必然的に、花宮は授業等のどうしようもない場合以外は@@と行動を極力共にしなければならなかった。理由は単純明快。キセキが恐ろしいからだ。@@がいれば大抵のことは@@が誤魔化して切り抜けられる。花宮一人で出くわしてしまえばその場で即ジエンド。

一緒にいたらやられない、しかしいる時間が長くなればなるほどキセキの世代の風当たりは強くなる。
見つかったら何をされるか…。
デッド・オア・アライブ…平和なはずの学生生活はどこへ。


この地獄のような日々はいつ終わるのか。


「アラヤダー!花宮ちゃん似合っウワハハハハ!!!」
「どういうつもりだてめぇ…!!!!」
「狙われやすいのは女と聞いたからだ…フフッ」
「じゃあてめぇがやれよ!」
「俺のタッパ考えろよ。どう考えても花宮のほうが適任じゃん」
「俺だって体格あんだぞ…!!」


地獄だ!悪夢だ!
まさかこんなことになるとは思わなかった。

今の花宮は@@がどこからか拝借してきたという帝光学園「女子用」制服を身に纏っている。あつらえたようにジャストフィットなサイズ。
スカート丈とハイソックスの絶対領域も素晴らしい黄金比。
黒髪ロングのウィッグも完備で至れり尽くせり、花宮まこちゃんの出来上がりである。


「よしいくぞう花ちゃん」
「殺すぞ」
「我慢してよ。犯人探すためなんだから」


一連の事件が起こりやすい日没後の時間を選び、とくに狙われやすい女子まで用意したこの囮捜査大作戦。絶対に知り合いには見られたくない光景だ。こんなことなら疑われたほうがましなんじゃ、花宮はそう思った。



「これでどうすんだよ」
「ひたすら街を徘徊する」
「補導されんだろが」
「サツなんて花宮の色仕掛けでオヤコ、間違えたイチコロさ」
「わかったまずてめぇを殺すとこから始める」
「まあそんな怒りなさんな」


宥める@@の顔はこれ以上ないくらいに輝いていた。完璧にこの状況を楽しんでいる。いいご身分だな!と花宮は怒りを込めて肩に回ってきた@@の腕をつねりあげた。



「痛ェよ!」
「よかったな!!」



@@と花宮は、端から見ればお互いに背が高くて釣り合いの取れているお似合いのカップルに見えた。声さえ出さなければ中性的な顔立ちの花宮はよくよく見ない限りぱっと見女子と見受けられる。


「あーあ…何で俺女装した男と歩いてんだろ…」
「おい言い出しっぺ…!!!」
「彼女ほしいなあ…」
「そんなんだから出来ねえんだろ、ケッ」
「あんだとてめえ」


口を開けばこんなだが。
こうしてちぐはぐな二人の囮捜査大作戦が幕を上げたのである。








同時刻、駅前のマジバの窓際の一角にて黒子は少し珍しい人物と顔を合わせていた。


「悪いな、席座らせてもらって」
「いえ構いませんよ。満席みたいですし」
「チーズバーガー作るから10分待てってよー」



同じクラスの火神はともかく、ひとつ上の学年である氷室と同席でジャンクフードを食べることになろうとは思っていなかった。
といっても、黒子はバニラシェイクを啜っているだけだ。食欲はトレーにうず高く積まれた火神のハンバーガーの山を見ているだけで失せる。しかもまだ追加するなんて火神は視覚から黒子を殺すつもりなのだろうか。


「タイガは相変わらずよく食べるね」
「そうかぁ?普通だろ」
「普通じゃないと思うけど、もう一人よく食う奴知ってるからなんとも言えないな」


口の中のものを飲み込む前に次の一口を口に押し込む火神の後ろに、氷室は誰か別の人物を見ているようだった。恋する乙女のように頬を赤らめていてそれを見せられる火神が青ざめている。

よく食う奴、その単語を耳にして黒子の口からストローが離れた。



「誰のことを言っているのかは大体察しがつきます」
「えっ誰。辰也顔が変だぞ。おいこっちくんな」
「想像されるのは勝手ですが、氷室さんの頭の中で彼を汚されるのはいい気がしません」
「汚す?まさか、あいつは俺のangelだよ」
「氷室さんのじゃないです」
「君のものでもないだろ?」
「おい俺を置いてくなよ」


何で二人は目からビーム出してるんだろう…こわい…
関わってはいけない気がして、火神はハンバーガーに集中することにした。気を紛らわせるため6個目のチーズバーガーの包装紙を解きながら、火神は窓の外を通りすぎていくカップルをなんとなく眺めていた。


「(でけえカップルだな…彼女の方眉毛おもしれえ…てかうちの学校か…)」


短い眉毛を吊り上げながら彼女が彼氏のほうを叱りつけているように見えた。男の方はヘラヘラしている。おや?どこか見覚えがある。


「(誰だっけな……)」


「NO!!あいつは猫っぽいんだ、気まぐれでちょっとわがままなところがSO good」
「犬だと思いますよ僕は。無邪気に跳ね回ってるところとかどう見てもそうじゃないですか」
「くっ…それはわかる…」
「まあ結論は@@くんはとても可愛いってことですね」
「意義なし…」

「あ、それだ」


「「え?」」


火神のなかで点滅を繰り返していた電球がぱっと明るく光った。
胸の突っかかりがとれてとてもすっきりした気分。


「何がですか火神くん」
「そうそう、@@。サッカー部の奴だろ」
「タイガも@@を知ってたのか」
「いんやよくしらねえけど」



「そいつ今女と歩いてた」



ドカン!!!



一瞬店内が轟音を合図に静まり返り、火神は一体全体何が怒ったのか分からなかった。
窓際に向い合わせで座っている二人の手が窓ガラスにめり込んでいるのを見て、さらに訳がわからなくなった。



「火神くん、冗談は眉毛だけにしてください」
「い、いやあの…」
「@@に彼女なんて出来るわけないじゃないか。奥手なのが可愛いんだ、初なのが売りなんだ」
「売ってんのか……」
「次変なこと言ったらいくら君でも許しませんよ」
「わかったかタイガ」
「(さっきまでこいつら言い合ってなかったっけ…)わ、わかった…」



ジーザス……

相棒と兄貴分がなんか…とてつもなく遠いところにいる…。どうでもいいけどチーズバーガーまだかなあ…。
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