青峰が狼男である、と発覚して数日が過ぎた。
緑間の呪符が効いているにも関わらず、青峰は時々人間離れした腕力やらを発動してしまい、そのたび小さな自己嫌悪に陥っている。
落ち込みそうな青峰の背を叩くのは@@で、@@の一喝で持ちこたえている。今の青峰はそんな感じだった。



事情がわかっていても気に入らないものは気に入らない。
距離を縮めた二人を睨みながら赤司、黒子、黄瀬、緑間はおもしろくなさそうに顔をしかめている。

だからこそ仕返しの手は緩めない。


「こんな問題もわからないのか大輝」
「わかんねえもんはわかんねえんだよ!」
「開き直って言うことでもないのだよ、そこの公式まるっきり違うぞ」
「わかるかこんなもん…!」


赤司と緑間は徹底的に青峰を勉強という鞭で叩きまくっていた。ほぼ腹いせ。
バカその1、青峰は頭をがしがし掻きながらペンを放り投げた。
中間考査は笑っても泣いても死んだとしても明日に控えていた。
図書室の利用率は最高潮に達していたが、バスケ部が占領するテーブルはその騒がしさと面子の濃さから敬遠され、人はいない。


「わかんにゃーい」
「可愛く言ってもダメです@@くん。でももう一回言ってください」
「いやなんで携帯構えんの…やだよ」
「黒子っちー俺も全然わかんねッス」
「黄瀬くんはどうでもいいです」

バカその2、その3も同じく机にペンをなげた。



「勉強やる必要性がみあたらん!帰っていい?」
「@@、今日は絶対に逃がさないよ」


@@は顔を青ざめさせた。何故なら赤司が両手にロープをもってビンッと張っていたからだ。有無を言わせぬ笑顔に凍りつき、そっと目を反らす。
目を反らした先ではぼんやりと紫原が棒つきアメを舐めていた。


「敦はベンキョーしねえのかよ」
「だってしなくてもできるし〜」
「なんだとてめえもっぺん言ってみろやっても出来ねえ俺に」
「だって勘で当たるじゃんこんなの」


@@がほん投げたペンを握ると、紫原は机に広げられたテキストを一瞥するとこうかなーこうかもーと呟きながらすらすら解答欄を埋めていく。文字はお世辞にも綺麗とは言いがたかったが、回答集と同じ答えに黒子がゆっくり頷いた。


「正解ですね」
「わーい」
「なんでこいつに出来て俺にできねえんだ!そのアメか!脳を活性化させる何かが入ってんのか寄越せ!」
「やーん、@@積極的ー」
「紫原っち嬉しそうでなんか腹立つんスけど!」





ぎゃあぎゃあ喚いては司書が殴り込んできて一瞬静になり、また喚いて怒られての繰り返し。
バカ過ぎるやり取りのなかで青峰も笑っていたが、奥底にある不安は拭い去れない。
どこか影のある笑い方に気づいていた赤司は青峰にお前はバカだな、と小声で言った。

「うるせえなわかってるっつの!」
「勉強面でもバカなのは知ってる。…そこまで不安がるのがバカだと言ってるんだよ」
「……しょうがねえだろ」


赤司は肩を竦めた。


「大輝一人ならどうにもならなかったかもしれないが。…そんなに僕らは信用出来ないか?」
「…そうは言ってねえだろ」
「それに……悔しいが。悔しくて悔しくて今にもお前の首をへし折ってやりたいくらいだけど、今のお前は@@という味方がいるだろう」
「おい台無しだぞ」
「@@がいるなら、お前は大丈夫だよ大輝」


言いながら赤司の視線はテキストの角で黄瀬を殴る@@に向いていた。
あの赤司が絶対の信頼をよせる@@という男がどんなものであるか、青峰だってわかっていた。


「どうりでモテるはずだよな」
「やらないよ」
「勝手に持ってく」
「そうか死にたいんだな大輝」
「おっおい待て!そのロープは洒落にならねえぞ!!」


騒ぎが大きくなり始めたテーブルを見かねて、司書がウォーミングアップはじめたところで「遅れてごめんね!」という可憐な声が。
突っかかっていた黄瀬を投げ、@@が目を輝かせた。

「ももも桃井サン!」
「なんだよお前来たのかよ」
「来たのかよってひどくない大ちゃん!」
「そうだぞ青峰ぶん殴るぞてめえ」
「桃っちが来た途端にこの扱いとかひどいッスよ@@っちー」
「ひっつくな!桃井サンに疑われる!」
「……」
「いや無言で寄り添ってこないで黒子…もっ桃井サンが見てるから!すごい怖い顔で見てるから!!」



バスケ部大集合の図の出来上がりである。若干名部外者だが。




桃井が人間であることわかっている。ただその可憐さから時々天使なんじゃないのかと錯覚することはあっても、正真正銘の人間なのだ。
そのはずなのに、@@は恐ろしかった。赤司に匹敵するくらい鋭い視線を突き刺してくる桃井が。

「あの、桃井サン…桃井サンは俺のことそんなに嫌いなのかなあ…」
「嫌いじゃなくて、**くんは私のライバルなんです」
「俺は一切桃井サンと争うつもりないよ!?」
「いいの、なんとでも言って…テツくんを想い合う同士フェアでいたいから」

そこまでおもってないんだけどなあ…!@@が心の汗を流しても桃井は拳を握りしめ強い覚悟で@@と向き合っている。


「さっちん俺納得いかないんだけど」
「何が?」
「@@が黒ちん好きって方向で話進めてるけど、@@が好きなの黒ちんじゃないよ」
「なんですって…」
「う、うんまあそうかな!」
「……ひどいです@@くん…」
「あ、いや、黒子が嫌いってわけじゃなくてね!?」
「ていうか俺が好きってことでいいじゃん@@」
「なんで!?」
「聞き捨てならないな@@、僕じゃないのか」
「話ややこしくなるから口挟むな!」


やめてくれと心底懇願しながら俺だ俺だという回りを@@は押さえようとするのだが、争奪の炎が燃え上がるばかりで誰も聞いてくれない。
突然桃井が立ち上がる。


「テツ君というものがありながら…**くんは他の人にまで手を出してるの…!?」
「ちっちがうよ!?桃井サン落ち着いて!」
「愛するなら一人に絞らなくちゃダメじゃない!好意を弄ぶなんてやっちゃいけないことだよ!」
「桃井サンは俺をどうしたいんだ!おおおお落ち着いてえええ!」


桃井は机を踏み越えて@@に詰めよってくる。
剣幕の恐ろしさに両手で待ったをかけたのだが
@@の片手にはペンが握られたままで、



桃井がきゃ、と小さく悲鳴をあげた。


「ごっ、ごめん桃井サン!!大丈夫…!?」
「ちょっとかすっただけだよ、大丈夫」
「あわばばばば桃井サンの白魚のような肌に傷が…!傷が!!きゅ、救急車!!!」
「大袈裟すぎだし@@」


@@のペン先がかすってしまった桃井の手の甲にはうっすらと赤い筋が走り少量の血が滲んでいる。
あわてふためく@@と桃井のやり取りを全員が見ていたが、

青峰だけは違った。


歯の付け根が無性にかゆいのだ。
たったあれだけの血なのに、ここまでにおいが届くはずもないのに青峰の鼻孔の奥の奥にまで鉄の香りが漂う。
吐き気がして、両手で口を押さえた。背中が痛い。調度、緑間の呪符がある辺りがびりびり痛む。


(やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい)


緑間が何か言っていたが青峰には聞こえなかった。
切羽詰まった声であるのはわかる。背中に当たったのも緑間の手のひらだろう。そこから何か押さえつけられる感触がしたが、自分の意思とは反対にそれを弾き返してしまう。


赤司が大声で@@を呼んでいる。
あおみね、と@@が大声で名前を呼んでいるのがわかる。
遠く聞こえた声に手を伸ばす。@@、自分も呼び返したつもりでも喉の奥から出たのは低い唸り声だった。
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