花宮の携帯に原から着信があったのは家にも帰らず、ふらふらと出歩いている途中のこと。河川敷の橋の上だった。

「はぁ!?あいつが来た!?」
《おー。すっげえ追われてて花宮の家知らねえかって。まだ教えてないけど、言ったら花宮んち行くんじゃない?》

電話口の向こうにいる原は教えていいん?とあっけらかんに言ってくる。登校してない時に限ってあの野郎…!と花宮は歯噛みして橋の欄干に寄りかかる。

「…原ァ、お前何もするな。関わらなくていい」
《えーなんか面白そーなのに》
「首突っ込むなつってんだよバァカ。余計なことしたらどうなるかわかってんだろうな」
《おー怖っ》
「だから………―――あ?」
《え?何?》


どこからか匂いがする。血の匂いだ。
それ以外の匂いについて花宮の嗅覚は人のそれとさほど変わらないが血液ともなれば距離があっても気づく。これだけ強く匂うということは血の匂いの主はすぐ近くにいるということ。

「(これ………あいつの…)」


吐き出しはしたが、@@の血は一度噛んだときに味わっている。
親族でもない限り同じような匂いは出せないはず。携帯からは原の声が聞こえ続けているが予告なく通話を切り花宮は急いで橋から下を覗き込んだ。



「おいどうすんだよこいつ!」
「その辺に捨てとけ!さっさと逃げんぞ!」


怪しい男二人が何か揉めており、その足元に転がっている見慣れた制服の後ろ姿を見て花宮は形振り構わずそこから高架下に飛び降りた。



突然上から降って沸いたのは気絶した子供と同じ制服を着た男。
今度こそ逃げようとしていたチンピラ二人組だったがまたしても新たな第三者の投入につい足を止めてしまう。律儀な男達である。


「おい…@@…!聞こえねえのかこのバカ!」
「……」


どこからかチーンという物悲しい音が聞こえてきそうなほど@@は見事に白目を向いて気絶している。
経緯はわからないが@@が血を流して倒れている。そして怪しげなこの二人。
導き出されるのは全てこの男達が悪いということ。


「おい」

@@をその場にそっと寝かせ花宮はゆらりと立ち上がる。
普段隠している牙が怒りに任せ獰猛に伸びてきているのがわかった。
爛々と光る人ならざる目の光に男二人はその場で腰を抜かしてしまった。



「どこから壊してほしいか言ってみろよ」










「いつまで寝てんだとっとと起きろバァカ」
「オギャッ!やんのかおらあああああ!…あれっ?」
「何一人で騒いでんだよ。バカすぎ」
「…え?花宮?なんでいんの?あれ?チンピラは?」
「あそこ」

目が覚めると@@はさきほどの高架下に座り込んでいた。隣には花宮。
花宮が指差した先にはパトカーに押し込まれているあのチンピラの姿が。何故かボロボロになっていた。しかも押し込まれている、というか自分達から入っていっている。しきりに化け物が!と叫んで何かに怯えているようだった。
高架下は数人の警察官がうろついており野次馬もちらほら見えた。

「えぇ…?お巡りさんいっぱいだし…何があったの…」
「お前が呑気に寝てる間に全部終わったよ」
「お…俺の見せ場は!?」
「あるかそんなもん」


言いながら花宮はさっさと帰るぞと立ち上がる。立ち上がりながら肩をこきこきと鳴らしている…そういば今まで自分はどこに寝ていたのか。

「…もしかすっと肩貸してくれてた?」
「ハァ!?お、お前相手にそんなことするわけねえだろ!頭ぶつけて更にバカになったんじゃねえの」

そうだ。確か何かに蹴躓いて派手にスッ転んだはず。額に衝撃が走ったのも覚えている。
ぶつけたと思われる場所を触ったがたん瘤も傷もない。


「…なんでだ?」
「おいチンタラやってんなよ。置いてくからな」
「ていうか花宮何でいんの?…つか!俺探してたんですけど!」

探していた、と言われて少なからず花宮の心は踊った。しかし@@の前でその喜びを露にすることなどプライドが許さず彼は自分の頬にビンタした。

「クソが…!クソがッ!」
「何一人で面白いことしてんだよ」
「うるせえついてくんな!」
「帰るぞって言ったじゃん!」
「一緒になんて言ってない!」
「なあ花宮〜」
「うるせえ!」


もうお前なんか知るか!と吐き捨ててそのまま走り去ってしまおうとした花宮だったが予告なく@@に腕を掴まれ逃走はあっけなく失敗。眉間にこれでもかというほど皺を寄せて振り返ればいつになく真面目な顔の@@がそこにいた。


「もうこれっきりとか言ったけどさ、なんかそれってつまんねえし。これっきりっての取り消ししていい?」


待ち望んでいた答えが、望んでいた人物から発された。小さくクソッタレ、と漏らして花宮は強く唇を噛んだ。


「だったら最初から言うなよバァカ」


悪態をついたのに@@の顔が笑っていたのは、花宮の耳が真っ赤だったから。



さよなら嘘つき
(ひ…ひえ…着信66件…)
(……お前何したんだよ)

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