『そのカッコじゃさすがに家帰せねえな…うちくれば?』

そんな@@の一言から急遽決行された@@宅お泊まり会。
青峰だけ行かせるか、と全員が身一つで同行してきたのは言うまでもない。最初は騒がしかったものの、疲れが祟ったのか時刻が深夜をまわったころにすっかり静けさが部屋を支配していた。

そんな中、眠れもせずにいる獣が一匹。



「なんだよ、寝れねえのか」

狭いベランダからぼんやり月を眺めていると後ろから@@に首を捕まれて毛皮をわしゃわしゃと撫でくりまわされた。

「まあそんな悩むこともフヒッないんじゃねえかなとフフッやわらけえ…思うわけだな俺は肉球触っていい?」
「ギャウッ!(慰めるか触るかどっちかにしろ!)」
「なんて言ってるかわからん。ああ肉球やわらけえ…」


@@は青峰の肉球を押しながらその柔らかさに大層ご満悦のようだった。それもそのはず。普段動物に触れようものなら天敵とみなされ威嚇の嵐。まともにさわれる今はまさに至福の時だ。

知らず知らずのうちに尻尾を振っていたことに気づいた青峰はかぶりを振って@@の手を振り払い、長い鼻先で部屋を指す。


「ああ?なに?部屋?あー…あいつらなら全員寝たぞ。先に寝たら何されっかわかんねえから寝れたもんじゃねえ」


窓ガラスの向こうには狭い部屋で雑魚寝している面々が見えた。
赤司は@@のベッドでしっかりご就寝しているが、残りは半ばで力尽きたようにベッド近くで倒れている。壮絶な争いがあったのは考えなくてもわかった。

@@をじっと見ながら青峰は首を傾げる。お前は寝ないのか、と念を送ったのだが伝わるかどうか。

「え?なに?もっと撫でろって?仕方ないなあああ!!」
「ギャアッ!!(違ぇ!!バカ!)」
「誰がバカだ!」
「(なんでそれだけ伝わんだよ!!)」
「悪口はよく聞こえるんだよ舐めんな!」


そんな会話が続いても嬉しくない…。
何を言っても無駄かと思い、おとなしく青峰はされるがままになる。
ふと首に回る腕に巻かれた包帯が目に入って、そこを鼻先でつついた。


「あ?もう大丈夫だよこんなん。まあ…お前と同じになるかはまだわかんねえけどな」
「……」
「あと一週間ってとこだな、結果がでんのは」
「…ウゥー…」
「うわは、尻尾垂れた。なんだよ気にしてんのか?」


らしくねえーとバカにしたように笑う@@の腕には月明かりに照らされる、血が滲んだ包帯。
罪悪感は当然青峰の中に存在していた。でもそれと同時にその傷を、リスクを背負ってでも自分を助けようと@@が奮闘してくれたことが何より嬉しかったのだ。


「気にしてる暇あったら頑張って戻れば?」
「ガアッ!(わぁってるよ!)」
「その意気その意気」
「(…バーカバーカ)」
「バカって言うんじゃねえっつってんだろ」

ありがとうとも、ごめんともこの口では言えないことに歯がゆさを感じる。長い前足では満足に抱き締めることもできないが、少しでも伝わればそれでいいと@@の頬に鼻先を擦り寄せた。

くすぐってえよ、と@@が身をよじったとき

月が雲に隠れた。



「こいつ肌やわらけー…」
「……ん?」
「もっかいくらい舐めてもいいか」
「……待て待て待て待て待て待て!!!」


至近距離で真っ赤な舌が見えて@@ははっと我に返り毛皮じゃない体を押し返した。青峰が目をぱちくりさせて、ゆっくり自分の体を見下ろす。

「何で今戻るんだよ!!」
「何で悔しそうなんだよ!?」


うおおお、と青峰は人の体に戻ったと言うのに手と足を地につけて悔しがっている。@@はあーあ戻っちゃった…と至極残念そうだった。
月はすっぽりと分厚い雲に覆い隠されてしばらく見えそうにない。

二足歩行に戻ってしまった青峰を見て、@@は深いため息と共に溢す。

「かっわいくねぇー…」
「戻れとか言ったくせにてめえ…!」
「人間に興味ねえマジで。あー寝よ」
「最低だな!おい待てよコラ!」


室内に入っていく背中を叩いた。もう感謝するのがバカらしい。


「礼言ってやんねーからな!」
「いらねーよそんなん。鳥肌立つ」


もしかしたらそれが、@@の目論みだったのかもしれない。
そのほうがいい、と快活に笑う彼を見て青峰はそう思った。






吉報が二つ。その反対は一つ。


前者の方はまず、青峰が次の日には人の体に戻っていたこと。
翌朝になったら大きないびきをかく青峰が人の体で寝ていたので全員で蹴った。


もう一つは@@が狼男にならなかったこと。


@@自身も聖水プールにつかったのでそれで浄化されたか、はたまた青峰には仲間を増やす力などなかったのか、真意のほどはわからないままだったが「ならねえならいいじゃん」という@@の一言で終了した。


そして後者だが


「無理だわ」


口許に薄ら笑いを浮かべて@@は真っ赤な答案を破り捨てた。



中間考査は滞りなく決行された。前日の晩、どんな死闘が繰り広げられていようとも長く水に浸かって@@が鼻水を啜っていようとも関係なく。
風邪気味であったことを理由にしても@@の成績の悪さは許容範囲外。満月を挟み一週間後の今日、全てのテストが返却されたわけだが見たこともない悲惨な数字の羅列に緑間は戦慄した。



「どうしたらこんな点数が取れるのだよ…!数学はまた二点か!」
「一個もかけなくてな〜名前古代ヘブライ文字で書いたら二点入った」
「そのほうがすごくないッスか!?」


驚いている黄瀬の点数も大概ではあったが、赤点を逃れている教科もわずかにあった。わずかに。


「@@ーーー!!」
「よう青峰、どうだった」


ここでご登場、青峰大輝。つかつかと@@に歩み寄ると手にしていた答案用紙を紙吹雪よろしく投げ捨てた。


「全滅だぜ」
「わかってたよ…お前が裏切らないことくらい」
「@@を置いていくわけねえだろ…?」


おもむろに@@が立ち上がり、友よ!と固く抱き締め合う。
@@は青峰の背中をバンバン叩いているが、青峰の両手は@@の背中をはいまわりやがてさすさすと尻を撫でている。
黄瀬がてめえちくしょうなにやってるといきり立ったが青峰の背後に立った巨大な背後霊を見て硬直した。


「ねえ峰ちん、何やってんの?」
「げっ紫原…」
「おう敦」
「さっさと離れてよ。捻り潰すよ」
「いっでええええ!頭掴むな!!」


青峰がHR直後に教室から飛び出していったのを見て紫原は確信していた。
来てみれば案の定。許しがたい光景に紫原不機嫌ゲージはすでにマックス。青峰をぽいと投げ捨ててかわりに自分が抱きついていった。


「意味わかんねーし何で峰ちんなの」
「…敦、お前赤点あったか」
「ええー?なかったと思うけど…」
「じゃあだめだ!!」


電光石火で紫原の腕から抜け出した@@は青峰をひっつかみ肩を組む。ほったらかしになった紫原は絶望と悲しみが入り乱れてよくわからない顔になっている。


「青峰、赤点は何個だ」
「全教科だ」
「よし!」
「@@っちぃー俺だって赤点あるッスよ!」
「うるせえ全教科じゃねえだろ!」
「今から全部赤点にしてもらうから俺もいれてほしいッスー!!」

何がよしなんだ。
バカすぎる集まりに緑間が眼鏡をとって目頭を押さえつけた。
再度眼鏡をかけ直して顔をあげてみると、ぎゃあぎゃあ騒ぐ三人の横で紫原が震えているのが見えた。唇をかみしめずず、と鼻水を啜っている。
まずい、そう直感した。



「ひねりつぶすっ…!赤点も峰ちんも黄瀬ちんも…!!」
「お、落ち着け紫原!泣くんじゃないのだよ!」
「だって@@がぁあ!!みどちんのばがぁあああ!!」
「何で俺なのだよ!!」

紫原が怪獣のような泣き声をだしはじめたのでさすがの@@もなだめにいこうかとしたのだが、青峰がそれを許さなかった。
肩に回した腕の力を強め、頬が触れあうくらい顔を近づける。


「お前がバカでよかったよ、@@」
「誉めんなバーカ」
「お前もな!」




少年よ、バカであれ

その後ややあって遅れてやってきた赤司と黒子が目にしたのは、何故かお菓子パーティーだった。

(ほらまいう棒やるから泣くな敦)
(えぐ、うぐ、)
(ポテチもあるッスから泣かないで紫原っち…)
(おかしよりさきに峰ちんひねりつぶしたい…)
(ざけんな!!)
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