首にあった手は後ろに回り、もう片方の手は背中に回った。
押し倒したまま抱き締められるような形になり、青峰がひゅっと息を吸う。
くっ、と@@が喉で笑ったのがわかった。


「だってお前は今、お前に勝っただろ」


投げ出された足で強く床を蹴り、勢いをつけて@@は起き上がる。
無理な体制で起こされて青峰の腰が鳴ったが、@@は構わず頑丈に両手でホールドしたまま大きくプールへ踏み出した。


「俺がお前を殺すのは青峰が自分に負けた時だって言ったろバーーーーーッカ!!」



@@の笑顔が映ったとき、もうすでに水面は目の前にあった。




バシャァンッ!!!



白い気泡が二人の体を覆う。青い水中で@@は青峰をホールドしたまま沈んでいく。急なことに体がついていかず、大量の水を飲む。
体が軽く感じるのは水中だからか、@@に触れているからなのかはわからない。
言いたいことは山ほどある。怒鳴り付けてやりたい、バカはお前だって、約束守れよって、
ごぼごぼと耳元で気泡が浮かんでははぜる。その音に紛れて言葉にならない言葉を気泡に隠してたゆたう@@の身を抱き寄せた。


これ以上惚れさせてどうすんだよ





「@@!!」


水深二メートルのプールに飛び込んだまま@@も青峰も浮かび上がってこない。身を隠していた緑間はたまらず飛び出してプールのへりに手をついて目を凝らす。暗いせいで影が見当たらない。


「プールの電気ってどこッスか!?」
「もう僕が飛び込みます服持っててください」
「やめろテツヤ、体が焼けるぞ」


ブレザーを脱ぎかけた黒子の動きが止まった。
実はこのプール、ただ塩素水がためられたプールではないのだ。


「それでも僕はいきます」
「黒子っちマジ男前ッスね…いや俺だって行くッスよ@@っちのためなら!」
「何故下を脱ぐのだよ!もういい俺が行く!」


緑間がボタンも外さずブレザーを脱ごうとしてボタンが弾けとんだところである一点から激しく気泡が浮かび上がってきて水しぶきが上がった。


「ぶっは!!しょっぺええーー!!思ったよりしょっぱい!」
「@@くん…!」
「なんでみんな脱いでんの。黄瀬に至ってはきたねえパンツしまえ」
「これ勝負下着ッスよ!」
「誰と戦うんだよ…おい、っしょっと」


両手に真っ黒なものを抱えたまま@@はなんとかプールサイドまで泳ぎ、それを岸に。


「……大輝か?」
「うん、もう妖気ねえよ」


全員が不思議そうに覗き込んだ黒い塊。決して青峰の肌がついに真っ黒に焦げたとかそういうわけではない。

両手でじゃないと抱えられそうにない巨体の、犬になっている。


「なんとかいったなー秘密兵器」


@@の言う秘密兵器、それはプールいっぱいに溜められた『聖水』
事前にごみ袋に収集したのは家庭科室から失敬した塩だった。
聖水を作るために必要なのは水、塩、そして信仰心からなる祈りだ。
信仰心など欠片もない@@にはできないと判断し、白羽の矢が立ったのが緑間。彼自身も初めてだったが家庭科室の食塩でやり遂げたのはさすがというべきか。


@@の咄嗟の思い付きであった。外から押さえつけるのが無理ならば中に取り込んでしまうのはどうか、と。
しかし先程までの青峰が素直にそれを飲んでくれるはずもないのでもういっそプールに叩きこんじまえという荒療治。
荒っぽいやり方ではあったが、青峰の体は聖水で浄化されたようで、すっかり妖気はなかった。


「妖気なくなるとただの犬ですね青峰くん」
「犬になっても大きいのが癪に触る。えい」
「ギャウッ!!」
「赤司やめてあげて」


赤司に尻尾を踏まれて犬こと青峰が目を覚ました。
しっかりした自我に驚いているのか視線をさ迷わせ、何故だか自分より大きい面々を見渡しはた、と自分の姿に気づく青峰。


「ゥアッ!?」
「よかったな青峰、なんとかなったぞ」
「ギャワァ!!」
「犬の声ですらないッスね…」



犬の口では人語など介せるはずもなく青峰はぎゃんぎゃん吠えたてていた。@@の瞳が右に左に動く濡れた尻尾を見て輝き出す。
おろおろ動く巨体を捕まえるとそのまま頬擦りしだしてしまった。


「だっはー濡れた犬のにおい〜!っていうか青峰かわいくねー?お前もうこのままでいろよー」
「!?」


ぎゅうぎゅう抱き締められて青峰の動きが止まる。ついでにほかの全員も。犬になったとはいえ、青峰は青峰だ。あれ、これチャンスじゃね…?
ぶんっと青峰の尻尾が大きく揺れた。


「ぎゃはっ!ばかくすぐった!うわはは」
「(ベロベロベロベロ)」
「ちょっ!なんて羨ましいことしてんスかぁあ!!」
「目を覚ますのだよ@@!相手は青峰だぞ!」
「そう言われましてもうひゃははは!」
「もう一回大輝をプールに落とそう」
「意義なしです」



一件落着?
(ところで青峰もどんのかな)
((((さあ…))))
(もどんなかったらうちで飼ってやるよ)
(!)
(捨てましょう、そうしましょう@@くん。ねっ)
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