これで取り返せる…前回花宮はそんなラスボス臭漂うモノローグで締め括ったわけだが、実際そのきっかけへこぎ着けるには全うな人付き合いを今までしてこなかった彼にとってなかなか難しいことであった。
自室で携帯端末の画面に映るまっさらなメッセンジャー画面を睨み付けてもう十分は経ったか。
特徴的な眉の間に刻まれた皺を更に深くし、彼はカッ!と目を見開くと恐ろしい早さで文字を打ち込んだ。


《この前の通り魔、また出たって知ってるくぁ》


「ギャッ!誤字!!」

かっこつかないトゥナイト…肝心な所で誤字が発生しなんとか訂正しようともLで始まる某メッセンジャーは無情にもその要求を拒否し、彼はがむしゃらに画面をタップする。初恋に戸惑う少女でさえ打ち間違いでここまであわてふためきはしないだろう。その慌てようをしってかしらずか、会話の相手はすぐさま嘲笑うように既読の印を送りつけてくる。


《くぁ(笑)》


久々の会話第一声が嘲笑の言葉とは世の中クソだと彼は奥歯をぎちりと鳴らす。


《見るべきはそこじゃねえだろ》
《くぁ(笑)(笑)》
《殺すぞ》
《殺すのくぁ》


端末を壁にぶん投げてしまいたい。


《まー前座はこんくらいにしてな、知ってるよ今日緑間から聞いた》

内容にそぐわない、白いハゲ頭のキャラクターが目をキラキラさせているスタンプと共に送られてきたメッセージの中にある名前に少しイラッとしつつすぐさま返事を打ち込む。

《どうすんだよ、また調べんのか?》
《めんどい》

こいつ…!!

お前が持ちかけたんだろ、やられっぱでいいのかと乱暴に画面を指で叩いた。どんな形でもいいから花宮は@@から近づいてきてほしかった。こちらから望んで、求めるなんて己のプライドが絶対に許さない。


《花宮の名前は出してないけど、通り魔の犯人探してたって言ったらしこたま説教された》


誰とは言わないが容易に想像はついた。
目を話せば突拍子もないことをやってのける@@を過保護なやつらが半ば監視する体でいることも同じクラスの氷室を見ればわかった。
ガードが固くてうかつに近寄れなくてね、と影のある笑みを浮かべぼやいていたのを知っているからだ。


《これ以上なんかしたらあいつらに花宮のことバレる》


あくまでこれは@@が花宮の安全を守ろうとした結果。
心の隅でそのことは理解できたが、やはり@@の中心にあるのが憎きキセキの世代であるということは納得できなかった。
反論の余地はいくらでもあった。あの手この手で丸め込むのも花宮の話術があればできただろうが、そこまで必死になっている自分が恐ろしかった。

《もういい》


その後の返信は見ていない。








「@@!俺に会いに来」
「てません。花宮いますか」
「何でそんな他人行儀なんだ、俺と@@の仲じゃないかmy kitty…」
「いいから花宮出さんかい俺のさぶいぼが爆発する前にィ!!」

にじり寄ってくる氷室から自分を抱き締めつつ後ずさり教室の中に花宮らしき人物を探すが、それらしき姿は見受けられない。
教室のドアから一メートル遠ざかったところで誰かに背中がぶつかった。

「んぁ〜?久しぶりじゃん噂のイチネンセー」
「どなただアンタ」
「言葉遣いめっちゃくちゃね。俺原ー。花宮とは腐れ縁?みたいな?」

それで前が見えるのかと聞きたくなるほど長い前髪を垂らしチューインガムを膨らます謎の男が現れた。
悪目立ちしそうな奴なので、@@としてはお近づきになりたくないが花宮の名前が出たなら話は別だ。

「花宮……センパイ、いない?」
「あいつ来てないよ。探しても無駄じゃない?」
「あっそ、ならいいや」
「まあまあちょっと待ってよ。単刀直入に聞くけどお宅花宮の何?」
「何って……ただの後輩だけど…」
「"ただの"後輩ねぇ」

なんの変徹もない後輩にあの花宮がそこまで執着するものか、と原はじっくり@@を眺めたが本人は本当にそう思っているらしくただ目をぱちくりさせるだけ。
ふいにただしばたいていただけの目がある一点を見てハッとし焦りの色を見せた。


「いないならいい!じゃあ家とか知ってる!?」
「家?まあ…」
「ちょっと手かして!」

原の手を強引に引っ張り@@はポケットからペンを取り出すと何やら文字を手の甲にぐりぐりと書いていく。どうやら何かのIDのようだ。

「それにあとでチャット飛ばして!」
「何急に…ナンパ?」
「んなわけ…!「いたッスー!!あそこ!」ぬぅっ追っ手!じゃあなよろしく!」


お願いのポーズで@@は原にぱちんと手を合わせ脱兎のごとくその場を立ち去った。恐ろしいほどの逃げ足。
その後間髪入れずにやたらカラフルな連中が鬼の首でも取るような勢いで@@を追いかけてきた。


「総員追え!逃がすな!!」
「紫原!階下から回り込むのだよ!」
「もう黒ちんと峰ちんが行ってるよ〜」
「ダメッス@@っち今窓から逃げた!」
「あいつは本当に人間なのか!?」


ドタバタドタバタドタンドタン


「……討ち入り?」


嵐が去った後のように廊下は突然静まり返った。誰もがどうしたキセキの世代、と首をかしげている。
手の甲のIDを見返していると原の肩にぽん、と誰かの手が置かれた。


「原。よくも間に割って入ってくれたね」
「げっ氷室…い…いや別にそういうつもりは…」
「ぽっと出のモブがいいご身分じゃないか」
「それ自分だってちょっやめ」
10
/ /
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -