最近視線が痛い。@@はしきりにそう思うようになっていた。
黄瀬や紫原のことはわかっている。黒子も最近やたら@@をじっと見てくるようになったがそれも許容範囲内だ。

@@を目下射殺さんばかりに睨み付けてくるのは彼の後ろの席に座るクラスメイト、緑間真太郎その人だった。

「(俺はこいつに何かしたか)」

身長も座高も緑間のほうが高いのでまさか前が見えないうざったいなんてことではないと思われる。思い返せば緑間は入学当初から@@を見張るかのように見ていた。授業中はもちろんのこと、移動教室、体育の時間、すれ違うときですらバシバシ視線を突きつけてくるこの現状。

@@は勘ぐる。


「(まさか俺狙われてる)」






そう気づいたのは男子トイレ便器の前。緑間と並んでしまったときであった。


「(み、見てる!!やっぱり見てる!!)」
「…………」
「(おいおいトイレとか勘弁してくれよ!個室に連れ込まれてあれそれこれみたいなどれになっちゃったら俺…俺…!やばい超見てるおい便器覗きこむなおい!おい!)」
「…………」
「…へ……変態」
「何ぃ!?」


@@は緑間の方を見ずにぼそっと呟いた。
まあ男子トイレで穴が開かんばかりに見つめられればある意味正しい反応といえるのではなかろうか。


「いやだってずっと見てるし…」
「別にお前の…!その、ナニを…みっ見ようとしていたわけではないのだよ!」
「顔赤くするとこがさらに俺の不安を増長させる!!」
「違うと言っている!!」
「じゃあ何!お前近頃ずっと俺のこと見てんだろ!!そういう気なのかって思うから!俺はノーマルだからな!!」

@@ががなると緑間はただでさえ赤くなった顔を更に赤らめて違う!と大声を張り上げた。わん、とトイレ内に音が反響し思わず@@は耳を両手で塞いだ。
緑間は慌てて身なりを整え、@@から一歩距離を取ると落ち着きを取り戻すべく息をついて眼鏡のブリッジを押し上げる。


「黄瀬と黒子を手懐けたようだな」
「はあ?なにそれ犬猫じゃあるまいし…」
「あいつらが人でないことなど知っているのだよ」



そこで@@の顔色もかわった。人でない。そうわかるのは@@と同じ第六感を持ち合わせる者、もしくは黄瀬や黒子の同族。
しかし緑間からは二人と同じ人でないオーラは感じられない。
ひとつの結論を導きだしながらスラックスのジッパーを引き上げると@@は緑間に向き直る。


「お前……『同業者』…?」
「同業者?ふん、お前のような野蛮な輩と一緒くたにされたくないのだよ」

俺とお前とでは格が違う。と言うやいなや緑間は懐から素早く紙切れを取りだし@@に放った。
通常投げたところでむなしくはらりと落ちるはずのそれは弾丸のように垂直に飛んで@@の眼前でバチリ!と弾けた。


「イッタァ!?」
「粗暴なやり方の退魔など俺は認めん」
「おま、こ、これ呪符か…!?人に向かってなんちゅーものを…!」



@@に当たり、弾けたように見えたそれ。本来退魔のために使われる呪符は役目を終えると短く音を立てて燃えた。なんの呪文がかかれていたかは@@には特定できなかったが何かしらの衝撃を与える攻撃符であったのは明らかだ。
電流にぶちあたったかのようひりつく額を押さえながら@@は緑間を睨み付けた。





「あいつらに何をしたのかは知らないがぞろぞろ引き連れてデカい顔でふんぞり返らないことだ。奴等はお前の手には余るのだよ」
「知るかそんなこと!あいつらのほうからついてくんの!」
「どうだかな」


言うだけ言うと緑間は@@に踵を返す。
緑間はまったく@@の言うことに耳を貸さずそのままトイレを出ていった。
大股で去っていく背中を睨み付けながら@@は大きく息を吸った。




「チャック全開だぞ緑間ァ!!!!!」




あと手ェ洗え!!

彼は走ってどこかへ行ってしまった。




それから緑間の@@に対する嫌がらせともいえるそれはトイレでの一件が彼の逆鱗にふれてしまったのかどんどんヒートアップしていった。
隙を見て攻撃符ばかばか打たれるわ、床に貼り付けられた呪符ですっ転ばされるわ、扉に封を張られて閉じ込められるなんてこともあった。
一週間もさすがにそれが続くと@@はげっそりし始め、異変に気づいた黒子と黄瀬に廊下で詰め寄られ全て話し今に至る。


「緑間くんがそんなことを?」
「あそこまで恨まれる理由が俺にはわからん」
「緑間っち妬いてんじゃないッスか?ほらあの人…友達が…その…」
「緑間くんは色んな人から苦手がられてるので」
「やばい一気に緑間恨めなくなった、どうしよっ」
「僕がなんとかしましょうか?」
「なんとかって……どうやって」
「緑間くんは僕らの正体に気付いてるようですし」


こう…きゅっと。と黒子は雑巾絞りでもするかのようなジェスチャーを見せる。あ、賛成ッス。なんて黄瀬まで笑って賛同してくるではないか。背後から狐火までたぎらせて。
二人の顔があまりにも本気だった為@@は顔をひきつらせた。


「い、いいからそういうの…自分でなんとかすっから…やめて人目につくから…」
「遠慮しなくていいんですよ?」(きゅっ)
「そうッスよー証拠とか残さないッス!」(ゴゴォ)
「そういう心配してんじゃねえんだよ」


やりかねない二人に絶対!なにも!すんなよ!と釘を指す。
二人は大層不満そうだったが、緑間の致死率を上げてしまうのは大変よろしくない。

「つーか@@っち、俺の幻術は解けるのに緑間っちの呪符?はかわせもしないんスか?」
「あれは原理が難しいんだよ…頭いいやつじゃねえと使えねえ。解くにはその原理理解しねえと何もできないの」



この歳で使いこなせるやつはじめて見た。と@@はぼやく。
黄瀬の幻術は彼が強い意思を用いて出す術だ。ならばこちらも更に強い意思をもって挑めば弾き返すことが可能なのである。しかし呪符は違う。
術者の頭の中で理論が構築され力加減でいくらでも操作の幅が上下する。緑間の頭の中を覗けでもしない限り@@には防ぎようがない、というわけだった。

そのとき黒子があ、と思い出したように呟く。


「確か緑間くんって有名な呪符師の家系ですよ」
「えっマジで」
「僕@@くんと関わってから退魔とかそういう本読むようになったんです」

@@のことがもっとよく知れれば、と黒子は最近少し読書の趣向をかえていた。
無駄に蓄えのある学校の図書室で埃を被っていた退魔の歴史、という本を読んだときちらりと見えた緑間の文字。まさかな、とそのときは本を閉じたが@@の話で合点がいく。


「全盛期はかなり活躍してたみたいですよ。緑間くんはその血を濃く継いでるのかもしれないですね」
「無理。俺そんなやつに勝てない」
「てことは緑間っちは@@っちの天敵みたいな?」
「そーいうことになるな。あいつ学年二位なんだろ?絶対無理。あいつの考えてること理解するとか」



「やっぱり緑間くんを…」(きゅっ)
「いつでも準備オッケーッスよ」(ゴゴォ)
「それもういいから」



天敵の扱い方
(どうしよマジで)
(三人がかりでできることもありますよ)
(@@っちに手出すとどうなるか俺が教えてあげるッス)
(やめろっつの)
((えー))

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