なりふりかまわず@@は家に逃げ帰った。
早かったわねーなどという母の言葉に耳も貸さずトイレに引きこもりズボンの中を覗き込んで愕然とする。
一瞬、粗相をしてしまったかと絶望したがズボンの中に広がるそれは自分の予想していたものと違う。このねばっこいものはなんだ。



「(お、俺…病気なんじゃ…)」



死を覚悟した。原因不明の病だと@@がこの短時間で導きだした答えはそれだった。実際はもちろん違ったが当時@@は小学生。まだ性教育のせの字も知らない子供だった。


@@は氷室の顔や、手の感触を思い出して頭を沸騰させる。
ただ触れられただけではきうならなかっただろう。ただ単に相手が悪かった。

氷室という少年は犬も猫も気持ちよくさせる天才。
そして人すら手だけで絶頂に導くマジックハンドの使い手だったのである。


「(俺死ぬ)」



誰にもこのことは言えなかった。
両親にも、もちろん氷室にも。そのことが頭にあったせいで@@は帰国までろくに氷室と話すことができまかった。
氷室のことは好きだった。でも顔は見れないし手を見ると恐ろしく身震いしてしまうのだ。


「@@、ごめん」
「べ、べつに…」


帰国前日。どうしても話したい、という氷室が家にやってきて@@は嫌々ながらも玄関へ出た。
氷室は深刻そうな顔をしている。


「もう、俺のこと嫌いになった、かな」
「そ、そんなことねえけど…辰也のことは、すきだよ」
「ほんとに…!?」
「でも、辰也は、俺のこときらいになる、かも」
「そんなことない!」


氷室は@@に詰めよって珍しく取り乱しながら肩を掴んできた。
思ってくれていることを肌で感じた@@は自分の「病気」を氷室に話してしまったのだ。

自由の国、アメリカ。日本の奥ゆかしさを知らないその国で育った氷室は@@の「病気」の正体を知っていた。
小さく氷室は笑うとうっとりした顔で@@の頬を撫でてきた。


「大丈夫、死んだりしない」
「ほ、ほんとか!?」
「うん。ちょっと大人になっただけだよ」
「おとな…?」
「きっとすぐわかるよ。できればほんとの意味は俺が教えてあげたいけど」


いつかね、と氷室は@@の耳元で囁き頬に軽くキスを送るとにっこり笑った。


「またね、@@」





ひとつの悩みを解消し、@@は日本へ帰っていった。
それから時は経ち中学に上がり@@は保健体育の授業で全ての意味を知ってしまう。気付いた瞬間、@@の中でトラウマが爆誕した。


それから@@はイケメンが大嫌いになった。見れば見るほど昔の記憶が触発されてあの綺麗な氷室の顔が浮かんできてしまうためだ。イケメンは信用ならない。あの甘いマスクの下で意味のわからないことを考えて自分を貶めてくる。
羞恥はいつのまにか恐怖に塗り替えられて@@の中で拒否反応として現れるようになってしまった。

数年かけて克服したかと思った矢先トラウマは更に容姿に磨きをかけて目の前に現れる。


なんの拷問だ



「@@、俺あのときの約束を果たしたいんだ」
「約束なんかしてねえ!帰れ!!」
「だって@@だって気になるだろ?あれの続き」
「なななななならねえ!やめろ!」
「また@@の可愛い顔が見たいんだ」
「やめろォオオイヤアアアア!!」
「ちょっとマジどういうことだし…!」
「アツシには秘密、かな?」



ヒーローの弱点
(これからはずっと一緒にいられるな、@@)
(ガタガタガタガタ)

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