青峰は目の前の光景に仰天した。
たった一度の瞬きの間に、部室に集められた見慣れた面々の風貌が変わってしまったからだ。


「テツ…後ろのそれなんだよ…ワカメか…?」
「どうして僕が背後から海草生やすんですか。影です」


「黄瀬…お前そんな趣味が…」
「この耳と尻尾は自前ッス!!」


「みど、(バチッ!)いっだ!?」
「退魔用の呪符が効くとは…ついに人間をやめたか」

「え?赤司…いや前から鬼みてえだとは思ってたけど…」
「正解だよ大輝」


「だから言っただろー」

青峰の横で@@はカラカラ笑っていた。
意味のわからない現実に青峰は思考をぐるぐるさせているというのに@@はお構いなしで異形の輪の中に入っていく。


「で?大輝が狼男だって?」
「まあそんな感じはしますよね」
「俺青峰っちは人間だと思ってたッスー」
「というか、人間でなければ俺か赤司が気づきそうなものなのだよ」
「俺も人間だと思ってたからビビったわー」

はははは





「はははじゃねーだろ!!待てや!おかしいだろうが!もっとなんかこう…あんだろ!!」

「「「「「何が」」」」」

青峰にとっての一大事は彼らからすればまるで世間話。きょとん、とした面持ちで返されて青峰は言葉に詰まる。


「お前は化物扱いされんのがやだったんだろ?まあよく見てみろよここ化物しかいねえから」



@@の言う通りではあったが、ここまであっさり許容されるとは思わなかったのだ。恐れられなかったことを喜ぶべきなのか、今の今まで全員が人外であったことを隠されていたのを悲しむべきなのかわからず、青峰は脱力して頭を抱えた。

だが彼は誰だ、青峰大輝だ。悩んでいるなんてらしくない、とすぐに開き直った。


「皆して黙ってたのかよ水くせえ」
「言うことでもないですから」
「でもこうなったからには面倒を見てやろう、大輝」
「これって…なおんのかよ」
「狼男が治った、という実例は聞いたことがないのだよ」
「ていうか何で俺なんだよ!親はなんともねえのに」


青峰の両親は至ってまともな人間だった。
昨日のような異変が両親に起こっているところなど見たこともなければ想像をしたこともない。@@がそこがわかんねえんだよなーと呟く。


「お前、狼男に噛まれたこととかある?」
「ねーよそんなん」
「となると………一番濃厚なのは先祖帰りの説だな」


赤司の瞳が探るように青峰を見た。
見透かされるような視線に青峰は肩を強張らせる。


「今、大輝の中に妖気は感じられない。普通の人間だ」
「昨日はやばかったけど?」
「昨日は満月だったからね。お決まりのパターンだよ。大輝は満月にしか妖気は出せない」
「センゾガエリってなんだよ」
「仮定に過ぎないが、大輝の先祖のどこかに狼男がいたんだろう」


赤司が言うには、狼男は遺伝しないそうだ。
何代も平和に人間の血筋が続くこともあれば両親が人間であっても血統のどこかに狼男がいればひょんなことから子供に遠い血筋が受け継がれて狼男と化す。まさに今の青峰と同じ状況。


「緑間ぁ、呪符でなんとかなんねーの?」
「抑えることはできる。だが血筋となると祓うことはできないのだよ」
「俺も昨日抑えんので精一杯だったしなあ…」
「な、なんともなんねえのか?俺もうあんな化けもんになりたくねえよ…」


珍しく青峰は弱気だった。それもそのはず、意識はうっすらとあるのに体は@@の血を求めて勝手に動く。それがどれだけ恐ろしいことか。
青い顔の青峰の肩を叩いて、@@は親指をつきだした。


「まあドンマーイ☆」
「ふざけんなてめえええええ!!!」
「そんだけ元気ありゃ十分だ。それに安心しろ、次化物になるのはお前一人じゃねえ」
「は?」
「え、@@っちそれどういう…」


@@はシャツの袖を捲り、何重にも巻かれた包帯を解いた。
あらわになったのはくっきりと残った獣の噛み跡。


「噛まれた☆」



四人分の悲鳴が部室を揺らした。



おいでませナイトメア
(ついに人間卒業かあ…)
(何を悠長なことを言っているのだよ!)
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