「やっちゃった…」
「え、何がっスか」
「@@に黒ちん会わせたくなかったのに」


紫原は失敗した、という面持ちで唇を尖らせている。不機嫌であることはいつもより低い声色からして黄瀬からでも丸分かりであった。
恨めしげに黒子を睨んで舌打ちを繰り返す紫原。

「どういうことっスか」

黒子と@@はパンを分けあった仲というか、@@が一方的にであるが端から見れば仲良さげにしゃべっている。二人はまるで蚊帳の外になっているので紫原の気持ちが黄瀬はわからなくもなかった。

「@@、いつも自分のご飯絶対誰にもあげない」
「え、でも黒子っちに今…」
「だからだし、何でわかんないの黄瀬ちんバカなの」
「バカはひどくないっスか!?」
「@@は気に入ったやつにはご飯あげちゃうんだよ」


ということは、である。


「@@っちは黒子っちのことを気に入っちゃったってことっスか」


紫原は歯噛みしながらうなずいた。


結果から言えば、黒子は@@のストライクゾーンど真ん中であった。
黄瀬と紫原の後ろにやってきて、大きな瞳がぱちくりと瞬いたときヤクザ顔のキューピッドがショットガンで@@の心臓を撃ち抜いた。
愛でたい!撫でたい!愛でたい!撫でたぁい!!@@の中で爆発した欲求。それがパンというキーアイテムによって取り持たれた。そういうわけだ。



「俺**@@、君は?」
「黒子テツヤです。もしかして紫原くんの幼馴染み、の方ですか?」
「よく知ってるねーそうそう」
「少しイメージと違ったので驚きました」
「イメージ?」

「気にらないものは殴る、蹴る、罵倒する。食べ物に意地汚くてがめつくて睨みひとつで子供も大人も泣かす暴君だときいてたので」

紫原としては@@に余計な虫がつかないよう予防線をはったつもりだったが、どうやら裏目にでたらしい。てめえそんなこと喋ってたのか。噂通りの子供も大人も泣かす目付きで@@は紫原を睨み付けた。横の黄瀬がヒッ!と声を漏らし紫原はびくっと体を揺らすと明後日の方向を向きながら下手くそな口笛を吹いていた。笛の音がでないので本人が口でぴーぴー言っているだけだが。



「でも百聞は一見に如かずですね」


これ、頂きましたし。と黒子はふわりと笑った。

「(なっなで回してええええええ!!!!!)」


@@の両手がぶるぶると震えた。抱き締めてムツゴロウさんよろしくわっしゃわっしゃとなで回したかった。
しかし何事も第一印象が大切。震える両手を強く握りしめ@@は笑う。紫原が非常におもしろくなさそうな顔をしていた。

「それにも驚きましたけど、僕を見つけたことにも驚きました」
「なにそれ」
「僕、すごく影が薄いので」
「……俺君がドア出てきたときから気づいてたけど」
「ええっすごいっスよそれ!!」

黄瀬が驚嘆の声をあげる。
黒子の影の薄さは部内一。いや世界一かもしれない。
現に付き合いの長い二人でさえ真後ろに立たれてもわからなかった。


「んなこと言われてもな」

わかっちゃったもんはしょうがねえだろ。
普段の生活の賜物だろうか。二人がいうほど@@には黒子の存在が希薄なものとは感じ取れなかった。むしろその逆。普通とは違うような気配に@@は首を傾げた。
何故わからないのかがわからない。黒子を眺めながら@@はもう一度首を傾げた。
そうこうしている間に鳴り響く予令。

黄瀬がああっ!と悲鳴をあげた。
いちいち喧しい男である。

「@@っち!俺ら次移動っスよ!!」
「えー俺サボるぅ、もうちょい黒子としゃべるう」
「俺が喋ってあげるっス!」
「ふざけろてめえと話してどうすんだよ」
「この差!!」


優しくしてほしいっスー@@っちぃー!と泣きついてくる黄瀬を犬猫でも払うようにしっし!と手を払う@@。


「サボると言っても、僕も次の授業に行くのでどっちにしろお別れですよ」
「黄瀬殺す」
「俺!?」
「またお話しましょう、**くん」
「よーし黄瀬授業いくぞーまたな黒子!あと敦」
「俺ついで…」


変わり身はやっ!とぼやく黄瀬を引きずり@@は手を振りながら屋上を出ていく。残された二人、黒子が面白い人ですねとこぼすと紫原のほうは黒子を試合中のときのような威圧感のある目付きで睨んだ。


「@@は俺のだからね」
「?取ったりしませんよ」
「@@のこと好きにならないやつとかいない。@@はだめ」


それは自分で墓穴を掘ってやしないだろうか。
その言葉はパンの最後の一口と一緒に飲み込んだ。





不機嫌そうな紫原と別れ、黒子は自分の教室へと急いでいた。
手にはさっきのウィンナーロールの包み紙。これをどこかに捨てたい。

「あ、」
「わっごめんなさい!」


後ろからやってきた女生徒にぶつかられ、黒子は手から包み紙を落としてしまう。ごめんなさい!と謝る女生徒が黒子より先に包み紙を拾った。


「ごめんなさい急いでて…!」
「いえ、こちらこそ。それよりそれ…」
「あ、これゴミだよね?お詫びに捨てときます!ほんとにごめんなさい!」



女生徒は深く頭を下げてばたばたと走り去っていってしまう。自分の存在を無視しない珍しい人種だった。
遠くなっていく彼女の背中を眺めながら黒子は目を細めて、そっとその場を去った。



暗い光
(なんで黒子っちにはあんな優しいのに俺には優しくしてくんないんスか!)
(まず鏡を見ろ)
(まあ…悪くない顔ッスよ?)
(よし死ね)
2
/ /
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -