「頼もーーーーー!!!」



重苦しい静かな時間を台無しにした破裂音。突如部屋の障子が乾いた音を響かせて両側に開いた。
勢いがよすぎて障子がばん!と外れる。



「何をしてるのだよ!」
「ごめん直しといて」



なんだこの集団は…赤司父子は揃って顔をしかめた。
障子を開け放った集団は皆揃いも揃って面を顔につけている。般若、天狗、狐に能面…怪しすぎる。
天狗面をつけた男が四苦八苦しながら障子をつけなおしている。結局直せずにそっと壁にたてかけていたが。

今度は狐面の男が廊下を見ながら般若面に焦りながら言った。



「やばいッスなんか人いっぱい出てきた!」
「みんな極道みたいな顔してますね」
「適当に止めとけ。あいつは俺がなんとかする」


騒ぎを聞き付けた赤司家の人間やら鬼やらがわらわらと出てくる。
時間がないことを察した般若はずかずかと父子のところへ歩み寄ってきた。

「子供って自由に生きるもんだ」
「な、なんなんだ貴様は!」
「赤司はすげえやつだよ。おっさんの生き方押し付けなくたって立派に生きてく」



般若は呆けたままの赤司の腕を引いた。
体制を崩した赤司を受け止めながら般若は続けた。



「わかんねえんなら息子さんは俺がもらっていく」



こい、と般若が赤司の腕をさらに強く引いた。
しかし意味のわからないままそれを見送るほど赤司父もバカではない。
何をするのかと思えば上座に飾ってあった刀をもぎ取りあろうことかすぐさま抜刀して切りかかってきた。

赤司がいるのがまるで見えていないように。


「@@!!」



ざく、と肉が削がれる嫌な音がした。
ぽたりと一滴赤い滴が落ちたのを皮切りにぼたぼたぼた、とあふれでていく@@の血液。


「息子殺すつもりか!!!このバカ親がァ!!」


般若が素手で刀を握っている。張り上げられた怒声が空気をびりびりと振動させその剣幕で一帯の空気を支配する。

刀身は押しても引いてもびくともしない。


「もう決めた!赤司はここには返さねえ!!」
「な、何を…!」


@@が怒りに任せて掌に力を込めた瞬間、血が吹き出したがそれとともに掴んだ場所から刀が折れた。
折れた刀を投げ捨てて@@は唖然とする父に背を向けた。


「任務完了全員撤退ー!!!」


統率の取れた逃走はそれはもう鮮やかなものだった。










「う、うしろっ…!まだきてる…!?」
「き、てゼエッ、ないッス…たぶん」
「あーーー!疲れた!あっつい!!」


とりあえず無我夢中走ったのでここがどこだか誰もわからなかった。
ひっそりした路地裏に全員で身を隠し面を取り払う。
見慣れた面子が疲れきった顔でそこにいた。
@@に抱えあげられていたので一人息を乱していない赤司は事態を理解するなり@@に詰め寄った。


「何をしたかわかってるのか」
「お前の親父さん助けた」
「何…」
「殺すつもりだったろ。物騒な」


その通りだ。あそこで乱入がなければ今ごろあの部屋は父の血にまみれ、己は親殺しのレッテルを張られていたはず。


「…何で、来た」
「勝手に学校辞めるとか言い出しやがって。お前が辞めたらバスケ部どうすんだよ」
「……」
「納得してねえのがこーんなにいるんだぞ」


@@は親指で背後の三人を指差す。
赤司が見やれば三人は真顔でピースを返してきた。


「…バカしかいないな」
「てめえもだよバァーッカ」
「否定したくせに」
「そりゃてめえが考え方変えないからだよ」


「本気で否定してたら痛い思いまでしてここまでこねえよ」


目の前に翻された掌はズタズタだった。
後ろの三人も赤司家ともみくちゃになったせいでボロボロ。

居場所は壊したはずだった。
なのにいつのまにか勝手に作り直されている。


赤司は@@の胸に額を押し付けた。


「…お前が、一番の大馬鹿者だよ、@@」
「ありがとよ」



泣いた赤鬼
(ところでその面は何だ)
(え、変装)
(制服着たままの時点でアウトだと思うよ)
(……身バレするねこれね)
10
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