俺の一日は、もちろんおは朝から始まる。
身支度を済ませ占いが始まる頃にはいつでも学校へ出発できる格好でテレビの前でスタンバイ…今日もしっかり計算通りの時間に番組は始まった。
自分の星座もさることながら他の星座もしっかりチェック。
ふむ、奴の正座は五位……いつも通りに過ごしていれば平和な一日。ただ背後には気を付けた方がいいらしい。精々気を付けていろ。気を付けたところで俺の呪符は外れんがな。

蟹座は……


「11位は蟹座のあなた!相手ばかりに任せていると思わぬハプニングに見舞われるかも!ラッキーアイテムは鮮魚の活け作りでーす」



……魚屋はもう開いているんだろうな



「はあ?魚屋ぁ?まだ空いてないっしょ。ていうかスーパーすらあいてないからね」
「俺にラッキーアイテムなしで過ごせというのか!」
「今日一日くらいなくても大丈夫だって、はい出発ー」
「おい高尾!!」


ラッキーアイテムのため魚屋に寄れと言ったのに一蹴された。
どんなに言っても自転車を漕ぐ足を止めやしない。
かくなるうえは築地まで赴く所存だというのにこのバカは…!!
ラッキーアイテムの重要さが理解できないなど、嘆かわしいことこの上ない。


「そういや真ちゃんあの人どうしたん?」
「あの人?」
「ほら、あの気に食わないとか言ってた同じクラスの…名前なんだっけ?あー**?だっけ」
「どうもしないのだよ。気にくわないのは相変わらずだ」
「さいですか……」


**@@…入学したときから気に入らなかった。
始めは勘だったが、同じものを持っていると直感した。一般人には見えないものが見える。また、それに触れられる。朧気だったオーラはここ最近で顕著に現れるようになった。
黄瀬と黒子が奴の前だと妖気を隠さないのを皮切りに。
俺の周りにはそういうものが多かった。中学のときから黒子たちは怪しいと思っていたが腐ってもチームメイト。それに何もする気がないのなら俺が手を下す必要もない。そう思った。


しかしそれをまんまと解放させた**。ぽっと出の不明人物がでしゃばってくるのは非常に目障りだった。


「それよりさー!俺最近近道見つけたんだよね!」
「近道?」
「そ!学校までの時間が約半分に短縮!どうこれすごくね?」
「知らないのだよそんなこと」
「まあ行ってみればわかるって。任しといて任しといて」


そう言って高尾はいつもは曲がらない道を曲がった。
見慣れない道は緑が目立つ、舗装があまりされていない道だった。
リアカーが激しく揺れ不快この上ない。舌を噛みかけたとき、ふと俺の脳裏に今日のおは朝の占いがよぎった。

ーーーーー相手ばかりに任せていると思わぬハプニングに見舞われるかも!ーーーーーー


「お、おい高尾!やはり引き返せ!」
「えー?なんか言ったー?」
「だから…!」


高尾が俺を振り返ったとき、一段と大きくリアカーが揺れた。
同時にぐしゃ!と何か質量のあるものが潰れた音が俺の耳にはしかと届いたのだ


「止めろ!!」
「ってーしたかんだ…」


口を押さえて悶絶する高尾をほっぽって俺はリアカーを飛び降りた。
リアカーの軌跡をたどると、その道上に俺は見てはいけないものを見つけてしまった。


「うわなにこれ、ネズミ?やべ轢いちゃったよ…」


なんまんだぶ、など馬鹿げたことを高尾が言っているが俺は言葉すら出なかった。体を激しい悪寒が襲う。
白とも銀とも言えない毛色の巨大なネズミ。モルモットくらいの大きさがあったようだが、俺たちとリアカーの重さに負け腹が完璧にひしゃげ中のものが飛び出ている。もちろん、息などもうない。


「真ちゃん?」





何かがこちらを見ている。



ゆっくり、道路の脇にある鬱蒼と生い茂る林を見た。


見ている
ネズミの死体と、その前に立つ俺たちを








木々の隙間から、鋭い双眸が




「えっ、ちょ、真ちゃん!?」



高尾を無理矢理リアカーに押し込み、俺は全力で自転車を漕いでその場から逃げた。







その後、どの道を通ってきたかはわからないがなんとか学校までたどり着いた。かなり回り道をしてしまったらしく、時刻はとっくのとうに始業時間を越えていた。
高尾に何を言われても返事ができず、ただ体を包む悪寒に身を震わせる。
気づけば授業にもでず、俺は屋上で呆然としていた。
頭からあの爛々と光る目が離れない。



「すんげーの連れてきたなおい」

「!?」


ふいに頭上から降ってきた声。
弾かれたように上を向けば。給水塔の頂上から足が2本伸びているのが見えた。


「優等生の緑間くんが授業さぼってまで……何した?」
「貴様には……関係のないことなのだよ」
「志村うしろうしろー」
「!?」


何もいない。


「……おい!!」
「すげえビビりようだな。自分でも相当やべえってわかってんだろ」

足が緩慢な動きで給水塔を踵で蹴っている。
顔も見ていないくせに怯えていると決めつけてきて腹が立つ。

それにやばい、のは自分が一番よくわかっている。
さっき、殺してそのまま放置してきてしまったあれ。



「まあカミサマの怨念背後にくっつけてたらさすがにやばいわな」





さっき轢いたのは、神の遣いだ。


普通と違う見た目、殺した瞬間襲った悪寒。
それから推測される答えはたった一つ。神の逆鱗に触れた。
従者を殺したにも関わらずそれを供養もせずに逃げおおせたのだから神は怒髪天を貫く勢いだろう。


「どーすんのそれ。近くにいる俺がこえーんだけど」
「なんとか、する」
「なんとかってどうやって?ひとりで?助けてやろうか?」
「貴様の手など借りんのだよ!!」



どこまでも人を馬鹿にする!!こいつのこういう態度が大嫌いだ!



「んじゃしらなーい。勝手に頑張れ」
「言われなくてもそうする!」


苛立ちを隠さず俺は屋上を出た。
あいつの手など死んでも借りるものか!俺は俺のやり方で事を収めてみせる。相手が神であっても、人事を尽くすだけだ。




「死ぬっつの、バカが」



相手は天命そのものである。








神とやらはいつでも緑間を見ていた。隙あらば殺そうという心算ではない。
どこまでもどこまでも追い詰める気なのだと緑間は自分に襲いかかる痛みや危機感でそれを感じ取っていた。
呪符は気休め程度にしかならない。どんなに高度な術式を使ってもすぐに跳ね返されてしまう。
ネズミを轢いた場所にも行ってみたが、そこにもう死体はなく赤い跡がうっすらと残っているだけだった。

しかしまだ緑間は耐えられているほうだ。そういった現象には体が慣れているためだ。
だが高尾は違う。

彼は至って普通の人間だった。



「高尾、お前」
「あー真ちゃん…ごめん顔色悪いよな俺、はは…」


最近寝れてなくてさ、と笑いながら言う高尾の顔は真っ青を通り越して死人のように白かった。祟られているのは一目瞭然。
彼にも、同じものが憑いてまわっていた。

なんとかしなければならない。わかっていても、緑間の体は動かなかった。



一人と独りの問題


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