ぬくもりのその理由は? |
++++++++ なんだか、太陽のぬくもりがいつもよりも温かく感じられて。 どうしてなんだろう。 それはきっと、おれの隣にいる彼が… 『ぬくもりのその理由は?』 ++++++++ ……か、陛下? 決して聞き間違えることのない、誰よりも大切な人の声。どっかの国の似合わないド派手な軍服を身に纏っていた時と違い、低く響く優しいその声は、どこか朝に似付かわしくない甘さを含んでいるような気さえして。 …ったく、朝から耳許で/// でも、まだダメだ。そん呼び方なんかじゃ起きてやらないよ、あんた名付け親だろ。 「…うるさ…い…。へーか…いう、な……」 「すみません、つい癖で…、ほらユーリ、いい加減起きないと。 もう三番目覚まし鳥も鳴いてしまいましたよ?」 うわ〜、マジで!? …てか、おれの寝不足はあんたの『今夜は寝かせない』宣言のせいだったと記憶してるんデスガねぇ、コンラッドさん? 「ん゛ぅ〜…、まだ…ねむ…」 嘘。 本当は、ちょっと違う。 この幸せな時間をもう少しだけ堪能していたいんだ…。 「ロードワーク、行くんでしょう?ほら」 コンラッドが上半身をベッドの上に起こす気配。朝の眩しすぎる光のせいで眉間にグウェンのような皺を寄せつつ、おれはうっすらと目を開けた。 おれの瞳を覗き込み、笑んだコンラッドの顔が朝一番で視界に入る。それに緩く微笑みかけると、彼の銀の虹彩の輝きが何故か一瞬強くなった。いいことを思い付いた、といった顔つきで楽しげに言葉を続ける。 「それに、きちんと早起きが出来たら、朝食に鮭を出して貰えるかも知れませんよ?」 「…?…なんで鮭なの…?」 金鮭だか紅鮭だか、そういえば鮭はやたら船の名前になっていたっけ。(あと、何故だか木彫りの熊?) 早く行かないと魔王でさえも食いっぱぐれるくらい、こちらでは鮭は高級魚なのだろうか? …いや、それ以前に何故だか嫌な予感がする。甘さを払拭したコンラッドの笑顔が最高に輝いているとはこれ如何に。 あれ、おかしいぞ? なんか鳥肌が…… 「だって、日本の諺ではこう言うんでしょう? ……早起きはサーモンの得」 ………ゴオォォォッ……………!! 「ああ、それとも洋食にしましょうか。 ……フランスパンなんて、皮がパリッとしていて美味しいですし」 ………ピシィッ……………!! 「ああ、それよりもまずは先に風呂ですね…昨晩の跡を残して、艶やかなままのユーリを人前に晒すなんてできませんので。 ユーリ、 ……大浴場にさあ、いくじょー!」 ………カチン…………。 「…ですが、いくら立派な魔王専用大浴場とはいえ、タイムズスクエアも一望できないとなると、風情がありませんねぇ。 まあ、流石に此処は眞魔国ですから、 ……ニューヨークで入浴 という訳にはいきませんね、残念なことに」 ……………………。 「そうだ、ユーリ!タイムズスクエアといえば、アメリカに滞在されていた頃、 ……マンハッタンには… ……行きハッタン?」 ………ブチッ ++++++++ なんだか、太陽のぬくもりがいつもよりも温かく感じられて。 どうしてなんだろう。 それはきっと、おれの隣にいる彼が… ……ブリザードギャグの乱射攻撃をお見舞いしてくれたせいで、おれが朝から凍り付くハメになることをお天道サマは知っていたから。 そして本日ハ晴天ナリ、絶好のロードワーク日和だった。 凍えた身体を温めるためにも、是非とも走りに行きたかったのに、それは叶わなかった。 何故か? ……立てなかった。(症状→腰痛。原因→ウェラー卿。) やっとの思いでおれが正気に戻ったとき、どんな苦難の中に放り込まれても、ギャグセンスだけは成長しなかったらしいコンラッドは嬉々として、どうでした?などとギャグの感想を聞きたがっていた。 ……おれは前に、確かに言ったはずだぞウェラー卿。 “金輪際おれを笑わせようだなんて考えるな”と。 だから、腹の底から静かな怒りが沸々と沸き上がってきたおれは、彼の無駄に高い鼻のアタマにビシッと人差し指を突き立て、こう言ってやった。 「あんたのギャグの感想なんて、 どうもこうもナイアガラ!! まして、まして面白かったか、だとォ!? ……そんなはずがアラスカァァァッ!!!」 ++++++++ ちゃんちゃん。 - - - - - - - - - - ドラマCDのタイトル「今夜は眠れない」を「今夜は寝かせない」にするとコンラッドがヤンデレっぽくなりますね、というお言葉をいただきまして。 もしかしたら『ウェラー卿のだじゃれ特選』を一晩延々きかされるだけの眠れない夜かもしれません、とお返事させていただいたところこんなに素敵なお話を書いていただきました! 感謝感激雨霰! 本当にありがとうございました! このお話の前にあたる、しばしの書いたいかがわしい雰囲気のお話は こちら 。 |