紫原は明らかに動揺した顔で@@を見ていた。瞳孔が忙しなくゆらゆら揺らめき顔は絶望で染まっている。

ガタガタ震える手がゆっくりと@@の首から外れて唐突に広がった気道へ急激に酸素が送り込まれていく。酸素不足でくらくらする頭をふって、@@は遠ざかる紫原に手を伸ばした。

「やだ、ちがう…!だって、@@が俺を、嫌いだって言うから…!」
「ゲホッ!うえっ…!おい、敦!」
「やだ、違う…おれのせいじゃない…!!」
「バカ敦!しっかりしろ!」


@@が強く呼び掛け肩を揺さぶっても紫原は震えながら頭を抱えている。


「@@が、@@がっ…!おれより皆がいいっていうから!」

「嫌いって言うから…!すっげーむかついて、だから、殺しちゃえって」

「全部全部全部全部…!たべちゃえば、もうくるしくないのに……」



「なんで、なんで今日はいいって言うんだよ…!なんで、ころせ、なんか」


ほぼ貘に体を乗っ取られている紫原は夢か現実かわからないところで意識を混乱させていた。


「敦!俺を見ろ!大丈夫だから!!」

両手で紫原の肩を掴み真正面から顔を合わせると一瞬、紫の瞳の中に@@が映った。
@@、小さく紫原が呟いた途端彼の視界に写る@@は血で真っ赤に染まる。
紫原にしか見えない幻覚だったが、錯乱しかけの紫原にはそれを判断する力など残っておらず、無我夢中で@@を突き飛ばした



「ってぇ!!んのバカ!」
「俺の、俺のせい…」
「敦…?」
「俺が、いるから、@@が死んじゃうんだ」

頭を抱えていた紫原の手が徐々に下へ下がっていく。

「@@が、しぬのはやだ…!」


紫原はそう絞りだし、何を思ったのか



「ん、ぐっ…!!」


自分の首を絞め始めたのだ。


「げほっ!ば、バカ!!敦!ぜえっ、手、離せ!!」
「お、れが、いっ…き、てたら、@@、ころ、しちゃう」

「や、だ、そんなの、や…だ…!!!」


ぎりぎりと絞まっていく紫原の首。@@の体は自由だ。でも支配された意識なんてどう取り戻せばいい。自分の体であると言うのに紫原は確実に死へ向かって首を締めていく。


「敦!しっかりしろ敦!!」
「がっ…!ぅ…!!」


なんとか首から腕を引き剥がそうと試みるも、紫原の手はそこにくっついてしまっているかのようにびくともしない。引けば引くほど紫原は抵抗し、絞める力を強めていく。



(何しようにも敦の意識が俺に向いてねえとなんにもできねえ!!)

助けを呼びたくても時間なんて一切無い。あと数十秒あれば紫原の呼吸は止まる。


俺が、俺がやらないとだめなんだ




「死ぬなよバカ!お前こそ俺を置いていくな!!」


一か八か、@@は紫原の首の後ろに手を回し一気に引き寄せると半開きだった唇に自分のそれを押しつけた。
刹那、至近距離にあった紫原の目に人間らしい光が宿ったのを見て@@は中のものを追い出すように強く紫原の背中を叩いた。







「んぐっ!」


入った!

口を通じて甘いとも辛いともいえない負の気の塊が流れ込んできたのがわかった。
紫原から離れ、両手で口を覆う。
出せ!とそれが喉の奥から這い上がってくるように暴れていたが強く胸を叩いてしっかり飲み下す。
@@の体は悪いものを祓う力が強いため、貘にとっては檻に等しい。
やってやったぞざまあみろ。


「@@、」
「お、っと」

よろめきながら近づいてきた紫原を支え激しく上下する背中を摩った。存在を確かめるように紫原の長い腕は必死に@@の体を掻き抱く。


「いき、てる…@@…」
「おー…おかげさまでな」
「よ、よがっ、だ…」
「バカ!!泣くなよ!俺だって、俺だってなあ!!」


怒鳴り付けてやるつもりだったのに、声を張り上げた途端@@の目からもぼろりと涙が零れた。ふいに聞こえだした鼻をすする音に気づいた紫原がそっと体を離す。

いつも強い幼馴染みが泣いている。
誰のためでもなく、自分のために。

泣いている@@を見て、紫原は顔をくしゃりと歪めながら震える手つきで頭を撫でてきた。

「@@も、なかないで」
「っせーわバカ!バァーッカ!!!うっ、ぐずっ」

泣きじゃくる@@の目を紫原は制服の袖でぬぐった。

「死ぬとか、いうんじゃねえタコ!!」
「だって、」
「喧嘩したまま死に別れて!お前はそれでいいのかよ!」
「ずびっ…よくないし…」
「俺だってよかねーわ!!」
「@@が…@@が死ぬのはやだ、@@と仲直りできねーのも、絶対やだ」



仲直りして、@@




うん、ともおうとも嗚咽がこみあげてきて何も言えず@@は力強くうなずいた。
前が霞んで紫原の顔がよく見えない。
紫原もそれはきっと同じだ。激しくしゃくりあげて鼻水をすすりあげている音がする。


「うえっ、ごめん、@@…ごめんなざい…」
「俺も、ごめん……」


二人して子供みたいにべそかいて鼻水垂らして互いの無事を喜んだ。ただただ、生きていてよかったと。



この体温だけが真実

(きゃーーー!!何このドアーー!!!敦何やったのアンタァアアア!!!)
(俺何もしてない…)
(や、やべえ忘れてた)
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