「ほらよ」


乱雑にぽん、と目の前に置かれた黒いランチマットに包まれている長方形の物を見て黄瀬は瞳をキラッキラ輝かせた。


「いよっしゃああ!@@っちの弁当!」
「今回限りだからな」
「はぁあ〜…苦労報われるッス。昨日大変だったんスからー」
「お前俺のカッコで妙なことしなかっただろうな」
「してないッス!」


@@に言われた通り、黄瀬は紫原を抑えるべく@@に変化してなんとか連れ帰っていた。その苦悩、困難の連続を黄瀬は握り拳を作って語りだした。

『@@〜』
『ウゴォッ!?』
『あらら?@@つぶれちゃった…どうしたの?』
『(@@っちいつもこんな重いの抱えてんスか…!あんな涼しい顔して…やっぱ@@かっこい……じゃなくて…)な、なんでもない、ッス、じゃない、なんでもねえよ…』


変化したとはいえ、真似できるのは外見と声くらい。記憶や筋力までは再現できないのだ。だというのに紫原は平気でガンガン体重をかけてのしかかってくるので今日の黄瀬の足は終始ぷるぷるしていた。


『なんか今日の@@へん。…あ、そーだ。今日@@んちいっていいー?』
『えぁっ!?な、なんで?』
『あれ貸してくれるって言ったじゃん』


あれってなんスか@@っちーーー!!

心の中でそう叫んだがその頃@@は命を賭けたかくれんぼの真っ最中。その叫びが届くことはなかった。


『ご、ごめん、今日、無理』
『なんで〜?』
『えっと、その』


何かうまい言い訳を!紫原がすぐ引き下がるような理由を考えるんだ黄瀬涼太!お前ならできる!成功したあかつきには@@の愛妻弁当が待っている!!
冷や汗だらだらで黄瀬が出した理由とは





『きょ、今日……生理だから…』
『そっかーじゃあしょうがないね』



それを聞いて@@は椅子をなぎ倒し黄瀬の横っ面をひっぱたいた。


「痛い!!」
「バカかお前はァァアアッ!!なんで俺が生理催してんだよ!ていうか彼女の言い訳か!しかもなんで敦はそれで納得してんだよ!!」
「知らないッスー!でも結果オーライなんだからいいじゃないッスか!」
「よかねえわ!」



これから先紫原にこの件を突っ込まれたらうまくかわす自信がない…ひとしきり黄瀬を殴って落ち着いた@@はため息をつきながらいつのまにか立ち上がっていた椅子に腰を落とそうとして、止まる。



「……黒子、そこにいると俺に潰されるぞ」
「気付いてましたか。まあどうぞ」
「いやどうぞじゃなく。俺座れねえから」
「ですから僕の上に」
「無理だっつの」
「@@くんは女性の方だったんですか」
「話すげ替えんな!」
「あれ黒子っち!?」
「はい、僕です」

いつのまにか@@の席には黒子が座っていて両手を広げている。
その様は実に男らしいが、如何せん@@と黒子の体格差では黒子が押し負けるのは火を見るより明らかだ。


「俺なら@@っち抱っこできるッスよ!」
「だったら黒子に座るわ」
「ええっ!!」
「うぐう!!だっ…!大丈夫です…!僕はこのまま…@@くんを抱えていられます…!」
「いや膝ガクガクしてっから」


だから言っただろ、と@@はぼやきながら黒子の上を立ち退く。


「もう授業はじまんぞ」
「一目@@くんに会いたかったので」
「あっそ」


わしゃわしゃと@@が黒子の頭を撫でた。こそばゆそうにする黒子だったがその手を振り払うことはない。
もちろんそこで前にいる黄瀬が黙っているはずもなく、大層ふて腐れた顔で二人を睨んでいた。


「何で@@っちと黒子っちそんな仲良くなってんスか…ジェラシーッス」
「まあ勝手に妬いててください」
「辛辣過ぎないッスか!?」
「@@くんと仲良くしたいのは何も君だけじゃないんですよ」


ずず、と黒子の背後から黒いものがせり上がってくるのが見えた。一瞬だけ見えたそれは、まるで墨で真っ黒に塗りつぶされた何本もの腕に見えた。
同族に感じる危機的な気配を察し、黄瀬は顔をひきつらせる。


「へえ…黒子っちも化けの皮剥がされた感じなんスね」
「普通のままじゃ君みたいな方に太刀打ちできませんから」
「……上等ッスよ」


ばこ!


「いった!」
「うっ」
「教室で妖気垂れ流すなバカ!」


@@に怒りの鉄槌をくらった二人は脳天を押さえて@@を見上げる。予令が鳴ったのはその時だった。



「ほーらー黒子っち予令ッスよー」
「言われなくてもわかってますよ…チッ」
「今、舌打ち」
「気のせいじゃないですか?……@@くん」
「あ?何?」


「ありがとうございました」


色々と。と付け足された黒子の言葉に@@は片腕を軽く振っていーから早く行け!とそっぽを向いた。目尻が赤い。


「……ちょっと惜しいことをしました」
「何が」
「本当に、君をずっと閉じ込めるのも悪くなかったなと」
「はあ!?」
「じゃあ、行きますね」
「黒子っち今のどういう意味ッスかー!!」


騒ぐ黄瀬を押さえつけ、人の間をするするすり抜けていく黒子を見送りながら@@は苦笑いを溢した。


その後HRはすぐ始まり担任のあとに続いてやってきたのは失踪扱いになっていた仲又委員長。教室中がざわついたが、@@だけは冷静にそれを眺めていた。



「他の生徒も無事自宅に帰宅されている!いいかお前らーこのこと根掘り葉掘り聞かないこと!本人たちの事情だってあるんだからな!」
「先生私大丈夫です…聞かれても本当に覚えてないので…」
「そう言ってもなあ…まあ傷をえぐることもないな。無理するなよ」
「はい」

いつまた事件が起こるかわからない。用心すること。
そう担任は言うが同じ事件が起こらないことを@@は知っている。



「もしかして@@っち一枚噛んでる?」
「さあ」



真実は影の中

(えっ?あ、あれ?あれえええ!?ない!!@@っちの愛妻弁当がない!!)
(そんなもんはハナから作ってない)


(羨ましかったからつい持ってきちゃいました)



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