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赤、ピンク、黄色…ファンシーな暖色で構成されたフロアはどこもかしこも「バレンタイン」の文字で溢れ返っている。
そのフロアの一角で、帽子にサングラス、まるで犯罪者予備軍のような装いで黄瀬はひたすらガラスのショーケースの中に鎮座するチョコレート達とにらめっこしていた。

「(トリュフか、いいやブラウニー…@@っちなら何でも食べそうッスけどどうせなら特に好き!っての渡したいッスよね…)」

反応を想像しては、にやり。苦笑で見ていた店員も十数分それが続くといい加減営業スマイルもひきつってくる。


『くれんのか?これ』
『@@っちのために選んだんだから当然ッスよ!』
『俺の好みがわかるなんてさすがだな黄瀬…いや涼太、俺にはお前だけだぜ』
『@@っち…!!』

彼の脳内ではすでにチョコを受け取った@@が社交ダンスよろしく黄瀬の背を支え熱く愛を語っている。おめでたいことである。


「だから、少し粗暴でぶっきらぼうで頭が弱いやつの好みのチョコだ」
「ええと…そう言われましても…」
「くそ万事休すなのだよ…!」


あんたの頭が万事休すだ。
黄瀬は横から聞こえてきた切羽詰まった声に思考を止めて振り返ってしまう。190センチオーバーの長身折り曲げて緑間が黄瀬と同じように隣の店のショーケースにへばりついていた。


「何やってんスか緑間っち…」
「き、黄瀬!!何故ここにいるのだよ!ち、ちがうぞ決して@@のチョコを買いに来たとか渡したいからとかではないのだよ!チョコは明日のラッキーアイテムであって…」
「苦しいッスさすがに」


聞くまでもなくすべて語った緑間は志を同じくしたライバルだ。
バチぃっ!と二人の間に火花が散った。


「似合わないことはよしたほうがいいんじゃないッスかね」
「そのまま返すのだよ。お前は大勢の女子からもらう側だろう」
「俺だって渡したい時だってあるんスよ!!!」


火花の勢いは凄まじくなる一方で挟まれざるをえない店員二人は顔を見合わせた。どうしよう、いいや私にもわからん。アイコンタクト終了。


「ではここの端から端まで全部もらおう」
「ぜ、全部ですか!?」
「全部だ」
「か、かしこまりました…お支払は…」
「カードで」

二人は同時に視線を横へ。
目立つ赤髪の男が漆黒に輝くカードを会計のトレーに乗せていた。


「……赤司っちもかよ!!」
「やあ二人とも。店の人に迷惑だから早く諦めて帰った方がいい」
「どうして買うという選択肢がないのだよ」
「@@にチョコを渡すのは僕一人でいいからな」


んなこと許すか!!と二人も端から端まで買ったるわと財布を開いたが、所詮高校生の懐。


「「とりあえずこれひとつ…」」
「「あ、ありがとうございまーす…」」


店員たちはとても気になった。この濃い三人組からチョコを渡される謎の人物が。そして願わくば彼らの気持ちが報われますように…と真心をこめて丁寧にラッピングしてあげるのであった。



ちなみに言うと彼らが来る前に黒子も別の店で桃井に付き添ってもらってチョコを買っていた。

「ねえテツくん、あそこにいるのきーちゃん…」
「見てはダメです桃井さん」
「でもあのチョコ振り回してるのミドリン…」
「似ている人です。眼鏡って共通点があるだけの」
「じゃああの大量のチョコ抱えてる赤司くんみたいな人は…」
「赤いだけです。季節外れのサンタクロースじゃないですか」


考えることが一緒すぎて黒子は内心舌打ちの連続だった。


「(今のうちに彼らのチョコを影に葬っておくべきでしょうか)」

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