一軍の連中は揃いも揃って張り切っていた。紫原の守備はいつにも増して鬼気迫るもので、黄瀬の動きは妙に速い。緑間はわざわざ遠い場所からシュートを撃ちたがるし黒子に至ってはもう見えない。
一点取る度に歓喜し、取られれば床を叩いて悔しがる。

ただの練習であるというのに。


「思った以上に全員の動きがいい」
「あっそ…もう帰っていいか」


無言のまますらりと抜き出される鋏。
大きく舌打ちをして横を見たとき@@の目が輝いた。


「(桃井サンじゃん…!)」


学園のマドンナが駆けてくる。こちら目掛けて。
むさ苦しく暑苦しいコートに咲いた大輪の花の登場だった。
彼女の周りだけきらきらと光がほとばしりピンク色のオーラが漂っている!話しかけたい、お近づきになりたい!
自分を通りすぎ赤司の前で止まった桃井を見ながら@@はそわそわと身体を揺らした。


「遅くなってごめんなさい赤司くん…!」
「構わない。大輝はどうだ?」
「やっぱり風邪だって。この季節にザリガニなんているわけないのに!川に入るとかほんともうバカ!」
「大輝らしいな…あいつはほっておくと危険だ。桃井、大輝を頼むよ」
「え、でもマネージャー業…」
「今日はサポートの天才がいる。安心していい」


赤司が視線を送るのはもちろん@@。俺かよ!と自分を指差すと赤司は微笑んだ。


「じゃあ今日だけ…」
「桃井がいれば大輝の風邪も明日には治るだろう。…でも病人食は市販のものを買っていくこと」
「ええー市販ので栄養つくかなあ…」
「僕は大輝にとどめを刺すために桃井を向かわせるわけじゃない」
「え?」
「もう行っていい」


不服そうな顔の桃井の背を赤司が軽く押した。
不服そうなのは@@もいっしょで、せっかく来た癒しが帰ってしまうことに多大なるブーイングを送りたい気分だった。
チャンスが逃げた…と肩を落としたが意外にも桃井は@@の目の前にやってきたではないか。




「…**くん」
「え?」



まさかの!と@@は期待に胸を踊らせたが桃井の顔は何故だか少し膨れっ面だった。



「私負けませんから!」
「え、え?なにが?」
「テツくんへの気持ちはぜーったいに負けない!」
「え、なんなのちょっと」
「**くんをライバルって認識したからには略奪愛上等なんだからーーーー!!」
「まっ待って桃井サン!桃井サーーーン!!」


走り去っていく桃井に向かって伸ばした手は空しく宙を切る。
仲良くなりたいのにライバル認定されてしまう@@は今日一番の不運な男だった。相変わらず女子とだけはフラグがたたない。


赤司が鼻で笑った





休憩が始まった途端、一軍がアメフトの試合を思わせる押し合い圧し合いしをしながら@@の元へやってくる。勢いよくタッチダウーン!!したのは小さい体と影の薄さを利用した黒子であった。


「待った甲斐がありました」
「俺入らないからね」
「まあここまで来たんですから」
「やらねっつの」

頑なに拒否しているのにそ…と手渡されるバスケットボール。
顔をあげれば黄瀬と紫原と黒子、緑間まで親指をぐっと立てている。


「俺サッカー部!!部外者がやっちゃだめなの!わかる!?」
「許可しよう」
「え?」
「許可しよう」


声の抑揚もそのままに赤司は同じ言葉を繰り返した。




「何でだ!」


ジャンプボールの位置につきながら@@は叫んだ。
厳選なるジャンケンデスマッチで決まったチーム分け、@@、黄瀬、黒子チーム対緑間、紫原、赤司の3on3の戦い火蓋が切って落とされようとしている。
@@は体育でしかバスケをプレイした記憶がない。しかもその体育ですらサッカー以外は真面目に受けていないのだ。一通り説明を受けたもののまったくルールが理解できていない。


「@@とおんなじチームがいいー黄瀬ちんかわってよ」
「嫌ッス!こればっかは譲らないッスからね!」
「じゃあ黒ちん」
「断固拒否」
「けち!」
「いいじゃないか敦。こちらが勝てば入部してくれるんだから後でやり放題だよ」
「じゃあ頑張るし〜」
「おいなんだそれ!聞いてねえぞ!」
「そうでもしないと手を抜いて早く終わらせそうだからな」


にや、と相手チームが全員怪しく笑った。
後ろを振り返れば味方がこれは負けるべきかと顔を見合わせている。
誰も味方がいない。


「どうなっても知らねえからな…!!」


@@は歯噛みした。




ジャンプボールは二軍の暇そうだった部員を適当に捕まえてスターターを勤めさせた。一軍のコートに入るだけでもびくびくするのに全員から発せられる殺気に部員は恐れおののいた。


「何をしているのだよ。早く投げろ」
「は、はいい!!」


緑間に睨み付けられた部員はボールを放ると耐えきれずに逃げ出した。

@@と緑間が同時に飛び上がる。@@のほうが緑間より身長は低いはずなのに手の高さがほぼかわらない。むしろその手が緑間の手を抜かした瞬間誰もが目を剥いた。


「この時点で無理だっつの」


バァン!!!
@@の手に弾かれたボールは黄瀬や黒子の手に渡ることなく隕石のような勢いで床に叩き落とされ


破裂した。



「え、ええええ!!」



ボールだった皮切れを拾い上げて黄瀬が叫ぶ。
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