一限目の途中で教室に帰ってきた@@を見て黄瀬と緑間は体の中で張り詰めていた不安と緊張を長いため息と一緒に吐き出した。
どこにも異変は見られない。


「クォラ!遅刻したのに何も言わずに入ってくるんじゃない!」
「っせーーな生理痛だよ!トイレ!」
「アホかぁ!!」


教師に叩く軽口もいつものまま。

どっかりと@@が席についた途端、お約束とばかりに黄瀬が腕を伸ばしてきた。手でも握るつもりだったのだろうが、またしても赤い火花に阻まれた。


「いっづ!!な、なんとかなってないじゃないッスか!」
「赤司と話したんじゃないのか」
「……しくじった」
「何もされなかったんスか!」
「黄瀬ェエ!うるさいぞ授業中だ!」
「今!大事な話してんスよ!!!」
「あとで職員室来い」
「げっ」




@@は一日浮かない顔だった。黄瀬が泣きついても生返事ばかりだし緑間がでれる素振りを見せてもぼーっとしていた。
赤司の結界のせいで無理にこちらを向かせることもできずジレンマは募るばかり。

それが二日も三日も続けばいい加減堪忍袋の尾だって切れる。
ついに怒りがメーターを振りきった黒子は炎のように影をゆらめかせて@@のところにやってきた。


「赤司くんがずっと上機嫌で腹が立ちます」


同じクラスであるがゆえその機嫌を見せつけられる苦行。笑顔はいつもの2割増し。@@と関わって日は浅いというのに何もかもわかっているような口ぶりでいるもんだから、「調子乗らないでください」と啖呵を切ったのはついさっきだ。



「何かされたんなら言ってください@@くん。僕がやります」
「やらなくていいっつの」
「このままじゃ赤司っちの思うツボじゃないッスか!嫌ッスよ俺!このまま@@っちに触れないのとか!」
「まあ触んなきゃ誰も怪我はしねえけどな」
「何を言っているのだよ」
「……黄瀬、俺が最初にお前ぶん殴ったときさ、痛かったか?」
「へ?」


最初、というのは恐らく黄瀬がはじめて@@に正体を明かしたときのことだろう。
そりゃもう痛かった、と黄瀬は言う。なかなか顔の腫れがひかなくてモデル業なんかしばらく出来なかったくらいだ。

「痛み止が効かなかった程度には…で、でももう平気ッスよ!それにあれは仕方なかったことだし!」
「はあ…手加減とか出来てねえよなあ…」
「お前、やはり何か赤司に言われたんだろう。…俺たちには話せないことか」


三人が悲しそうに@@を見つめてくる。

「俺と、お前らは…違う、し」
「え?なんて言っ」

「@@、帰ろう」



@@以外が振り返る。
問題の人物がにこやかに教室の入り口で待ち構えていた。
今にも飛びかかりそうな黄瀬や黒子を押さえて@@は自分の鞄を掴むと素直に赤司の元へ行こうとする。
緑間が待て!と手を掴むのだが、結界に弾かれた。



「何もすんな。ついてくんな。…俺がなんとかする」


とだけ言い残して







部活はいいのか、と聞けば今日は体育館に点検が入るから休みなのだと一刀両断された。@@には部活があったのだが…今日は自主休暇ということで。

赤司に付き合いいつもとは違う土手沿いの道を歩いた。
黄瀬たちと歩く騒がしい帰り道とはうってかわって赤司との歩みはすごくゆっくりで物静か。慣れない沈黙を紛らわすように、@@はひたすら遠くを眺めていたが意を決して自ら沈黙を破る。


「……、なあ、もう結界いらなくね」
「どうして?」
「誰にも触れないって結構しんどい」
「これでも加減はしているつもりなんだけどな」


僕の気持ちのあらわれかもしれない。
@@は目をそらしていて、赤司がどんな顔でそう言ったのかはわからなかった。


「まあ…力が強いってのは考えもんだよな」
「不自由はしないがな。…周りが下等すぎるだけだ」
「……お前は強すぎる自分の力が好きか」
「どちらかといえばね」
「あー…やっぱりお前と俺は違ぇよ」


@@は納得したようにうんうん頷いた。


「お前みたいな大それたもんとは違う。確かにさ、昔っから力強くて誰かに怪我させんのなんかしょっちゅうだったし、付き合えるのなんて体がでけえ敦くらいだった」
「……」
「誰にも触りたくねえ時期とかあったよ。お前に触ると怪我するって言われて」



不自由だった。触れたくても触れられない。自分の力が恐ろしかった。
腕を切り落とせば仲良くしていられるのか、怖い顔を潰したら誰も泣かないのか。

「俺は自分の力なんか大っ嫌いだ」


@@を繋ぎ止めたのはたった一人の幼馴染みだった。
「@@がどんなにこわくても、おれは@@がだいすきだよ」どんなに拒否しても幼馴染みは言ってくれた。
自分の力は好きじゃない。でもこれで救えるものが今は少なからずある。
それが救いだ。


「開き直って力ひけらかしてるてめえとは違う」


@@のようにたった一人でも紫原のような人間がいれば今は変わっていたかもしれない。最初から拒否して見下している赤司にそんな者がついてくるとも思えない。



「……そうか、わかった」
「わかったならいいけど」
「お前も俺を否定するんだな」
「はっ……!!!」


一瞬で迫ってきた赤司の手のひらが@@の首をとらえ思いきり土手に押し倒される。勢いがつきすぎた@@の体は土手の坂道を転がり原っぱに投げ出された。強かに打った背中痛くても起き上がらなければいけない、しかしそれは馬乗りになって首をしめてくる赤司が許さなかった。



「てっ…めぇ…!!」
「ようやく見つけたお前も所詮は人間か。がっかりしたよ」
「ふざ……!がっ…!!」
「逆らうやつは親でも殺す。お前も、理解できないならいらない」


皮膚を突き破らんばかりに赤司の指が@@の首に食い込む。
抵抗なんてあってないようなもので、鬼の本気にはたとえ@@であれど歯が立たなかった。


「っは、やっぱ、…おれは、てめ、とは違うわ…!!」
「まだ言うか…!!」


死の瀬戸際だというのに@@はうめきながら口許に笑みを作った。


「くんなって、いったじゃん」
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