軋む体に鞭打って俺は渾身の膝蹴りを黄色いのの鳩尾にお見舞いしてやった。いい場所にクリーンヒットしたらしく、そいつは噎せながら後ずさった。

「ふっざけろくそが!お前の思い通りになってたまるかよ!」


さっきまでの拘束が嘘みたいに体が軽い。
腹をおさえて蹲ってたそいつだが、今度は肩を震わせて箍が外れたように笑いだした。



「やっぱ@@っちは最高ッス」
「ああ!?蹴られてまだ言うかこのクソマゾ!」
「この痛みも@@っちがくれたものなら快感ッスよ」
「き、きめえ……」
「どこまでも思い通りにならない、唯一俺の本質を知ってくれる」


そいつはゆっくり立ち上がった。
俺を真っ向から見据える眼が黄金に光ったかと思えば、同じくまばゆい黄金色に光るふさふさした毛並みの尻尾が一本そいつの尻あたりから 生 え た。
ご丁寧に頭の上にはにょっきりとでかい獣の耳まで出現させて。


「狐かてめえ…」
「@@っちには俺の正体知ってほしいんスよ」
「なんとなくわかっちゃいたけどな。部屋にストーキングしてきたのもてめえだろ」
「あそこまで動じないのは驚いたッス」
「否定すらしねえ……」
「だからぁ、言ってるじゃないッスか!@@っちには俺のこと知ってほしいんだって」



本質も正体も知って欲しい。全て教えるのだからかわりに俺の全ても知りたい。そんで好きになってもらいたい。こいつはそうほざくのだ。


「まさか幻術まで破られるのは予想外だったッスけど」
「無理矢理言わされるなんざ虫酸が走る」
「好きになってくれたら勝手に口から出るッスよ」
「安心しろ、絶対にそんな瞬間こねえ」
「それはどうッスかね?」


黄色いのと眼があった瞬間、また体の自由が奪われる。
こっちに来い、頭の中に流れ込んでくる命令。
こいつに見つめられるとおかしな感覚が襲ってくる。目映い金色がとてつもなく美しく、そして愛しく思えてくるのだ。これが幻術の本質だろ。
相手を魅了させてその気にさせて思い通りにする…でも俺もバカじゃねえ。

「同じ手はくわねえぞ」



バチィ!と俺と黄色いのの間で火花に似たものが散った。
俺の体は自由である。
黄色いのの幻術は体ではなく脳にかかっている。体が動かないんではなく、動かない、と思わされているだけ。原理がわかればこっちのもんだ。



「うぇウッソ!?」
「なめんじゃんねえ!!」
「ぎゃんっ!」


驚いている黄色いのを軽めに殴り付ける。すっ飛んだ黄色いのは下駄箱に体を打ち付けて唸っていた。
こんなもんで済ませるわけがねえ、もう二三十発は殴らせてもらわねえとな!


「なんで…わかってくれないんスか」
「ああ?なんだと?」
「ただ好きになってもらいたいだけなのに!」


黄色いのが掌を俺に向けてかざした。
突然のことに反応が遅れた俺はしまったと思った頃には青白い炎に全方向を包囲されてしまっていた。
これが狐火か。思ったより

「だぁっつ!!!あっつ!」
「@@っち、俺ホント嬉しかったんスよ」
「何が、あっつ!」
「@@っちがどう思ってても俺はあのとき@@っちに救われたッス。この人なら俺の外見でも作り物のステータスでもなく本物の俺を知ってくれるって」


ファインダーの向こうに写る作り笑いの自分。それに色めき立つ大衆。
その気がなくても意思が弱い動物は勝手に惚れて付きまとってくる。
羨望、好奇、嫉妬。うずまく感情はどれも自分を想ってはくれない。
振り払ってもついてくるものばかりなのに、突然現れた異色は自分に見向きもしない。真っ向から否定してくる。なのに本気で突き放しはしない。

ひどく惹かれた。欲しい、と心の底から思った。



「後にも先にも、こんなのはきっと@@っちだけ。好きなんスよ、本気で」
「知るかバカヤロー!俺はお前みたいなイケメン好きじゃねえ!」
「ならもう殺すしかないじゃないッスか」
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