『からかってごめんって。この件についてまた話そう』
『聞いてる?』
『変眉!』
『オタマロ!』

何度かチャットを飛ばしてみたが返事が一切なかったのでいい加減怒らせてしまったかと一言花宮にお詫びを入れにいくつもりだった。しかしこの前の一件があったせいでやたらキセキたちというセキュリティポリスがついてしまい埒が開かなかった。だから逃げた。
追っ手を撒くにはもう校外しかないと放課後なのをいいことにそのまま逃げてきてしまったが、また部活をサボってしまう結果となったのは少し痛手だった。
バスケ部も部活があるので、これ以上の追跡はないだろう。


眺め続ける端末の花宮とのチャットに返信はやはりない。
あとは原からの連絡を待つしかなかった。


「はあ………」


重いため息が出た。


「キャアアアアアア!やめて!誰か!誰かぁ!!」
「うるせえ大人しくしろ!!」


突然どこからかただ事ではない大声がして@@は辺りを見渡した。
いつも帰宅道に使っている普通の住宅街だ。

曲がり角に面したところで勢いよく体格のいい男二人が飛び出してきた。咄嗟の所で避けたので衝突は避けたがまんまと逃走を許してしまう。
パーカーのフードをすっぽり被っていて顔までは見えなかったが男が持つには可愛らしすぎる女物のバッグだけはいやに目立った。
逃げてきた方を覗けば乱暴されかけたのか衣服を乱した女性がアスファルトの上にへたりこみ泣いているではないか。


「おいおねーさん大丈夫か!」
「どっ泥棒…!私のバッグ…!!か…会社のお金が…!」
「おねーさん首んとこから血が…あ、」


長い髪の間から首もとに血が垂れている。
見覚えのあるギザギザな歯形。
まさかとは思うが今の二人組…。
ふいに思い出したのはもちろん花宮にも言われた通り魔再発。


「っすぐ警察呼ぶからもっと人通り多いとこ行って!バッグはあれだ、…俺がなんとかする!」


自分が着ていたジャケットを女性に羽織らせ、逃げていった男達を追う様は正しくヒーローであったと女性は後に語る。



「なあもうやばいって…!やめようぜ、ケンの二の舞になっちまう!」
「うるせえな!仕方ねえだろ、今のは失敗しちまったけどもっと上手くやれば…」
「でもよお…!」

人通りの少ない高架下まで逃げてきたところで男二人は足を止めフードを脱ぎながらその場に膝をつく。


「ケンは一人でやろうとしたからダメだったんだよ、金独り占めしようって魂胆でさ…」


一連の通り魔事件は模倣犯でなく複数犯だったのだ。
奪ったバッグから女物の財布を取り出し中を見てみればそちらは大したことはないものの、どこかの会社のロゴが入った封筒の中には結構な額の金が入っていた。


「見ろよすげえぞ!当たりだ!」
「すげえけど…こんな額じゃ警察がもっと…」
「バレなきゃいいんだよ!こいつと今までの金足して車買えばもっと上手くできる!」
「へえーどんな車買うの?」
「まあでかいやつを…えっ?」




普通に受け答えしてしまったが今の声は誰だ?
さも当然のように二人の間から首を突っ込み物欲しそうな顔で封筒の中を覗き込んでいるこの男。


「う、うわっさっきの…!」
「いいなーそんだけあったら弁当しばらく困らねえわ」
「なんだてめぇ!」
「なんだチミはってか?そうです私が…いやここ名乗らないほうがカッコいい気がすんな」


自分を指差し名乗るのかと思えば何事かぶつぶつ呟いて考え込んでいる。
さきほどすれ違っただけの学生だ。まさか追いかけてくるとは思わなかったが一人で何ができるのかと冷静になった男の一人は乾いた笑いを漏らし焦っていたもう片方も相手が子供とわかると余裕を見せ始める。

「なんだよ、俺ら捕まえようってか?ただのガキがバカじゃねえのか?」
「帰ったほうがいいよ、痛い目みる前にさあ」
「おいやめろよ!そんな典型的なやられチンピラの台詞!いいのかフラグ立てたら瞬殺だぞ!」
「訳わかんねえこと言ってんじゃねえよ!」

男が上着からナイフを取り出すと@@はぴくりと眉尻を上げる。
動揺したかと男はまたにやついたが、@@は臆することなくこちらにずんずん近づいてくる。


「おっおい!止まれ!ブッ殺すぞ!」
「そんなチンケな刃で俺が止まるかよ、俺止めてえなら村正くらい持ってきな」


決まった…と@@は思った。
かつて赤司の父に本物の刀を向けられたことがあるくらいだ。こんなナイフではびびりもしない、進むことを躊躇わない。
@@もまたチンピラのことを舐めくさっていた。
彼もまたフラグをおったてていたのである。


ガッ


「アッ」


ずしゃっ
ゴチンッ!


@@の足元はコンクリートなどで舗装がされていない土が剥き出しの地面だった。そこに窪みがあり足を取られた@@は転んだ先にあった土手のヘリ(石製)に額をぶつけて動かなくなった。


「…えっ…え?」
「えっ…ど…どうしよ…」

残された二人はわたわたと焦るのみである。
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