!と足を滑らせながら黄瀬は悲鳴の根元を見やった。

戦争だ。すでに戦争がはじまっている。


「@@チョコ好きだろ?ほら食べていいんだよ、さあ!eatme!」
「なんでお前を食うんだ!やめろ!」
「@@はいあーん!はやく!室ちんよりこっち!」
「あっづい!やめろ敦!!熱い!!」


@@が氷室と紫原に挟まれて指を顔に押し付けられている。
二人の手には湯気のたつマグカップが握られていて、押し付けている指はチョコが滴っていた。クラスメイトたちが@@を見ながらご愁傷さま…という顔でいて、中には合掌している者さえいた。


「なんなのだよあれは…」
「あ、緑間っち…いや俺にも何がなんだか…」

後からやってきた緑間も肩にかけた鞄をずり下ろしながらそれを見た。
紫原と氷室の勢いは止まるどころか競いあってヒートアップするばかり。


「あ!黄瀬!緑間!おい助けろ!助けてお願い!」
「ああ二人ともおはよう。今忙しいからそこから動かないでくれるかな」
「ていうか帰っていいよ」


こちらを振り返りながらチョコを押し付ける指は二人してそのままだ。
いい加減@@頬に穴があくんじゃないだろうか。


「熱いってば!!ホットチョコは押し付けるもんじゃねえ飲むもんだ!」
「俺が飲ませてあげるって言ってるじゃないか」
「何故指で!?」
「@@が俺の指を舐めると思うともうこれしか方法が」
「無理矢理はやめて!おい止めろってばそこの黄色と緑!」


二人の意見は一致していた。
誰が一番手を渡すものか。一番は、


この俺だ!!


覚醒したかのごとく二人が身構えたが、その間をするりと抜きん出て一瞬で@@背に回った影が。
イリュージョンかと見まがう早さで包装をとくと両手で中身を@@の口へゴーーーール!


「ぶっ!!」
「おいしいかい、@@」


赤司である。


吐き出すなよ、と両手で口をホールドし鼻まで塞ぐこの悪行。
じたばた@@は暴れていたが、酸欠になったのかがくりと項垂れながらそれを飲み込んだ。


「死ぬほど美味しかったんだな、よかった」
「赤ちん何やってんの!?」
「赤司、ホットチョコぶちまけられたいのかな」
「野蛮なお前たちのやり口は見ていられなくてね。なあ@@」
「……」グッタリ
「一番赤司が野蛮なのだよ!!」




「出遅れました…」

黒子はしょんぼりしていた。こんな日に限って彼は寝坊してしまったのである。寝癖もそのままに始業ギリギリで@@の元にやってきたのだが、戦争は終着しており激怒した@@が椅子の上に仁王立ちで五人を見下ろしていた。もれなく全員正座だった。あの赤司までも。


「なんで俺を殺そうとするわけ!?死ぬの!俺バレンタインに死ぬの!?女子からチョコの一個ももらえないまま!?そうだよもう精神的に死んでんのにさ!なんで…なんで…!!」
「俺がチョコあげるッスよ!」
「黙れイケメン!俺はしってんだぞてめえの下駄箱がチョコではち切れてたことくらい!死ね裏切り者!」
「聞いてくれ@@、俺はお前のため他の子からは一切チョコをもらってない」
「でも渡されたんだろうが!爆ぜろイケメン!」
「俺だって貰っていないのだよ」
「てめえの机を見ろ隠れファンからの愛が入ってる。潰れろ」
「@@は僕以外のチョコなんかいらないと思って昨日から根回しはしてあるよ」
「え…ちょ、ちょっと待ってなにそれ…?赤司のせいなの…?」


赤司は笑顔で親指をぐっとつきだした。



「もう誰も信じない…!!」



@@が椅子の上にうずくまった。
クラスメイトたちの目には涙さえ浮かんでいる。
なんてあわれなのか。



「@@くん」
「なんだお前も俺を笑いに来たのか黒子ぉ…なにこの空虚…こんなときどんな顔したらいいかわからないよ…」
「笑えばいいと思います」


そっと黒子は鞄から昨日選びに選び抜いたチョコレート取り出した。
差し出されたかわいいラッピングのそれに@@は目を丸くする。


「男の僕からですみません。日頃の感謝の気持ちだと思って受け取ってくれませんか」
「くっ、黒子…!!」


あくまで謙虚に、儚げに。控えめに差し出されたそれを@@涙ぐみながら受け取った。もうなんだっていいわ

「俺の味方はお前だけ!!」


固くチョコを握りしめながら@@は黒子に抱きついた。
抱きつかれた瞬間黒子は頬に朱を走らせながらもそっと@@の背に手を回し、一瞬で笑顔のタイプを変えた。



僕の勝ちだ



唇を片方だけ上げるその笑顔に音を付けるのならニヤァ。
勝ち誇った黒子の顔は素直に受け取って貰えなかった側からすれば神経を逆撫でどころか神経ブチ切られたものに相当する。

「全員休戦だ…目標テツヤ」
「OK、mission start」
「捻り潰す」
「もう黙っちゃいらんねえッス」
「奴の顔面に3ポイントぶちこんでやるのだよ」


「てめえら動いたらチョコなしな」


臨戦態勢の五人を止めた鶴の一声。
黒子から腕を解いて、@@はどっこいしょと足元にあった紙袋をおもむろに机に置いた。


「これは?」
「黒子には普通にやるよ〜。ケーキ焼いた」


なん……だと…!!


「悲しくってなもう!!母ちゃんからすらもらえねえ!ならもう自分でやるわって昨日作っちゃってさあ」
「いただきます」
「はいよフォーク。お前らもほしいなら言うことあるよな」



「「「「「すいませんでした」」」」」


「今回だけな。さっさと食え」



アンハッピーバレンタイン


(んまー)
(紫原っちそこは俺の陣地ッスよ!)
(黄瀬、お前こそ盗るな俺のを!)
(@@ジャパニーズあーんしてくれないか)
(ジャパニーズってつければ許されると思ってんのか)
(じゃあ僕が@@にあーんしてやろう)
(赤司くんさりげなく僕を肘で押さないでください)

※青峰がいないのはこの執筆時期にまだ登場していなかったためですすみません…

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