@@は甘いマスクで耽美な言葉を吐き散らかす顔の整った男、通称イケメンが大嫌いだった。常日頃から爆発すればいいと思っていた。
何事にも嫌いになるにも好きになるにもそれなりの理由があるはず。そのセオリーにならい@@のイケメン嫌いにももちろん理由があった。


「(ほんとこいつ顔だけは整ってるよな)」


唇を突き出して今にも@@に接吻ぶちかましそうな黄瀬を見て他人事のように考えた。最初はムカついてしょうがなかったこの顔も今ではさほど@@の神経を逆撫でしなくなった。もしかして克服しつつあるのか?淡い期待を抱きつつ思いきり頭上から黄瀬の頭に手刀を振り落とした。


「いっだ!!@@っち起きてたんスか!」
「寝込み襲うとはいい度胸だなてめえ」
「だってこんなチャンス滅多にないかなーって…」
「黙れイケメン爆死しろ」
「痛い!ぶつならもうちょっと優しくしてほしいッス!」


でもちょっと快感かも…とMに目覚めつつある黄瀬はほっておいて凝り固まった体を解しながら@@は後ろを振り向いた。

「緑間、次の授業何」
「体育なのだよ。覚える努力くらいしろ」
「めんどーい」
「寝癖までつけて……真面目に授業を受ける気がないのか」
「んあー」


変な方向に折れ曲がった前髪に緑間が指を通すと@@は目を閉じてされるがままになる。はね除けられるかと思っていたのに案外従順に伏せられた瞼にどきりとした緑間の指が不自然にぶるぶる震えた。


「なんスかこの甘い空気!遮断!」
「った…!何をするのだよ黄瀬!!」
「むかついたんスもん」
「頬を膨らますな!気色悪い!」
「体育ーサッカーがいいわあ」


ぎゃあぎゃあ騒ぎだした二人を放って@@は鞄からジャージを引っ張り出すと一人更衣室に向かう。
中休みで賑わう廊下。人混みをするする掻き分けているとき、ふいに@@の腕が後ろに引っ張られた。


「@@…?」
「あん?」



寝起きでいつもの二割ましでふてぶてしく振り向いた@@の顔が後ろにいた人物を目視して固まった。
濡れ羽色の艶やかな髪、長い前髪で隠れたミステリアスな方目。色っぽい泣き黒子。女子十人中十人がイケメンですねと称する顔が目の前にある。


「やっぱり…!@@!I missed you so much!」



流暢な英語とともに抱き締めてきたイケメンの体温を感じて、



「うわぎゃイィィイイィヤアアアアア!!!!!」



@@はたまらず叫びだして猛スピードで逃げた。








紫原が@@を見つけたのは偶然だった。チョコを食べるため包み紙を開けようとしたとき力加減を誤ってチョコが手から飛び出してしまったのだ。転がっていった先、一階の階段裏、埃がたまったそこに@@が全身をガタガタ震わせながら体育座りで座り込んでいた。


「あらら?@@なんでここにいるの?サボり?」


グラウンドに緑間と黄瀬がいるのを紫原は先程見かけたばかりだった。@@もいるものだと目をこらして探したが見つからずやる気がなくなってついで授業もサボっている。
@@が唯一好きと呼べる授業に参加しないのは珍しかった。



「どしたの?寒いの?」
「い、イケメン…イケメンがおっかけてくる…」
「@@?」
「何でだ……ここは日本だ…!」
「聞いてよ」


ぱん!@@の目の前で猫だましをかますと音につられて@@がはっと我に帰ってようやく紫原を視界に入れる。


「あ、敦……」
「ここで何やってんの〜?」
「敦っ…!」
「わ、」


がばっと@@が紫原に抱きついてきた。全身を使って離れまいとぎゅうぎゅうくっついてくる。紫原の周りにぶわああああと花が咲き乱れ思いもよらない嬉しいハプニングに喜びを露にしてその体を思いっきり抱き返した。いつもつんけんな幼馴染みが!めちゃくちゃかわいい!つらい!


「なになに?どうしたの?あまえたいのー?いいよー」
「うぐうう敦もうずっと抱き締めててくれ離さないで!俺を隠して!」
「っ…!!!!」


な に こ れ

全身を電流が駆け巡ったような衝撃。甘い甘い目眩に頭がぐらぐらしてたまらず紫原@@の首元に顔をうずめてぐりぐり頭を押し付ける。
離れろとも暑苦しいとも言わないどころか力強く@@はハグに答えてくる。しかも監禁希望ときたもんだ。意気揚々と紫原は@@をそのまま抱え上げた。まる@@はだっこちゃん状態で両手両足を紫原に巻き付けている。


「じゃあもう帰ろ?もっと@@とふたりっきりになれるとこ行きたい」
「もうどこでもいい…イケメンがいないならどこでもいい…」
「よくわかんないけどわかったしー」


荷物なんてどうでもいい、@@さえお持ち帰りできれば。
スキップしそうな勢いで下駄箱に向かう紫原だったが、その前方を意外な人物が遮った。


「あらー?なんでここにいんの?」
「やあ、アツシ久しぶり」



ビックウ!と紫原の腕の中の@@がおもしろいほど震え上がった。携帯のバイブレーション機能のごとく震え続け痛いくらいに紫原の体にしがみついてくる。


「いたた、@@ちょっと痛いし」
「ああ、やっぱり@@なんだねその子」
「はあ?室ちん@@しってんの?」


更に@@の体が震えて信じられない、という絶望しきった目線で紫原を見上げた。


「お、おおおおおま、奴と知り合いか…!?」
「んー?中学のとき一緒によくバスケしてたー@@こそ室ちん知ってんの?」
「しっしら!しらない!あんなイケメンは知らない!!」
「ひどいじゃないか@@。俺と@@の仲だろ?」
「ヒッッギャアアアアア!!!」


背中に迫ってきていた彼を見るやいなや@@は情けない悲鳴をあげて激しく暴れだした。
服で手が滑って紫原はうまく@@を抱えていられなくなる。



「@@!暴れたら落ちる!」
「無理無理無理無理!!イヤアアア助けて敦あいつやっつけてええええ!!」
「ちょっと室ちんあっちいけし!@@いやがって、あ、ちょ落ちるってば@@!」


紫原の健闘もむなしく、ずるっと@@の体が紫原の手から離れる。
ぎゃ、と今度は紫原が悲鳴をあげた。
しかし落としたはずの@@は床に尻餅をつくことなく紫原の前で固まっていた。
王子さまのようなきらびやかに光るオーラを纏った男ーーーー氷室辰也の腕に受け止められて。



「そそっかしいところは変わってないんだな、@@」


でもそこが可愛いよmy kittyと歯が浮くような言葉をさらりと言ってのけ、ご丁寧に@@の額にキスまで落とした。

@@が白目を向いて失神した。



「室ちぃいいいいいん!!!!」
「アツシ授業中だよ。静かにしないと」


英雄VS王子
(はあ…白目向いててもcuteだよ@@…)
(室ちんがめっちゃきもい…返して@@かえしてよ!)
(No way!!!!!!)
(む、室ちんが切れた…)
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