それから黄色いのの付きまといっぷりったら半端なかった。
同じクラスで席が前後で少なからず関わりがあったのだが、一気にロックオンされてしまったような、狙いを絞られたような。
授業中はどんなに注意されても俺の方に振り返ったまま直らないし、移動教室はもちろん便所にまでついてくる。部活の勧誘は激しくなる一方。ちなみにまだ入ってない。敦がすごい嫌な顔してるんだがお構いなしに帰り道も同行してくる。半月かわしてきたがついに今日家の場所を知られた。


「じゃあまた明日っス!」
「はいはい…」

家の前まで俺を見送って黄色いのは来た道を引き返していく。あいつ俺と家の方向正反対らしいんだけど何でここまでくんのマジで。彼氏かよ。

「何で最近黄瀬ちんと仲良いの」
「俺が聞きてえよ、向こうがついてくんの」
「黄瀬ちんマジ捻り潰す」
「あーそうしといて」


敦に任せとけば安心だな。








その日の夜、俺は珍しく課題に取り組んでいた。たまりにたまってもうどうする気も起きなかったがまあ向かい合うことに意義があるんだ。
出来なくたって一瞬でもやる気があったんなら提出したそれが真っ白でも先生は受け止めてくれる…俺の中のなにかがそう告げていた。


「……あん?」



頭上の蛍光灯がチカチカと点滅し始めた。おい目悪くなんだろ。
気にしないで俺は課題とにらめっこを続けたが点滅は終わらない。
しかも今度は寒い。室内なのに息が白くなり出した。ちくしょう俺の部屋着はもう半袖短パンだっつーのに。



ボソボソボソボソボソボソボソ



「ルート…ルート二乗…x…わからん…」



ボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソ


「yはどこからでてきた…」


ボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソ



「………」


ボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソボソ


「うるっさい!!!!」





俺は思いっきり机を殴り付けた。バキッと鈍い音がして殴った箇所が俺の拳の形に陥没する。ブツクサうるせえんだよ俺の集中の邪魔しやがって。

何を言っているのかは聞き取れない。しかし連続的に名前を呼ばれているたぶん。
窓なんぞ開けていないのに、黒いカーテンがぶわりと揺れた。その時俺は目があったのだ。







窓の外にいた何かと。



「あっちいけ!!」


俺は再び机を殴った。机に穴があいて俺の拳は机を貫通した。
俺の怒鳴り声とともに電気の点滅がやみ、風も囁き声もぴたりと止まる。
短くため息をついて俺はやっと課題に再度取り組めると思ったのだが、
課題のプリントには俺が答えをかくより先に記入がしてあった。




こっ ち みて くれ た





……………もう寝よ。

水分を多量に含んだ真っ赤な文字がプリントを汚しているのを見て俺はペンを投げた。








「@@っち顔色悪いッスけど大丈夫ッスか?」
「課題が終わってねえんだよ」
「どの課題?」
「数学と現国と歴史と物理」
「それ最近出たやつ全部…」
「あと英語」
「それに関しては一週間前ッス」


あの後もうるさいのは止まなかった。いざ寝ようとすると今度は耳元まで近づいていてきて 高速で名前を呼んできて、シカト決め込むと上に乗っかってくる。首もとに鼻先を押し付けてきたときはさすがに切れてそいつを投げ飛ばそうかとしたが霞みたいに消えた。かすかに獣のにおいがしたと思う。


「俺の見せてあげるッスよ!」
「ほぼ白いんだけど」
「やったって努力の証があれば先生もわかってくれるはずッス!」
「お前と思考が一緒ってことに絶望してんだけど」
「えっ、通じあっちゃってんスか俺ら!」

うれしいッスー!とか言って黄色いののは机を挟んで俺に抱きついてきた。
おい女子がきゃーきゃーいいながらこっち見てんだよ!俺はお前より向こうの女子に抱きつかれたい。


「おまえくさい!香水くさい!」
「え?そうッスか?結構気に入ってるにおいなんッスけど…」
「においうつる!」
「@@っちと同じにおいとか…!やばいッス!!」
「てめえの頭がな!」


どんなに罵倒しても力を緩めるどころか強く締め付けてきやがる。


「あー…@@っち好きッスー」
「俺は女の子が好きだ」
「拒否しないってことは好きってことッスか!?」
「お前の頭ってどんだけおめでてえわけ?」
「ほんとだよ」


突然黄色いのの体が浮かんだ正しくは持ち上げられた。
目に悪い金髪がばかでかい手で掴み上げられている。


「む、紫原っち……」
「@@にベタベタしないでくんない。超うざいんだけど」
「敦、終礼終わったのか」
「うん、これから部活〜」
「いだだだ!紫原っち絞まってる絞まってる!」
「絞めてんだよ」
「やれやれ敦、脳髄ぶちまけろ」
「わかったぁ」(ギリギリギリギリ)
「いっだああああ!!」




黄色いのは敦に引きずられて部活に行った。@@もおいでよ、とか敦が言ったが俺はそもそもバスケ部じゃない。
全力で拒否して逃げた。今は下駄箱にいる。
入学して間もないがはきつぶしてかかとがぺしゃんこになった上履きを下駄箱に放ったとき、あの、と後ろから声をかけられた。知らない女子だった。


「何?」
「い、今…お時間、あ、ありますか?」
「あるけど……」


名も知らない女子は顔を耳まで赤くしてせわしなく長い髪を耳にかけている。小さくて白くて胸はささやかっぽいが、好みど真ん中だ。
こ、これは……まさか……

「と、突然ごめんなさい!でも私、**くんにどうしても伝えたくて…」
「え、あ、うん…」
「私、入学したときからずっと**くんのこと…!!!」

きっきたーーーーーーーーーーーーー!!!!
この世の春だーーーー!!!俺にもついに運が!向いてきた!!
ごめん敦俺は先に大人の階段を登ります!上り詰めていきます!

顔の筋肉が変に収縮して頭が沸騰しそうだったが俺は必死に耐えた。
ここでボロはだせない。


「好っ「@@っちー何やってるんスかー?」」



横から不躾に入り込んできた声に俺は叫びだしそうだった。
俺の背後、女の子の俺を挟んで向こう側から絶対に今いてほしくない野郎がいる。察しろバカ!控えろどっか行ってお願い三百円あげるから!


「おま、」
「好きです!!黄瀬くん!!」
「そういうわけだからお前……は?」


今まさに俺に告ろうとしていた女の子の気持ちは一瞬で黄色いのに向いていた。うっとりとした顔で、恍惚に顔を染め上げて女の子はもはや俺を眼中にいれていない。



「へえーどうもッス。でも俺はアンタ嫌いだからどっか行ってくれる?」

辛辣な言葉を惜しげもなく放った黄色いのの目が異様に金に光って見えた。女の子は泣きながら走り去っていった。全然状況がわからん。

「て、めえっ……!」

怒りとも悲しみともわからない気持ちが込み上げてくる。
とりあえず俺は千載一遇のチャンスをこの男のせいで棒に振ったのだ。


「やな女ッスね、一瞬で俺に鞍替えなんて」
「誰のせいだ!!」
「@@っちのせいッスよーあんな女に引っ掛かるなんて」
「違うだろが!お前が!」


「入学したときから?そんなの俺だってそうッスよ、気持ちに気付いたのは最近でも俺の方が@@っちのこと知ってるし。あんな女より俺の方がいいに決まってる。@@っちのことなら何でも知ってるッス。俺だけが@@っちを見てて、俺だけが理解できて俺のことわかってくれるのも@@っちだけ」


玄関から風が入り込んできた。風に乗って俺の鼻腔に届いたのはあの香水の香りと


「俺を見て@@」



獣のにおい
(こいつは誰だ)
2
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