「ぶぇっきしょ!!!!」

風邪を引いた。


春とはいえ、日が落ちれば肌寒くいわゆる季節の変わり目なこの時期に頭のてっぺんから水をかぶりずぶ濡れのまま帰路についた昨日。疲労のせいでろくすっぽ乾かしもせず寝てしまった@@は宣言した通り風邪を引いていた。
止まることなく流れてくる鼻水をすすり恨みがましく呟いた。


「クッソあの狐野郎ほんと恨むぜ」
「その件に関してはほんとに反省してるッスよ〜」

………。

「うおおおァ!?」
「そんな驚かなくてもいいじゃないスか。知ってるのに」
「なんでおま…えどうやって?は?」


自室の扉も窓も閉まったまま。ましてや玄関が開く音すらしなかったのに、なぜか件の狐野郎こと黄瀬がまだ学校で勉強している時間にも関わらずしれっと@@のベッドに腰かけているのだ。驚かないわけがない。
しかし、よくよく見ると黄瀬の体は半透明なのだ。なにも知らない人間が見たら「おばけ!」と騒ぎだす見た目である。

「なんでって、こうやって毎晩@@っちのとこに忍び込んでたんスよ。んー幽体離脱っていうか…生き霊に近いんスけども」
「…だから俺の家知りたがったのか…」
「大正解ッス!生き霊飛ばすならその人がどこにいるか知らないといけないッスからね」
「いや何嬉しそうに言ってんだふざけんな」
「@@っちが心配だったから来ちゃったけど…これひとつ問題があって」
「問題?」
「生き霊飛ばしてる間俺の肉体のほう、白目剥いちゃうんスよねぇ…」



「せんせー!!黄瀬くんが白目剥いて気絶してます!」
「えぇ!?」


黄瀬の心配通り、1年B組は大騒ぎになっていたが知るよしもなく。

「休んだからほんと心配したんスよ。こうなっちゃったの、俺のせいだし」
「まあ恨んでるけど…」
「そこは嘘でもそんなことないよって言ってほしかったッス!!」
「ハァァ?誰がおめーなんかに社交辞令使うかよ」
「さすが@@っち正直に辛辣!でもそこが好きッス…」

黄瀬が恍惚とした瞳でうっとりと見つめてくる。全く隠されていない重たい好意に風邪ではない悪寒が@@を襲う。

「いや俺昨日色々言ったけども…深い意味っていうのはそれほどなくて…」
「いいんスよ何も言わなくて!俺努力することにしたから!」
「は、はあ…」
「ちょっと急ぎすぎたなーっていうのは俺も思ったんで。@@っちにはゆっくり俺のこと知ってもらって、それで好きになってもらうのでも遅くないなって」

やる気に満ちた顔で言う黄瀬だが、なぜ好きになること前提で話が進んでいるのか@@には甚だ疑問であった。友愛のそれではなく惚れた腫れた関連の好き、であるのは一目瞭然。


「俺が女の子にコクられてるときあったじゃないッスか」
「なんだてめー嫌味か。モテない俺へのあてつけか」
「何言ってんスか!!モテモテでしょうが!!俺に!!!」
「え…?嬉しくないけど…?」
「あんなこといくらでもあったけど、ああいう風に庇われたのは初めてだった」
「ん?無視?」
「だから俺、@@っちのこと信じてみたいって。この人ならって思ったんス」


黄瀬の顔は心底嬉しそうだった。
泣きそうなのを我慢しながらも、信頼を伝えるまっすぐな瞳に@@は毒気を抜かれ、大きくため息をつく。


「友達からな」
「へっ」
「てめーの言う関係にはならねえが、別に友達くらいには…なってやってもいいよ」

お前うるさいけど、あんまり退屈はしなさそうだから、と付け加え@@は黄瀬の頭に手を置いた。幽体状の黄瀬の体には触れられなかったが気分だけ伝われば充分だろう。


「…やっぱ学校終わってからくればよかったッス。これじゃちゃんと@@っちに抱き付くのもできないし」
「抱きつかれたくねーから都合いいわ。もう寝るから帰って」
「えー!!おしゃべりしたいッスー!!」
「女子かおめー」



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