「課題を忘れた」
「忘れたのにその態度はすごいっスよ」


次の日の朝、自席に腕をくんでふんぞりがえりながら堂々と@@はいい放った。



「というわけで黄瀬、てめえの課題を寄越せ」
「何でっスか!?あ、でもそれで俺のこと好きになってくれるならいいっスよ…?」
「やっぱいらねえ」
「ケチィ!」
「顔赤らめんな気持ちわりぃ」


ブーブー言ってた黄瀬も担任が教室に入ってくるとようやく静かになる。
担任はやたら神妙な面持ちでえーと呟いた。


「昨日から中又が家に帰っていないそうだ。誰か何か知らないか?」

教室がざわめいた。中又とはこのクラスの委員長で、品行方正誰にでも優しい礼儀正しい生徒だった。不良行為をするようには思えない、中又と仲がよろしいらしい生徒が心配そうに呟いた。


「これってもしかしてあの失踪事件なんじゃないの?」
「狙われてるんだよーうちの学校…」
「やばくね?これ誘拐?」
「こっわ、やべー」

生徒たちは口々に誘拐、失踪と繰り返す。いなくなった生徒の心配、というよりは自分の保身と事件の大きさへの興味。留まることをしらない生徒たちの声に担任が手を叩いて注意を引いた。

「静かに!ほら聞け聞け!中又のご両親は捜索願いを出すそうだ。学校もそれに協力するつもりでいる。お前らも何か知ってることがあったら先生に言ってくれ」


HRはそれで終了したが、その後も教室の話題はそれで持ちきりだった。
この調子だと他のクラスも同じようなもんだろう。何せ失踪者はこれで三人目だ。

「ついにうちのクラスっスよ…やばくねっスか」
「それより俺がやばいのは課題だ」
「緊張感ないなあもう!!」







「次は忘れんなよ!留年させっぞ!」
「るせーくそ教師!ちょっと忘れたくらいでこんな時間まで残しやがって!」
「教師に向かってその口の聞き方はなんだ!待て**!」
「やだよバーカ!バァーッカ!!」



課題を忘れたことで@@はこってり絞られていた。最終下校時刻も過ぎている。前もって紫原には先に帰れと言っておいたのは幸いしたようだ。本人は最後まで待っていると言っていたが。
日も暮れ、校舎内は薄暗い。ほとんどの照明が切られているので当然だが。



「かーえろ!」


自分の鞄を取りに教室に向かう。




がたがたがたがたがたがたがた

ぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎい


「あん?」


薄暗い廊下の窓が風もないのに激しく揺れた。外の木の葉はちっとも揺れていない。やはり無風。しかし音は止まない。



がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたぎいぎいぎいぎいぎいぎいがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたがたぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎいぎい

音は激しくなる一方だ。


「るっせーなもう」


しかし慣れっこな@@はそのまま歩き続ける。どんな怪奇現象が起ころうと、向こうが@@に手を出してこないことはわかっている。出してきてもぶん殴るだけだ。


「助けて!」


ふいに背中に衝撃。
ぶふっ!と突然の衝撃に耐えられなかった体から息が吐き出される。
イライラしながら振り替えると一人の女生徒が顔を青ざめさせてがたがた震えながら@@にしがみついていた。

「なに」
「助けて助けて助けて助けて来る!来るの!!」
「なにが。生理?」
「いやああああぁああああ!!!!」
「ご、ごめんデリカシーないこと言って…」

女生徒は金切り声をあげて@@の制服に顔を埋めている。
女子にしがみつかれるという願ってもないうれしいハプニングなのだが如何せん会話は成立しないしムードも最悪。



がたがたがたがたがたがたがたがたがたがたぎいぎいぎいぎいぎいぎいいないいないがたがたがたがたがたがたがたどこぎいぎいぎいぎいぎいぎいいないみつけてがたがたぎいぎいぎいぎいぎいぎいがたがたがたがたがたがたがた


窓が軋む音に紛れて何かぼそぼそと呟きが聞こえる。
女生徒は悲鳴をあげて泣き出した。


「(なんか来るな)」





いやもういるのか?

不可思議な気配を女生徒が背負っているような気がした。
いや、背負っているというより女生徒自身がその気配に「みぃつけた」



「イヤァアアアアアアアア!!!!!!!!」




一瞬の出来事だった。

彼女の背後から墨を被ったように真っ黒な手のようなものが無数にぬうっと延びてきて首、体、足を掴んでいた。









「あなたの まけ」


ぼそりと囁き声がして、彼女は助け、と言いかけて廊下の闇に消えた。
見渡しても影も形もない。今の今まで目の前にいたというのに。
静まり返る廊下には@@しかいない。


「今の声聞いたことあんな」


我関せずを貫いてきたが、どうやらこちらの領分のようだ。



遭遇
(とりあえず帰るわ)
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