皆さんはご存知だろうか。
この世には目には見えない闇の住人たちがごまんといることを。
やつらは人間社会に溶け込みあたかも人間のように暮らしていることを。…まあ知らないよな普通。
あいつらと俺たちの間には暗黙の了解がある。それはお互いの領域をみだりに侵食しないことだ。
もしそれを破ったのが人間なら、向こうから手酷い粛清を受けるわけ。災害だとか祟りだとか。歴史が散々物語ってるだろ。表立って言わないだけでさ。
しかしそれが逆の場合、向こうがこっちの領域を侵したとき、奴等をなんとかできるのが人間にも必要だ。
それは普通の人間じゃ務まらないし、数も少ない。

でも、いなきゃ話がはじまんないだろ



「@@ー!敦来てるわよー!」
「んー……ん?」

覚醒しきらない頭に響く母の声。
目覚ましもまだ鳴っていないというのにどういうことだ。


「@@ー」
「ンゴォッ!?」

寝ぼけた俺の思考なんてお構いなしに間延びした声と共に俺にのし掛かった尋常じゃない重量。一瞬呼吸が止まって意識が再び遠退いた。これなら目覚ましの金切り声のほうがましってもんである。


「起きてよー折角俺来たんだからー」
「お、おご…」
「あれまだ寝てるしー…もうちょっと強く乗っかった方が」
「やめろバカ!!!」
「あー起きたーおはよう@@」
「…ブホッ、ウェッ、…なんてことすんのお前マジで…ていうか何でいんの、敦」


腹に残る圧迫感(内蔵とか破裂しちゃったんじゃないのこれ)にえづきながら俺は幼馴染みを睨んだ。当の幼馴染みは俺の頭についているらしい寝癖を弄びながら言う。


「一緒に学校行こうと思って」

呼びに来た。


…その二メートルの巨体で覆い被さる前に、百キロ近い体重でのしかかる前に、なぜお前は電話なりメールなりで事前に俺に了承を取らないんだ
お前普段こんな早く起きねーだろ 絶対無理じゃん

ということを早口で捲し立てると


「だって楽しみだったしー」


幼馴染みは僅かに頬を赤らめて言った。

うん、天使。


「わかったよ、準備すっからちょっと待って」
「うん」


ハンガーにかけられた真新しい制服。
水色のワイシャツに白いブレザー。人生でブレザーを着るのはこれが初めてになる。
ちなみに言うと、敦もこれと同じ制服を着込んでいる。

「えへへ、@@とおそろい」
「そりゃ同じ学校行くんだから当然だろ」
「それが嬉しいんだってばー」
「…はいはい」


クッソがぁ!この巨体でそこまでかわいいって反則だろ!本人には絶対言わないけどね!絶対言ってやらないけどね!調子乗るから!!

話が反れたけども、同じ制服でなんで敦がそこまで喜ぶのかっつったら俺と敦は中学は別々、そして今日から始まる高校生活は同じ場所で過ごす。からである。
自分で言うのもなんだが、敦は俺が大好きだ。
自意識過剰とかでなく。


だって嫌いな相手に中学三年間自分の学校に転校してこいとか言い続けるか?受験のときに持ち帰った入学希望届け志望校勝手に書き換えるか!?
得意のバスケとお菓子以外飽きっぽく投げ出しやすい敦の3年に及ぶネバーギブアップスピリッツに俺は敗北を認めた。


……お前エスカレーターだからいいけど、推薦蹴ってお前の学校の一般入試受けんの大変だったんだからな。





きゅっと慣れないネクタイを締める。
敦に変なとこないか?と聞くと敦はぷるぷる震え出す。あ、これはくる。


「@@っ!!」
「ぬおぅっ!」


敦が我慢ならなくなると十中八九こいつは俺に飛び付いてくる。抱きついてくるならまだいい、しかしこいつはバスケで鍛えた持ち前の跳躍力を生かして文字通り飛びかかってくるのだ。俺が受け止めるのを前提で。


「敦…!てめまたでかくなったな…!?」
「えーそうかなー」
「でかすぎ!抱えにくいんだよ!」
「えー@@なら大丈夫でしょ」
「どっからくんだよその自信……」


188センチ70キロちょっとの俺に対し208センチ99キロの敦。腕力には自信あるよ?しかし体格の差から安全に姫抱きし続けるの無理な気がしてきた。負け惜しみとかじゃなく。

しがみついて離れない敦を抱えたまま一階へ降りる。リビングから母さんが出てきて俺たちを見るなり親指をグッと突き立ててきた。

「敦、いつでもうちに養子縁組しに来ていいから」
「おばちゃん、」


ガッ!!


「おばさんって呼ぶなっつってんだろ殺すぞ」
「ごめんなさい」


敦を上げる俺も相当だと思うけど、敦の頭つかんで片手で持ち上げる母ちゃんのが俺はやばいと思う。

「つか母ちゃん養子縁組とか敦本気にすっからやめて」
「よーしえんぐみってなに?」
「敦と@@が結婚するってことよ」
「@@よーしえんぐみしよう!!結婚!!結婚!!!」
「しねえよバァーーッカ!!」


敦を交え、母ちゃんの茶々を受け流しながら朝食をとり俺たちは学校へ向かうことにした。ちなみに今日の朝飯はご飯四杯鮭が二切れ味噌汁3杯ハムチーズのっけたパンが四枚。少ない。
敦に「食べ過ぎじゃね」とか言われたがお前のお菓子の消費量に比べたら可愛いほうだろ。

「いってらっしゃいー高校生!」
「いってくるー」
「ばいばーい」
「あ、@@ちょい待ち!」
「いっで!耳引っ張んな…!」

出掛けに母ちゃんが俺の耳を引っ張って連れ戻す。

「敦の肩」

その一言ですべて把握した俺は


「わかってる」

とだけ言って母ちゃんに手を振り今度こそ家をあとにした。

「何話してたの?」
「なんでもねえ、よっ!」
「いっ」

敦の無駄にでかい背中をバシン!と一発叩く。
何すんだし…と敦は顔をしかめたがすぐにおや?という顔になった。

「どうしたー」
「んー…なんかね、朝から肩重かった気したんだけど、@@が叩いたら治ったー」
「ほーさすが俺だな」
「やっぱ@@すごいしー」



ここでひとつネタばらししよう。
敦はなんていうか、悪いものを連れてきやすい性質なのだ。本人が子供っぽいからだろうか、気づくと背中とか肩とかにお土産をたくさん背負っている。
今日は女を背負っていた。皮膚が青白くただれ、濡れた髪の毛がぺったりと顔や首にはりついていたりてらてらと光っていたところから見て水難事故かなんかのあれだろ。どこから拾ってくるんだそんなの…まあもういないからいい。



慣れない通学路を敦と歩いてんだが、敦は始終ご機嫌で俺からひっついて離れない。歩きにくい。



「ねー@@、部活どうすんの」
「入学式もまだなのにもう部活の心配かよ」
「一緒にバスケ部いこー」


俺の意見などおかまいなしに勝手に話を進めていく敦。俺も@@がいたほうが頑張れる気がする、と。じゃあおめー普段頑張ってないのかそれは。


「俺バスケとか体育でしかやったことない」
「俺が教えてあげるしー」
「絶対無理」
「なんで」
「お前の説明とか聞けたもんじゃねえ」


大体俺はサッカー部に入りてえんだ。
高校だってほんとはサッカーの推薦でいくつもりだったのに。


「おーねーがーいー赤ちんに言っとくからー」
「赤チン?何それ消毒液?」
「赤ちんは赤ちんだし」


消毒液に俺の事話してどうすんだ。
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