That's what little girls are made of. コンユ未満 しいていうならコン←ユ(無自覚) |
幼い頃はお袋の趣味でフリルだのレースだのエプロンドレスだのごたごたとした、はっきりいうとあまり機能的ではない服を着ていた。 それも親父の影響で野球に夢中になるまでの間だった。 髪の毛を短くして、服だって兄貴のお下がりのTシャツ短パン。 男子にまじって校庭を走り回っていた。 (お袋は嘆きこそしたが格好について特に強要はしてこなかった) ズボンだった下半身は中学に進学してスカートに。 別に女の子が嫌だとか男の子になりたいとか思っていたわけではないのだけれど、男女間にどうして違いがあるのかどうして区別されるのか疑問でしょうがなかった。 そのたびに賢い兄が丁寧に体格から精神から男女の違いを教えてくれた。 俺が質問するたびになんとなく兄が哀しい顔をすることに気がついて、いつしかそういった類いの質問はしなくなった。 女の子だから野球ができない、と言われたのがショックだった。 必ずしもできない訳じゃないがそれだって少数だ。 俺は、女の子と言われるのが嫌だったのではない。 女の子だから、と言われるのが嫌だった。 眞魔国の十貴族は元を辿ればみな軍人だ。 華やかなドレスを身に纏っているが必要があらば軍服に袖を通し、自ら指揮を執る。 あのツェリ様であってもだ。 上王陛下が剣をとるなんてよほどの事態だし 、永久平和主義を掲げる俺にとってはあってはならない状況だ。 そんなことを起こさせないためにも魔王レベルを上げるために日々精進を重ね・・・・・・・・・だめだグウェンやギュンターに頭が上がらなくなってきた・・・。 これだけは言わせてもらおう! 一人ファッションショーをしたときのツェリ様の格好。 豪奢な金髪を頭の上に一つに結い上げ甲冑を身に纏ったツェリ様といったら! それはもうとてもお美しかった! 以上。話を戻そう。 この世界での俺の普段着は常に学ランみたいな魔王服・・・つまりはスラックスだ。 中世みたいなこの世界でも常にスラックスでいることはある程度寛容されていたのだが、流石に公の前ではそうはいかない。 魔王レベル:へなちょこ、の俺は「なんでー陛下は男装してらっしゃるのかしらー?」「えーなにそれとってもおーかーしーいー」みたいな理由で評価をおとしてはならないのだ。ちなみにこれは無駄に飾り言葉の多かったギュンターの話を脇からコンラッドが翻訳してくれたもの、をさらに俺なりに要約したものだ。 なるほど。 そういうわけで現在、俺は今夜開かれる夜会のために、圧迫死、いや窒息死の危機に脅かされている。 「やだー窒息死なんて人聞きの悪いー!」 「いや、本当に、っ、く、死にそ・・・!」 ぎりぎりとウエストを絞められてわめくなという方が無理だ。 というか何故にグリエちゃんが俺のコルセットを絞めてるのだろう? メイド服着てるけど男だよねグリエちゃん。 グリエちゃんにコルセットを任せたメイドさんたちは、頬を紅潮させ「じゃあ私たちは陛下の今宵のご衣装を選んできますわ!」とうきうき部屋を出ていってしまった。 「コル、セットなんて、つけなくても・・・!くくくく苦しい!いいじゃんかよー!」 「えぇー、だって陛下ったら、少々凹凸に乏しくていらっしゃいますしぃ」 「スレンダーって言ってあげてよ、スレンダーって」 ベッドのへりに腰掛けて持ち込んだ本から目をあげずに村田が声をあげた。 女の子の着替え中だから気をつかってくれているのだろう。 でも本当の紳士なら女性が着替えている空間に一緒にいないはずなんだけどなあ・・・。 しかもその台詞フォローになってない。 「感謝して下さいよ、これでも緩めにしといたんですから」 「えっ、これで!?」 出来ましたー、と背中を軽い力で叩かれる。 腰に腕を当ててみると、おお、くびれができている。 なんか感動だ。 それから衣装を抱えて戻ってきたメイドさんたちにドレスを着せられ、髪をいじられ、化粧をほどこされ。 顔になにか塗りたくられて、それから目元を筆がいったりきたり。別の筆が頬をなぞり、最後に唇に紅がひかれた。 「出来ました!」 「え、あ、ありがとう」 メイドさんたちは化粧の出来映えにご満悦のようできゃあきゃあ笑いながら互いにハイタッチを交わしていた。 素材がこんなんでゴメンナサイと思いつつも、彼女たちは血盟城のメイドさんだ。 腕は確かだろう。 とりあえず恥をかかない格好には仕上がったんじゃないかな、と村田を振り替えると今度は村田が着替え中だった。 多少普段よりも豪華なものの、いつもの学ランとほぼ変わらない衣装だ。 コルセット絞められてドレスを着せられた俺としては非常に納得がいかない。 納得がいかない! 唇になにか塗られてる感触にどうもなれなくて唇をいじろうとするたびに「陛下ったら」と注意をうけ、しばらくしてまた唇に手がのびる・・・を何回か繰り返した所でノックの音がきこえた。 「陛下、お仕度は整いました?」 コンラッドだ。 俺が支度しているのだからと返事があるまで入室しないのだろう。 これが紳士だよ! 村田とヨザックに見習わせたい。 いや、今は乙女モードのグリエちゃんだけれども。 「入っていいよ、着替え終わってる」 裸足だった足に少し踵のある靴を履かせてもらって扉を開けるとこれまた普段よりも少しだけ華美な軍服を身につけたコンラッドがいた。 なんだか綺羅びやかだ。 こうしていると本当に王子様だ。 彼の場合、元がつくのだが。 「お綺麗ですよ陛下」 「あははお世辞はいいって」 この夜の帝王め、と軽く拳を肩にぶつける。 「村田も仕度できた?」 「君ほど時間がかかるわけじゃないからね」 「おーし、」 グリエちゃんが時間を確認する。 「時間もちょうどいいですし、そろそろ行きますか」 そう言ったグリエちゃんは肌も露なドレス姿なんだけどいつ着替えたんだろう? 化粧道具や余分に持ってきたドレスといったものの後片付けをしているメイドさんたちに見送られ、四人で連れだって部屋を出る。 出たはいいのだが、慣れない靴をはいているせいで足を変な風に床に引っかけた。 「うわ、」 「大丈夫ですか?」 よろけて転びかけた俺のことをすかさずをコンラッドの腕が支ええる。 危なっかしいですね、と笑ったコンラッドは俺の背中に腕を回し、それから、それから微かに目を瞠った。 「陛下!?」 気付いたら先程まで着替えていた自室に後戻りしていた。 ご丁寧に鍵までかけていた俺の腕。 閉じた扉の前でしゃがみこんで呆然とする。 「え、ええええ?」 驚いた。 自分の気持ちがよくわからない。 お世辞にはなんとも思わなかったのに。 先程コンラッドが目を瞠った。 先程俺の背中に腕を回したコンラッドが目を瞠った。 女性経験が豊富そうなコンラッドのことだ、俺がコルセットをつけていることに気がついたのだろう。 俺が日頃からスカートをはくことを苦手としていることを彼は知っている。 夜会のためとはいえスカートを・・・ドレスを着たところまではいい。 これも魔王さまの仕事だから。 仕事なら嫌々着るさ。実際着たのだし。 ところが嫌々ドレスを着たはずの俺がしっかりコルセットまで着用していることに驚いたのだろう。 なんだか無性に恥ずかしい。 というか、俺はコンラッドにどんな反応をしてほしかったのだろう。 扉の外から「陛下どうしました!?」という声と二つの笑い声を聞きながら頭を抱える。どうしようすごく恥ずかしい。 特に村田にからかわれる気がするな! 髪の毛をかき混ぜようとしていた俺の手をそっとつかんだのは部屋の片付けをしてくれていたメイドさん。 人前でしゃがみかんで恥ずかしさに呻くという醜態を見せていたこと今さら気づいた。 なにやってんだ俺。 もう何もかもが恥ずかしい。 ぱたぱたと裾や襟元を整えてくれた彼女たちは「いってらっしゃいませ、陛下」と微笑みながらやんわり俺が鍵をかけた扉を示した。 - - - - - - - - - - 陛下トト次男枠急上昇。 おまけ |