赤司が数秒両の瞼を閉じ、グワッ!と音が聞こえそうなほど勢いよく見開く。恐ろしい形相に@@が一歩引いた。


「この教室にだけ結界を張った。向こうからこの場所は見えない」
「赤司何でも出来んなおい……」
「当然さ。僕だからね」
「つーわけで、ここだけは安全らしいからこっから出んなよ〜」

言われなくても出ねーッス!!黄瀬が青い顔で叫び返してきた。@@と赤司以外は教室の机やロッカーを漁り、何か食べ物はないか探し回っている。紫原が誰かの未開封のポッキーを見つけて早速食い荒らしている。


「あとは緑間な……」
「真太郎の裸眼の視力は最低だからね…1人では帰ってこれないだろう」
「俺が探しに行くからいいよ」
「許可できないな。@@まで戻れなくなれば本末転倒だ」
「そこは俺考えてっから。…青峰ー!」


食べ物を探していたはずなのに何故かどちら様かの置き勉ならぬ置きエロ本を熟読していた青峰を呼び止める。赤司がああ、と頷いた。


「あんだよ」
「えー、緑間のバッグ…これか。これの匂い嗅げ。んで覚えろ」
「あぁ?何で!」
「緑間探しにいくんだよ。お前の鼻で」


@@は知らないが、一度使ったことのある手段だった。今ローリスクで確実に緑間を探し当てることができるのは赤司の眼より青峰の鼻だ。まだ満月は先だが能力を使えないわけではない。
しかし、である。


「……出たくねんだけど」
「俺がついてくから」


@@がついてきてくれるのは何よりだが、
青峰としてはあんな怪奇現象を目にした後、もう一度あの異世界に足を踏み入れることは出来たらしたくなかった
……しかし、緑間には色々と借りがある。


「あーーーっくそっ!!貸せそれ!」


男青峰大輝、腹を括る。


「……なんかこいつのバッグばあちゃんちみてぇな匂いすんだけど」
「やめろ笑わすな」


青峰が@@と行くことになり、俺も俺もと黒子や紫原も行くと豪語したが人数が増えるとその分見つかりやすくなり危険が増す。苦渋の決断であったが、赤司も@@と青峰を二人で行かせることを選んだ。


「僕はここから出れない。結界が切れてしまうからね。…くれぐれも大輝と何もないように」
「あるわけねーだろ」
「あるかもしんねーだろ」
「なんかあったら青峰っちの命ねえッスよ!!」
「つーか何も無くても峰ちん帰ってきたら捻り潰すかんね」
「@@くん…気をつけてくださいね」


「おー。じゃ赤司、こっちは任せた」
「ああ。真太郎を頼むよ」


盛大な見送りを受けながら@@はすぐに引き戸を閉めた。中は電気がついていたはずなのに閉めたとたん真っ暗になり、声も気配もしない。結界とはこういうものなのか。すげーや。



「とりあえず倉庫のほう戻ってみるか…緑間の奴動き回ってなきゃいいんだけど」
「おい…おい!@@!」
「何だよ静かにしろよ」
「手!」
「手ぇ?」
「手貸せ!!」
「………しょうがないでちゅねー大ちゃん怖がりでちゅからねー」
「ぶん殴るぞてめえ」


思った通りというか、やはりドアの外は別世界だった。長い洞窟の中にいるような風鳴りの音がして、ひんやりしているのにどこか不快な風が頬を撫でていく。
大嵐が窓を叩いているのだが、音がやけに大きい。
雨粒が窓にぶつかっているというより窓を拳で何度も叩いているような大きさだ。
腹は括ったが不安がないわけじゃない。青峰は生命線ともいえる@@の手をしっかり握った。
ああ、こんな状態じゃなければ@@と手を繋ぐことをもうちょっと喜べただろうに。


「青峰手湿っぽい……」
「ほっとけ!!」


色んな場所から音がする。話し声のような、呻き声のような。あとさっきから後ろをひたひたと別の誰かの足音も聞こえるような。


「青峰、後ろ向くなよ」
「や、やっぱいんのか!?いるよな!?」
「認識すんな。見えてるってわかると前に来る」


そう言われると振り返りたくなるが取り返しのつかないことになっても困るので、青峰は@@にならい前を向いてひたすら大股で歩いた。


「青峰めっちゃ顔ひきつってておもしろい」
「るせー!好きでなってんじゃねえよ!」
「じゃーおもしれー話でもしながら行くか。えーとそうだな…去年近所で噂の幽霊トンネルにいったんだけども」
「冒頭から面白くねーじゃねえかタコ!!」
「ええ…この話のオチの正体は幽霊じゃなくてでっけーカブトムシだったってやつなんだけど」
「それは聞く」


小学生の下校風景のごとく、無邪気に話ながら歩いていたらいつの間にか倉庫に着いていた。

「やっぱいねえよなぁ…とりあえずあいつの眼鏡だけ探してくか」
「電気つかねえぞ」
「さっき割れたからな〜いいやドア開けっぱにしといて」

締め切ってしまうよりは外のほんの少しの明るさがあったほうがいい。@@はそう判断し段ボールを掻き分け始めた。



「……あ?」

廊下とドアの境目にいた青峰もそれを手伝おうとしたのだがふいに肩に落ちてきた水滴で足を止める。
雨漏り?
反射的に上を見た。


文字に表すなら鳴き声はギィィィィィィィィ。
廊下の幅目一杯の体格をした、長い髪の女が天井にべったり張り付いている。体長は4mくらいだろうか。体は蜘蛛のように天井側に向いているのに対し、首は何故か逆さまにならず真っ直ぐ青峰を見下ろしていた。あ、首がひんまがってんだ。だからか。


「ばああああああああ!!?!?」
「お゙っ!?なんだお前急に閉めんな!暗いだろうが!」
「そそそそ外ォ!!!廊下!天井!!サダコ!」
「はあ?」

スマホのライトだけを頼りに、@@が青峰をどかせて扉から顔を出した。

「あ、どうも。お宅大きいんで入れねっすよ」

まるでご近所さんにするかのように会釈し、再度ドアを閉める。
そして青峰の肩を掴み、ドアの前へ立たせる。

「じゃ押さえといて」
「バカかァ!!!!!」


青峰が目玉を飛び出さんばかりに見開いてがなる。
背中をくっつけたドアから、向こう側からガリ…ガリ…と何かを擦り付けるような感覚が伝わってくる。


「引っ掻いてる!!引っ掻いてる!」
「俺が言ったら入ってこねえから大丈夫だっつの…あ、眼鏡あった」

段ボールの隙間から打ち捨てられた眼鏡を発掘。あの騒動の中でも割れず壊れず綺麗なままだ。なんと頑丈な眼鏡だろうか。緑間が人事を尽くしているせいかもしれない。それをポケットにしまい、@@はドアノブに手をかける。


「よしじゃあ行くか」
「はぁ!?どうやってだよ」
「どうって、ドア開けんだろ?出てくだろ?あとは走る」
「クソバカ無計画野郎!!」
「なんだとオラァ!!おめーに言われたくねえよ!!」


一頻り言い合ったあと、埒があかないと判断した@@が両手を待て、つき出す。大声で言い合っていたのでどちらとも肩で息をしていた。

「いいか、よく聞け、俺と、お前の、足ならダッシュすれば、撒ける………かも」
「かも、なんだろうが……!!」
「ダメなら、そんときは、俺が出る……はぁぁぁ……!こんなとこで疲れんのはバカすぎんだろ」

またバカって言ったな、と青峰が食って掛かろうとしたが今言ったばっかだろうが!という@@の一喝でぐっとこらえた。青峰は少し大人になった。

「いいか、321で出るから左側に走れ」
「わかっ…た」
「不安がんなよ。らしくねーな……俺がいるんだぞ」


何があっても守ってやるよ。
その時青峰は、大昔に幼馴染みが見ていた少女漫画をチラ見したときの記憶を呼び起こした。
キラキラした男にアホのようにときめく目のでかすぎる女。あのときはどうやったらそんなときめくんだよバカバカしいと嘲笑ったが、今ならわかってしまう自分がいた。


「行くぞ!」
「あーーー!どうにでもなっちまえ!」


@@がドアを蹴破って外へ出る。
手で開けねーのかよ!!
5
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