味覚で言うとしょっぱい

付き合ってるコンユ





「お疲れさまです陛下。甘いものでもいかがですか?」
「やった!」


仕事が一段落。
おれが自動署名書きマシーンになっていた腕をふって凝りをほぐしていると、ノックの音に呼ばれて扉の向こう側へ行っていたコンラッドが銀色のカートを引いて戻ってきた。
メイドさんに頼んだお茶とお菓子を引き取ってきたらしい。
ここまで運んできてくれたメイドさんにお礼を言いそびれたなあなんて呟いていると、俺にも言ってくださいよ、と目の前の男はわざとらしくすねた表情を作った。
どうやらお菓子とお茶を選んで指示を出したのはコンラッドらしい。
そっか、ありがとうとそぞろに返してワクワクとお茶が注がれるのを待つ。
お茶が注がれたらおやつの時間だ!



「そういえば知ってる?」

休憩時間。
コンラッドチョイスの甘いお菓子。

「甘いものが無性に食べたくなるときって欲求不満なんだってさ」

おれとしては信憑性のない雑学を披露しただけだった。
白状すると、それで少し・・・ほんのすこーし、澄ました顔の名付け親・・・甘いお菓子を用意したおれの恋人のたじろく姿が見れたらと期待したんだけど。
それだけのはずだった、のに。





「ぅん、!」

銀の星がやけに近くで見えた。
いやにキラキラしているな。
と思った時にはもう遅かった。
近くで見えるな、じゃなくて近すぎて焦点があっていない。
唇に柔らかい感触。
コンラッドの唇は薄くて、少しひんやりしている。
そのくせ唇をあわせると柔らかいかんじがする。
ユーリの唇が柔らかいから、とコンラッドは言うがなんだか複雑な気分だ。
おれは女の子じゃないから。

あまりにもおれが目を見開いてコンラッドの瞳を凝視しているもんだから「目を閉じないんですか」とどこか面白がるような声色でささやかれた。
するりと目元に触れた剣を扱う固い指先がくすぐったくて反射的に目を閉じてしまう。
それをいいことに、コンラッドの指先はそのまま頬を辿り唇をなぞる。
我にかえって口をガードしようと思ったけれどももう遅い。

ちゅ、と可愛らしい音をたてて再び唇が押し当てられた。

おれがかたくなに口を閉ざしてるせいでコンラッドの唇はかわらず可愛らしい音をたてながら表面を何度も何度も啄ばむだけだ。
さてはこいつ獅子じゃなくて鳥だな。
そんなことを考えられる余裕なんてあるわけはないのだが、なんのことはない単に現実逃避しているだけ。
これだからキスは苦手なのだ。
どう反応したらいいのかわからない。
キスの作法なんて知らないし恋人同士の甘い雰囲気の作り方なんてもっての他だ。
目の前の男はことあるごとに可愛いなあ何て言うけれどそれってつまりどういうこと?
おれは恋人っぽく振る舞えている?
それとも右も左もわからないおれが翻弄されるのを面白がっている?

そろそろ酸素が足りなくなってきた。



バードキス続行中のコンラッドの唇が離れた瞬間を見計らい薄く唇を開けると待ってましたとばかりにコンラッドの舌が口のなかに滑り込んできた。
どうやら時間を見計らっていたのはおれだけではなかったらしい。


歯列をなぞられ擽られ、奥で縮こまっていたおれの舌もいつのまにやら引っ張りだされ、コンラッドの舌と絡められ擦りあわされる。飲みほせなかった唾液がだらだらと口の端しから流れていくのが気持ち悪い。
それなのにコンラッドときたらおれの喉の奥にさらなる唾液を落とすのだ。


前言撤回しよう、こいつは獅子だ。

ざらざらした渇いた獣の舌ではなく、ぬるりと唾液で濡れる舌だけが人間の証明だと思うけど。

背中から這い上がってきたぞくぞくとくすぐったいような痒いような不思議な感覚に支配されて声をあげた。
全部コンラッドの口内に吸い込まれて消えたのだけど。
これが抗議の声なのか、気持ちよさからもれた声なのかわからない。
うっすら目を開けてみると目の前の獅子は満足気に目を細めていた。
というかあんたが目を閉じろと言ったんだろう。
そっちこそ目を閉じたらどうなんだ。

「ふ、んん」

そもそもさっき息継ぎをしようとしてそれが阻まれたのだった、苦しくてしようがない。
鼻で息をするのってどうやるのだっけ。

ああ、なんだか。


「っ、んんん!」







「たしかに甘いものが欲しくなりますね」


欲求不満だったのかもしれません。
ご馳走さまでした。
悪びれもせずコンラッドはにっこり微笑んだ。
こっちは酸欠で大変なことになっているというのに相も変わらず涼しい顔をしている。

そういえば最初はコンラッドを動揺させたかったのだった。
結局こっちが動揺させられて、引っ掻き回される結果に終わってしまったのだが。


「キ、スが甘いって?ジョー、ダン!だろっ」


は、は、とそれこそ獣のように短く息をつきながら息を整えようと胸元を押さえる。






あんたとのキスは生々しい・・・いや、獣が肉を食むみたいに生臭い感じだったよ。







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こいつは獅子じゃなくて鳥だな。
・・・よく考えたら次男のなかのひと「エンギワルー」って鳴いてたね
バードキスに極楽鳥のイメージはないですが。

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