夏が来た。


衣替え移行期間も過ぎ去り、最後に残った緑間も半袖のシャツに腕を通すようになった頃には
@@は今の状況に慣れきっていた。
例えば今のように、ただスマホでテレビを見ているだけなのに周りをカラフルな連中に囲まれ、膝の上まで占領されているような状況に、だ。

《台風は!いまだ勢力を伸ばし…直撃している関東は大変危険な状態で…!!不要な外出は控え…キャー!!》
「おいお天気お姉さん飛んだぞ」



大雨洪水、強風、雷。ありとあらゆる危険な警報の通知が先程から鳴り止まない。夕方に上陸した台風がアホのように猛威を振るっている。
サッカー部は台風の影響で休みだったのに、バスケ部は体育館を使用するため部活を決行。ミニゲームが白熱しいつもの6人は殊更終了が遅くなった。台風に巻き込まれる前に@@は帰宅しようとしたのに紫原が一緒に帰るとごねたため、終了を待っていたらこれだ。

教室の窓がガタガタ音を立てるほどの豪雨を見て@@はすげ〜、と呟いた。


「お前たち、許可が下りたよ。今日は学校に泊まる」
「すっげ!学校って泊まれんのかよ」
「まあ状況が状況だからね。非常用の物資があるからそれを使っていいそうだ。…それで?テツヤはいつまで@@の膝に乗っているつもりだ?」
「台風が怖いので」
「嘘をつくなお前がそんなタマか」


廊下で学年主任と連絡を取っていた赤司が携帯片手に戻ってきた。今は真顔で@@の膝の上にて読書に励む黒子と火花を散らせている。その報せを受け、青峰が沸き、黄瀬が万歳しながら跳び跳ねる。

「やった!@@っちとお泊まりじゃないッスか!!」
「おい緑間〜お前今日ウノ持ってたろウノ。貸せよ」
「何故青峰に貸さねばならん。これは俺のラッキーアイテムなのだよ」
「俺1人で使うわけねーだろうが!」

目に見えて浮かれ出す青峰や黄瀬とは違うものの、緑間もどことなく嬉しそうではあった。
しかし不服そうなのが1名。@@の頭に顎を置きだらーっともたれかかる巨人。紫原である。

「赤ちーんもうお菓子ないんだけど〜。部活ん時全部食べちゃったし」
「流石に菓子類の備蓄はないな。我慢しろ敦。というか部活中に食うんじゃない」
「お腹空いたお腹空いた!!ポテチ食べたいチョコ食べたいまいう棒食べたいー!!」
「敦うるさい!あと喋るたびに顎いてぇ!」
「紫原っちーガムならあるッスよ」
「黄瀬ちんがくれんの大体まじーからいらない」

紫原はこんな調子だが、@@も内心ウキウキしていた。若干面子に不安は残るが、学校に宿泊するなんて滅多に経験できることではない。

「つーか赤司、学校いていいんなら体育館もまだ使ってていいってことだろ?」
「まあそうだな」
「だってよ。@@、バスケしようぜ」
「俺バスケ出来ないっつってんだろ」
「あっ、俺も俺も!俺も行くッス!」
「待て大輝。意欲的なことは結構だが今日の練習は一旦終了だよ。@@も涼太も、この先何が控えているか知らないわけじゃないだろう」


この先、と言われて三人は同じ方向に首を傾げた。
赤司がにっこりと笑顔で告げる。




「期末考査だ」




「ぃよぉーーーっし!バスケやるか青峰ー!@@くん頑張っちゃうぞー!行くぞ黄瀬早くしろ走れ!!」
「早く出ろ!バカ黄瀬つっかえてんだよ!」
「待って上履き脱げたッス!!」

不吉な単語を聴くや否やバカ三人が一目散に教室のドアへ突っ込み、一気に出ようとしたせいで枠に引っ掛かりじたばた足掻いている。
期末考査、なんて聞かされてこの後に待ち構えていることなんて一つしかない。三人は察しだけはよかった。


「真太郎」

赤司が人差し指で三人を指差すと、緑間がポケットから呪符を三枚取りだし指で弾き飛ばす。
磁石のようにそれらは三人の後頭部に吸い寄せられ、ぴしゃりと張り付いた。

「ぁだッ!」
「ぐえっ」
「重ッ!!」

途端バランスを失ったジェンガの塔のごとく、三人が崩れ落ち上から青峰、黄瀬、@@の順で折り重なって床に沈んだ。
ぴくりとも動かない三人の横に屈む赤司はやはり笑顔だ。後頭部に張り付いた呪符には「勅令 勉学」と大きく記されている。

「喜べ。真太郎に特別に作らせたんだ。お前たち専用だよ。勉強以外の事が出来なくなるプロテクトがかかる」
「嬉しくねえよ……」
「@@っちいいにおいするッスね…シャンプーどこのッスか…」
「今ここで聞くな…嗅ぐな…早くどけ……」


逃走劇はあっさりと失敗に終わり、奇妙だが心踊るイベントから地獄の勉強会へとステージは変わったのであった。


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