@@は紫原のことを一切喋らなかった。聞けばあいつなんか知らない、の一点張りで言及しようとすると烈火のごとく怒るのだ。赤司でさえ匙を投げた。
代わって、紫原は一日休んだだけで次の日から普通に登校して部活にも来ている。ひどく上機嫌な様子で。だが顔色がおかしいのだ。青白い顔をして真っ黒な隈を目の下にこさえてくる。
今にも死にそうな顔なのに意識ははっきりしていて、同じクラスの青峰は恐る恐る聞いてみた。

「お前、最近どうしたんだよ」


すると紫原は笑顔で言う。


「幸せな夢を見る」





「夢、ですか」
「ああ、そういってたぜ」

黒子、青峰、緑間、赤司の四人は部活後部室に残って最近の紫原の動向について話し合っていた。


「最近の敦は見ていられない。まるで幽霊のようだ」
「本物の幽霊なら俺が気づかないはずがないのだよ」
「原因はやっぱり@@くんとのことでしょうが…」
「本人が話さねえんじゃどうにもならねえだろ」

「そのために涼太をお使いに出したんじゃないか」

赤司がにっこりと裏のある笑顔を浮かべた次の瞬間、部室に必死の形相の黄瀬が飛び込んできた。

「ウギャアア殺される!!」
「きぃいいいせぇええええ首寄越せやぁあああ!!!」
「どんな連れてきかたをしたのだよ」
「ここに@@っち使用済みの体操着があるッス」
「ああうん、みなまで言わなくていいよ涼太。その体操着は僕が預かろう」
「俺に返せや!!」


阿修羅かと見紛う形相でぼきぼき拳を鳴らしながら@@が部室に乱入。
テツヤ、と赤司が言うと黒子がすかさず@@の影を踏む。するとどうだ、その場に縫い止められてしまったように@@の体は動かなくなる。
黒子が最近編み出した新技だった。


「何すんだごるぁ!!」
「@@そろそろ口を割ってもいい頃合いじゃないか?」
「ああ!?何が!」
「紫原くんのことです」


黒子が紫原の名前を出した瞬間@@の顔がぐしゃりと歪んだ。


「知るかあんなやつ…!」
「そういうわけにもいかないのだよ」
「知らねえったら知らねえ!大体、俺を拒否ったのはあいつだ!死んでもいいなんざ言いやがって…!」


「もう関係ねえんだよ顔も見たくねえ!!!」


@@がここまで切羽詰まった顔で怒鳴り散らすのはここにいた全員がはじめてみる光景だった。どんなときもドライで、傍若無人で、何事も自分が思う方向に向けていくのに、その己を貫くスタイルはここにいる誰もが気に入っていた。


「こんのアホが!!!」
「っでえ!!」



青峰が@@の横っ面を思いきり殴る。黒子の術のせいで避けることもできず倒れることもできず@@は痛みを噛み締めることしかできなかった。


「てめえそんなやつだったのか!俺を助けたときの威勢はどうした!そんな簡単に幼馴染み見捨てんのか!ああ!?」
「見捨てる、だぁ…?」
「今の敦を見たことがあるかい、@@」

赤司に言われて@@は押し黙る。啖呵を切ったあの日から@@は一度も紫原と顔を合わせていなかった。


「紫原は日に日に弱っている」
「はあ…?」
「目に見えておかしいのだよ。生きている人間とは思えないほど生気が感じられない」
「あいつ…今なんか憑いてんのか」
「憑いてる?」
「あいつ昔から変なの寄せやすいんだよ。そのたんびに…俺が祓ってた」


小さいときからそうだったという。
つたなくても必死に@@は紫原を助けようとしていた。たった一人の友達を失うのがいやで毎日毎日強くなろうと思っていた時期もあった。
それが今じゃあ


「変なら、なんか憑いてんだろ。緑間がやってくれよ、できねえわけじゃないだろ」
「出来るならとうの昔にやっているのだよ」
「ああ?」
「あいつには何も憑いていない。俺には見えん」

@@が紫原から目を放して5日は経っている。それでも何も憑いていないと言うのなら紫原にとうとう耐性がついたのか、もっとまずいことになってしまったのか。

「最近、紫原くんの近くにいると寒気がするんです」
「僕もだよ。なんていうのだろうね…同族嫌悪というか、同じにおいがするんだよ」
「紫原っちは人間スから、そんなにおいしちゃいけねえんっスよ」


「このままじゃあいつ帰ってこれなくなっちまうぞ」


それでもいいのか。
青峰がまっすぐ@@を見据えて言った。
人でなくなる、という怖さを知っている青峰が言うと妙な説得力がある。

@@の脳裏で幼いときから一緒にいてくれた幼馴染みの笑顔が浮かんで消える。
拒否されたのが悲しかった話してくれないのが悔しかった。


「…………やだ」
「なら話してくれるな?@@」


@@は小さく頷いた。





まず@@は喧嘩の発端を話した。事故にあいかけていた紫原を助けたのに余計なお世話だと拒まれてつい逆上してしまったこと。
売り言葉に買い言葉でこちらも罵ってしまったこと。

「それが原因なんでしょうか…」
「ただの口喧嘩であそこまでやばくなるか普通」
「なくはないっスよー紫原っち俺と一緒で@@っちのこと大好きっスから」
「お前のことはどうでもいいのだよ」
「あとはないのか@@」


「あとー…あ、」


『今日…やな夢見た』


「喧嘩する前に夢がどーのって」
「夢?」

青峰の話を聞いた三人が顔を合わせた。

「話したそうにしてたけど、聞いてやれなくて」
「夢、か…何か引っ掛かる」


青峰と@@の言うことに共通する「夢」というワード。着目すべきはそこだが、確信に至るには情報が少ない。

「そこは俺が調べておくのだよ。何かわかるかもしれん」
「んーーーじゃあそうして」



「でもまずは@@っちと紫原っちを仲直りさせるのが一番なんじゃないッスか?」
「どうやってだよ。つかさァ、俺なんであいつが怒ってんのかわかんねえ」
「つくづくデリカシーの無い男だな」
「緑間に言われたくねえ」
「まあまあ。その原因を探るためにも@@くんは紫原くんと話し合うべきです。」


ここにいる全員にとってライバルが減るというのは喜ばしいことであったが、この状況では諸手を上げて喜ぶことはできない。
幼馴染みと言う立場にも屈せず、正面から奪い取ることに意義があるのだと。かくして発足されたのが


「ではここに「@@と敦を仲直りさせよう〜ただし仲の進展はさせない絶対に〜作戦特別本部」を設立する」
「なんだよそれ」
「僕の言うことはー」
「「「「ぜったーい」」」」
「ええー…なにこれぇ…」
「ほら@@も言うんだ」
「ぜ…ぜったぁーい…」
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