伝説に残る狼男といえば、普段は人間として暮らし満月の夜になると獰猛で残忍な獣と化す恐ろしい化物だ。夜な夜な血を求めて徘徊し噛まれた人間は同じ狼男となってしまうというーーーー


ダダダダンッ!!!


4本もの鋏が青峰めがけて飛んできてその巨体を壁に縫い付けた。
いつもより角が長く見えるのは、赤司の怒りが頂点に達しているからだろうか。


「なんてことを…してくれたんだ大輝…」
「おおおお俺のせいかよ!わざとじゃ」
「俺聞いたことあるッス、噛んだ狼男倒せば噛まれたほうは治るかも、って」
「よかったですね青峰くん、次の満月に化物にはなりませんよ」


ここで仕留めるからなぁ!!と化物三人の目がぎらりと光る。
@@が化物になってしまう以前に、三人は青峰が@@の柔肌に傷をつけたことが許せなかったらしく身動きの取れない青峰を殴る手に容赦がない。
今にも制裁に参加しそうな緑間を抑えながら@@は言う。


「まあまだ決まったわけじゃねーよ」
「能天気な…!お前が化物になったらどうするのだよ!」
「お前らがいるから大丈夫だろ。頼んだぜ緑間」
「ばっ…、俺は……@@が、化物になるところ、など」


頬に朱を走らせた緑間が言い切る前にいちゃついてんじゃねーよ!という罵声とともに二人を引き裂くがごとく鋏が緑間の鼻先すれすれを通過していった。
何をするのだよ!と突っかかっていった緑間もいつの間にか普段の鬱憤を晴らすがごとく青峰を殴っていた。今日のラッキーアイテムの六法全書で。


(さて…どうすっかな)


ずきずき疼く傷口を眺めて@@は思考を巡らせた。

名案は特に浮かばなかった。





決議の結果、青峰は様子見することとなった。
普段生活するぶんには何ら問題はない。ただ人が多い場所にいると肉の臭いで本能が誘発される可能性があるので人混みは避けろ、とのことだった。
学校という集団生活でそれは困難ではあったが、青峰は今セーターの下に緑間が張った妖気抑制の呪符がある。頻発していた頭痛はそれのおかげで今はなかった。

「もう意味わかんねえ…」

授業を放り投げ、青峰は一人屋上のフェンスに手をかけもたれ掛かる。


昨日まで自分は人間であると信じてやまなかった。むしろ、人外であるなんて考え浮かびもしなかった。
思い返せば思い返すほど恐ろしい、@@に噛みつくあの瞬間が忘れられない。
血が吹き出て、唇を赤い液体に汚されることにひどい高揚感を覚えた。
ざわざわと背筋が粟立つ。思い出すごとに理性が失われていく気がして、震える手を抑えるようにフェンスを握りしめた。


ぐしゃり


「!」


フェンスがまるで柔い針金のようにひしゃげてしまった。
力を少し入れただけなのに。いよいよここでも化物じみてきた。青峰は絶望する。


「壊したーいーけないんだいけないんだーせーんせーにいってやろー」
「…!…@@…」


背後からニマニマした顔の@@がひょっこり顔をだした。足音を殺していたため青峰はまったく気づかず肩を震わせてしまいその様子に更に@@は笑う。


なんでいんだよ、敦にここにいるって聞いた。



沈黙


「情けねえ顔だな」
「うるせえ…!!ほっとけよ!」
「あっそじゃ帰るわ」


あっさりと@@は踵を返したが間髪いれずに青峰に服を引っ張られる。帰れとは言ってねえ、という素直じゃない物言いに@@は苦笑した。

「あと15日ってとこだって緑間が言ってた」
「…何が…」
「次の満月」


今日から新月。月は15日という期間を経て丸く満ちる。
あと15日もたてば、またあの恐ろしい感覚がやってくる。
@@は青峰の隣に居座り、どーすっかなーと背伸びした。


「お前、なんでそんな軽ィんだよ」
「悩んだってしょうがねえし」
「あんな化けもんになりたくねえだろ!!」
「嫌ならとっくここから飛び降りて死んでるよ」

@@の声は明るい。

「化物になるなるって言ってたらマジで人間やめることになる」
「もうなってんだろ…」
「青峰、お前もうプライドまで捨てたのか」
「んだよ、それ」
「黒子が言ってたんだけどさ、「俺に勝てるのは俺だけだ」とか言ってんだろ〜?」

鬱陶しくて仕方ないです、と言っていた黒子を思い出しながら@@はニヤニヤしている。だからなんだよ!と逆上気味に言う青峰なんてものともせずに@@は続けた。

「化物になりそうな自分に勝てばいいじゃん」
「出来たら苦労しねえっつの」
「出来んだろ、お前なら」


その自信はどこからくる。
7
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