「@@く…」


昼休み、@@のところにやってきた黒子は名前を言いかけて止まった。
@@の席にゾンビが座っている。その上に紫原がのしかかってとどめを刺そうとしている。更にその巨体をどかそうと黄瀬が躍起になっていて、まるで昔話のおおきなかぶ、のワンシーンのようだ。


「ぁあああ…うぅううう……」
「@@〜お腹すいたし〜」
「紫原っちどいて!俺がそこにいたいッス!」
「何してるんですか。あと紫原くんどいてください」
「おおぉ…黒子じゃぁん…いやさあ…飯買うお金がなくってねえ…」


昨日、祠を作るために@@は自腹を切ってホームセンターやらで材料を買い込み不格好ながらも神の怒りを鎮めたのである。ほぼ緑間が儀式的なものをしてくれてやっつけ祠でもなんとかなった。
あれだけ暴力を振るって神が許すはずもないだろうが、負けた事実がある限り神は早々@@の前には現れないだろう。

おかげで@@の持ち金はパア。いい木材は結構高い。弁当用の食材も、購買で買うお金もない。自動的に紫原の弁当もないわけで今の状態が出来上がっている。


「僕のお昼分けますよ」
「アホ言え…お前ただでさえ食うの少ないんだから食えや…」
「俺だってあげるッスよ!」
「てめえの施しは受けん……」
「何でッスか!!」
「あー…空から飯降ってこねえかなあ…」



ぎゅるるるる、と@@腹の中に住まう巨大な虫が飯を寄越せと鳴いていた。やはり何を言われても口に突っ込むか、と黒子が持っていたパンの封を開けようとしたとき@@の頭上に影が差した。


ドサドサドサッ



降ってきた。本当に空から食べ物の群生が。
薄い包装紙から漏れる香ばしい香りに目を限界まで開いて@@は飛び起きた。


「飯降ってきたァアアアア!!!」
「そんなわけがないだろう」



焼きそばパンを握りしめ@@が叫ぶ。
@@は割り込んできた声に見向きもしないが、紫原と黄瀬と黒子はパンの雨を降らせた人間を見てすごく嫌そうな顔をしている。


「どういう風の吹き回しッスか、緑間っち」
「今日のおは朝の占いで弱者への施しが吉と出ていたからだ。他意はない」
「うおおおおこれ限定三食の三十色パンじゃん!はじめて見た!」
「……他意がない人が限定パンまで買うんですか」
「そう言わないでやってよー真ちゃん頑張ったんだからさ」



緑間の影から高尾もひょっこり顔を出して@@これも!とご機嫌な様子で飲み物やらプリンやらを差し出した。更に@@の表情が輝く。


「昨日はありがとな、すっかりよくなった!」
「プリン…おおプリン…!!いいのかこんなに…!」
「@@のためならいくらでも買ってきちゃうよ俺!」


なんだ…この無駄に仲良さげな雰囲気は…

突然現れた二人の刺客に残りの三人は驚きを隠せない。
黒子の額に青筋が浮かび、黄瀬と紫原が緑間の肩を掴んだ。
軽く円陣の体制である。



「ちょっと意味わかんないんだけどミドチン。何であいつまで@@に馴れ馴れしいの。捻り潰すよ」
「つーか緑間っち@@っちのこと好きじゃないんスよね、やめてほしいんスけど餌付けとか」
「そうやって虎視眈々と狙うんですか@@くんを。イグナイトしますよいい加減」
「別にお前たちには関係のないことなのだよ」


三人の腕を振り払い、眼鏡を押し上げながら男の嫉妬は醜いのだよ、などと言う緑間を見て三人の意思がひとつになる。出る杭は打とう。
ばきぼき拳や首を鳴らす三人は臨戦態勢だった。


「ていうかさ!ほんと@@って男らしいつかかっこいいつかさ……俺昨日みたく@@に迫られたらもう拒否る自信ないわー」
「迫った覚えないんだけど」
「迫ったじゃん!あんな情熱的に…「高尾、ちょっと来い」え、何真ちゃん顔こわ…」



@@は幸せそうに与えられたパンをむさぼっている。
苦労して買ってきた甲斐があったとつい緩む口を緑間は慌てて隠した。
高尾は後ろで三人に囲まれ大分かわいがられていたが今の緑間には@@しか見えていなかった。

「あんなやり方をするとは思わなかったのだよ」
「んふぉ?」
「下手を打てば死にかねん。高尾のためとはいえ、よくもあそこまで体を張れたな」
「んうっふ、んもももが、んぺっ」
「汚いのだよ!口のなかの物を飲んでから喋れ」


ちょっと待て、と@@は手のひらを緑間に付きだしパンを飲み込むとあっけらかんと言った。


「お前強いらしいし二人でいきゃなんとかなるかなーって」
「な、」
「実際なんとかなったからいいじゃん。まあお前は俺嫌いみたいだけど。……付き合わせて悪かったな」



@@の言葉が緑間の胸に突き刺さった。
@@の言うことは尤もだった。
人が一人増えたところで緑間と@@の退魔のスタンスは真逆。相容れることなどないと思っていた。だからこそ突き放されるような態度を取っていたのに。
しかしあれだけ苦手意識を持っていたのに、今となってはそれすら無い。初めの頃の自分を殴って怒鳴り付けたい。



「(遠い)」



距離を作ってしまったのは自分だ。


「でも俺らいいコンビだったんじゃねーの」
「は?」
「俺には無理なことがお前にできる。お前には無理なことが俺にはできる」


俺はお前がいて安心したよ。

つっけんどんな態度で、口にはコロッケパンを頬張った状態のまったくかっこよくもなんともない@@なのに緑間にはとんでもなく輝いた存在に見えた。

踏み出せ緑間真太郎。一言、一言でいい。
こいつをここで手放してはならない。
緑間のなかのもう一人の自分が大きく叫んだ。



「お………れも、」
「んんー?」
「お前が、いて……よかったと、思うのだよ…@@」



あとべつにそこまできらいじゃない
蚊の鳴くような声で緑間は必死に絞り出した。
耳も首も真っ赤な緑間を見て@@はコロッケパンを吹き出す。



「わっ笑うんじゃないのだよ!」
「お前かっわいいなー!!ギャハハ!」
「@@!!」
「あーー腹いってーー!」



天敵の絆方

(真ちゃん、俺ほっといて@@と仲良しこよしとかどういうつもり!!)
(やっぱり緑間くんははやいうちにやっておくべきでしたね)
(今からでも遅くないんじゃないッスかね)
(ていうか黄瀬ちんも黒ちんもミドチンもまとめて捻り潰すし)
(やれるものならやってみればいいのだよ)
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