紫原を黄瀬に託し、保護者会が終わったのを確認しながら@@は見回る教師や警察の目を掻い潜り数時間校舎内に潜んでいた。
生徒は全員下校させた、と教師たちが話しているのを盗み聞き、その教師たちもほぼほぼ引き上げている。@@のように隠れている生徒でもいなければ、校舎内に人はいないだろう。
とりあえず@@が向かったのは女生徒が消えた廊下のあたり。
差し込む夕日がとても美しいのだが、しんと静まり返った廊下にいるとその夕日さえ不気味に思える。
「手がかりとかねえわーマジねえわー」
廊下には痕跡のひとつもない。
しかし@@にはひとつわかることがあった。
犯人は確実に戻ってくる。
痕跡はないのだが、気配が充満しているのだ。そこかしこに。
むしろ囲まれているような気さえする。あの女生徒と同化していた気配だ。とても感じ取りやすく、いつでもそこにいるような。
「**君?」
かつ、と足音が廊下に響いた。
ぴり、と体全体に電流が走ったような感覚がした。
「………何やってんの、黒子」
振り返らないまま背後にいるであろう人物に声をかけると小さな足音を立てながら黒子が近づいてくるのがわかった。
「少し野暮用で」
「最終下校過ぎてるけど〜?それに今日ただでさえ残っちゃいけねえのに」
「それは**くんにも言えることなのでは」
「俺はいいんだって、それより黒子、用って何よ?」
@@は振り返らない。
「少し探し物をしてまして」
「へー探し物。ふうーーーん」
「次の犠牲者とか?」
…はい?と黒子が呟いた。
「お前さ、普段影薄いとか言われてんだよな。それバスケにも使ってんだろ?」
「そうですね」
「じゃなんで今日はわざと足音なんか立ててんの?」
黄瀬も紫原も言っていた。黒子は影が薄くてどこにいるのかわからない。見つけることすら困難だと。だがしかし、人間が通常立てる日常の音。
呼吸であったり、骨の鳴る音であったりーーー足音であったり。
それを聞けばある程度の存在は認識できる。しかしそれもわからないとなれば黒子は普段から意識して気配を殺していることになる。
だが今はどうだ?わざわざ存在を教えるように足音なんか鳴らして
「俺に疑われないようにしてるとか?」
「何を言ってるのか理解できないのですが」
「逆効果だぜ黒子ー詰が甘かったな。俺はそう簡単に騙せないぞ」
「僕を誘拐の犯人に仕立て上げたいみたいな言い方ですね」
「俺誘拐なんて一言も言ってないけど」
そのときはじめて@@は黒子を振り帰る。
形のいい薄い唇に緩い弧を描かせて笑っているのに目だけはぎらぎらとまるで捕食者のような光をたたえている。
「おー怖い顔」
「あなたはすごいですね、僕の敗けです」
「ありゃ、素直じゃん。認めるんだ」
「……もう隠せないでしょう。それに、どうせ君には口封じをしなければと思っていた」
目を合わせた黒子のまなこは無、というのがしっくりくる。
黒子の回りだけ影が濃く見える。回りに広がる気配は、黒子に感じるそれと同じ。
「僕は、影だ」
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