教室に緑間と黄瀬がやってくると、すで@@は席についていてぐったりと机にうつ伏せになっていた。
「@@っちはよッスー!」
「うるさい黄瀬…おはよう…」
「朝からどうしたのだよ」
「あのさあ…赤司なんとかしてくんない…」
げっそりした顔で言う@@に二人はうっと言葉を詰まらせた。
「俺結婚すんなら女の子がいいよ…桃井サンみたいなかわいくて胸がおっきい子がいいよ…」
「あ、赤司っちの伴侶がどうって…」
「こういうことだろうな確実に…」
@@は散々チームメイトに冷やかされた後で身も心もグロッキーだった。
哀愁の漂う背中がいたたまれなくてそっと黄瀬が背中を擦る。
バヂィッ!!!
「いっだああ!?」
「な、なんだ!?」
黄瀬が@@の背中に触れた途端赤い火花が散った。
大声に驚いた@@が顔をあげる。
「なんスか今の!」
「俺なんもしてねえぞ!」
「まさか……」
冷や汗を流しながら今度は緑間が@@に向かって手を伸ばす。
しかし結果は一緒だった。
緑間の接触を@@が拒むように赤い火花が散って指一本たりとも触れることを許さない。@@の体から、@@のものではない別の力が干渉している。
「赤司め……!結界を張ったな…!」
「なにそれ!?」
「赤司っちに何かされなかったッスか!」
「えー別に…ロッカー壊されてごちゃごちゃ言われて…最後に肩叩かれたくらい」
「「それだ!!」」
「結界ってもっと難しくねえか…俺全然できないんだけど」
「お前と赤司では頭の出来が違うのだよ」
『これからは不用意に僕の@@に触らないでくれ。……まあ触れたら話だけど』
あれはこういうことか!と二人は歯噛みした。
たった一瞬触れただけでここまで強い結界を張られるとは予想外で二人は成す術がない。
「俺はどうなるんでしょうか緑間先生」
「(先生って響きいいな)……このままだと赤司以外に触れられないし触れられることも出来ないのだよ」
「嫌ッスー!@@っちに触れないとかなんの拷問ッスか!(バチッ)いってええええ!」
「バカ学習しろ!」
@@は己の両手を見つめた。これは確実に日常生活に支障をきたすレベルだ。このままでいれば一生赤司から物理的に離れられなくなる。
勢いよく@@は席を立った。
「あいつ何組だっけ」
「C組なのだよ」
「ちょっと行ってくる。先生に適当言っといて」
「俺も行くッスよ!」
「いい!ややこしくなっからここにいろ!いいこだから!」
なっ?と言われて黄瀬は頬をピンク色にしながらはい…と呟いた。
緑間が舌打ちする。
「まずいと思ったらすぐ連絡するのだよ」
「わぁっとるわ、じゃな!」
すれ違う人間にも気を配らなくてはならなくて@@は気が気じゃなかった。途中ぶつかった教師に火花を散らせてしまったのはご愛敬。むしろ昨日@@を叱りつけた教師だったので内心ざまあみろだったというのは彼だけの秘密。
赤司のクラスの扉を開けるとまだ担任はやってきていないらしく、@@がきてもクラスメイトの誰かが振り返ってくるわけではなかった。
「あれ…@@くん?」
「よう黒子、赤司い…触んな!!!」
赤司は黒子と一緒のクラスだった。
とことことやってきた黒子が@@の体に触れかけたのだが@@はざっと仰け反ってそれを拒否。ガンッ!と黒子の上に重たい鉛が落ちた。
「すい…ません……そんな…嫌がると思わなくて…」
「あ、あー…違うんだよ…その…」
「もう僕はダメです…全校生徒影に隠して僕も死にます…」
「待て待て待て待て!違うんだってば!」
決して黒子には触れないよう、@@は細心の注意を払いながら事情を説明する。ぱっと黒子の顔が明るんだが、すぐに顔に濃い影を作って窓際の席をにらむ。視線の先には赤司がいた。
「任せてください。たとえ刺し違えてでも殺ってみせます」
「やめろっつの!どいつもこいつも…!あいつやばいんだろ、なるべく穏便に済ませてえんだよ」
「でも…」
「とりあえず呼んでくれ。なんとかすっから」
頭を撫でてやりたいところだったが今やったら黒子が被害にあってしまう。引っ込められた@@の手を寂しそうに見て黒子は赤司の元へ行った。
「何かな、テツヤ」
「……わかってるくせによく言いますね。@@くんが呼んでます」
「来る頃と思ったよ、ありがとうテツヤ」
「……赤司くん」
静かに席を立つ赤司に、黒子はすれ違い様に言った。
「@@くんに何かしたら君を殺さない自信はないです」
覚えといてください、と残して黒子は自分の席へつく。
赤司はただ微笑だけでそれに応えた。
「よう性悪鬼」
「性悪とはひどい言い種だな。どうだ、誰にも触れない気分は」
「最低以外に何があんだよ」
「僕からすれば最高だけどね」
場所を変えよう、と赤司は@@の腕を引いた。拒否反応は当然のごとく出なかった。
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