向かった先は屋上だ。始業のチャイムは移動中に鳴ったためもちろん人っ子一人いない。捕まれていた手を振り払って@@はふんぞり返る。


「で、結界取ってほしいんだけど」
「取ったらどこ馬の骨とも知れないやつに汚されるじゃないか」
「チームメイトにすらそれ言うのか」
「あいつらは別…と言いたいところだけど、そうもいかない」
「……なんでお前俺のことそんな気にすんの」


顔を見合わせたのなんてつい昨日じゃないか。
なのに誰にも触らせることすら許さないなんて独占欲を見せつけられる。



「僕の家にはしきたりがある、と今朝言ったろう」
「ああうん」
「僕の父はとても厳格な人でね。その厳格な父に認められはしているが、そのために父は早く僕に跡を継いでほしいそうだ」


赤司の家は日本はもちろん海外にも着手している大手企業の経営者だった。経営もさることながら、赤司家は古くから鬼の血を色濃く残しそっちの世界でも知らぬ者はいない。
幼いときからその全てを叩き込まれ、知識を貪欲に吸収し今では大人だろうがなんだろうが赤司の敵ではなかった。
自分のレベルが上がれば、伴侶のハードルも上がる。気づけばハードルは天より高い場所に位置していた。


「でもまだ継ぐには早い。僕は、あいつらと一緒にいられる今が気に入っている」
「じゃあ伴侶なんかいらねえじゃん」
「父は気が早いんだ。伴侶を後回しにするなら学校をやめて家を継げと」
「それで俺にスケープゴートになれって?」
「まあ…そういう扱いになってしまうかもしれないが。お前を気に入ったのは本当だよ」
「あんま嬉しくねえ」
「…父は、赤司の力を絶やしたくないだけだ」


言いなりにはなりたくなかった。
でも

「@@は肉親に化け物と罵られたことはあるか?」
「ねーよそんなん」
「それは何より。僕はある」



赤司の母は父が見込んで連れてきた優秀な女だった。
赤司の遠縁ではあったが鬼の血は薄くほとんど人間に近い。
母は日に日に大きく、恐ろしい力を秘めていく赤司に畏怖を抱いていく。
まだ十にも満たない時分に伸ばした手を触れるな!と叩かれたときの記憶は忘れたくても忘れられない。
ただ自分を産んで、育てただけの女だ。今となっては鼻でせせら笑うレベルであっても幼い自分が感じたあの虚無は塗り替えられない。




「同情した?哀れ、と思ったか?」
「別に……」
「別に、という割には浮かない顔をしているな」


赤司の指が@@の頬を掠めるように撫でていく。
触れた指には確固足る体温が宿っている。普通と違う血が赤司の中に流れていようとも人間社会で生きる彼は常人と変わらない。
赤司の金の瞳が見透かすように@@を射抜く。


「お前にも覚えがあるだろう?人と違う力、それも最大級のものを持っているのだから」
「俺は」
「大丈夫だ、僕なら理解してやれる」

甘言。昔に喉から手が出るほど@@が欲した言葉だった。
赤司の細い腕が背中に回るのがわかっていながら@@はそれを拒めなかった。

同情、いいや同調している。


「@@の、真の理解者になりたい」



同じ言葉を返せと強いる
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