紫原を追いかけていった@@はHRが始まる直前に扉を蹴破ってやってきた。スライド式のドアは片方が開いていたのに、わざわざ閉まっているほうをである。放つオーラ、般若のような形相。@@の怒りが頂点に達しているのは誰が見ても明らかだった。
「@@っち!紫原っちは?」
「知らねえよあんなやつ!」
「何をそんなにイライラして…」
緑間は言葉を紡ぎかけたが@@の左手をみてぎょっとする。
「@@!この腕はどうしたのだよ!」
「腕?ホギャーー!!@@っちスプラッタっスよ!!!」
「せーわバーロー!!こけたんだよちょっとだけな!」
「どんな転びかたをしたらこんなひどいことになる!」
制服は破けているし、下の皮膚は激しい摩擦を受けたように磨り減って血まみれだ。見ているこっちが痛くなる怪我の仕方だというのに唾つけときゃ治る!と@@は突っぱねた。
「いいから保健室っス!」
「大丈夫だっつってんだろ!」
「黄瀬手伝え」
「了解っス!!!」
黄瀬がカッと目を見開き@@を覗きこむと@@の体は石化したように硬直する。
黄瀬お得意の幻術だ。実際には頭に体が動かない、と思わせているだけであってそれを経験済みの@@はこしゃくな!とそれを解除しようとしたがその前に顔にばしん!と緑間の呪符が張り付いた。
「て、めえ…ら…おぼっ…ぐううう」
「な、何したんスか」
「催眠作用のある呪符だ。今のうちに保健室につれていくのだよ」
血気盛んなやつにほどよく効く。と緑間はどや顔で言って@@の肩を担いだ。
あれ使われたら部内のほとんどがやられる…敵にまわしたくねえっス…黄瀬は緑間を見ながら身震いした。
「喧嘩した?」
「俺のせいじゃない」
ずたぼろになった腕を流水でゆすぎ、しっかり消毒していく。
@@の意識は保健室に入ったあたりで戻っていたがここまでくればもう抵抗の意味もないと思ったのか抵抗はしなかった。保健教諭はまたしても不在。
されるがまま、緑間に腕の手当てを任せている。
「ってことはそれ紫原っちにやられたんスか!?」
「んなわけねえだろが。これは俺が勝手にこけたんだよ」
「その紫原はどうした」
「……知らん、置いてきた」
ぼそり、@@が呟く。
気になった黄瀬がこっそり紫原に電話をかけてみたが、呼び出し音が鳴り続けるだけで一向に出る気配がない。
「……何があったのだよ」
「だぁから知らねっつの。あいつが勝手に癇癪起こしたんだもん」
「珍しいッスねー紫原っちが@@っちに反抗的とか」
「こ、これが反抗期か!?あかんどうしよ俺あいつと喧嘩とかしたことねえからわからん」
「お前は紫原の母親か。…ほらできたのだよ」
「かゆいから取っていい?」
「いいわけがあるか!」
スパァン!緑間の平手が@@の頭に炸裂。教育的指導だ。
「まー…紫原っちのことだし、そのうち@@〜ごめんね〜って謝ってきそうな気がするッス」
「確かにな」
「そういうもんか…?つか黄瀬お前今の敦の真似か、全然似てねえぞ」
「別にいいッスよ似てなくて!」
@@は別れ際の紫原の様子を思い返す。今まであんなに真っ向から拒否されたことはなくて、戸惑っている。
(なんか、落ち着かねえなあ)
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