Peekaboo!




母親が家を買った。
今の恋人が不動産会社勤めなのかなんなのかそれはどうでもよいことなのだが。

もともと兄弟それぞれ父親が違ったり、幼い頃こそ一緒に暮らしていたが末の弟が小学校に通う頃にはそれぞれ父方の家系に引き取られていったりと家庭環境が複雑だったし、母親は母親で恋に仕事にとあちらこちらを飛び回っていた。


そんな母親がある日突然「皆で住みましょう!」と宣言したのは、月一でひらかれる一家団欒のための食事会でのことだった。
一家団欒といっても長兄はけして口数が多い方ではないし、弟は父親が一般人の俺を嫌っている。
母親の近況報告に相槌を打つより他ない食事会だった。気まずいったらない。
だから母の突然の発表に長兄は食べ物を喉に引っ掻けて噎せるという失態をおかし、下の弟はナイフを食器の上に落として派手な音をたてた。
俺はといえば食事会の会場に選ばれたレストランから見た夜景がひどく綺麗だなということを考えていた。
たぶん・・・いやきっと、現実逃避をしていたのだろう。
それでもそんな無茶な母親の提案を兄弟そろって受け入れたのはやはり母親のことを愛していたからで。
母親が無茶を言い出すなんてよくよく考えてみれば今さらのことだったし、おおよそ普通とは言いがたいが愛情をこめて接してもらっていることも知っていたのだ。

かくして俺たち兄弟は十数年ぶりに一つ屋根の下で暮らすことになった。






俺が引っ越しをすることに頷いたのにはもう一つ理由があった。
父親達のせいだ。
母親の背後に立った父親に無言の圧力をかけられたのだ。
期待。プレッシャー。
たとえ兄弟全員の父親が違うとはいえ離れ離れで暮らしているのはなにかしら思うところがあったのだろう。
俺たちが引っ越しを了承したとたん母親の背後でひとりは眉間のシワを緩めて頷き、ひとりは破顔し、ひとりは弛んだ口元を隠すように腕を組んでそっぽを向いた。
そして喜ぶ母を見ながら「あいかわらずツェリは可愛い」だのなんだの。
のろけはよそでやってくれ!
母について語る父親をみながら何で最近三人セットで現れるのだろうとげんなりした。
死んでから仲良くなる理由でもあったのだろうか。
そう、彼らは死んでいる。



死者の声が聞こえる。
聞こえるどころか姿を見ることだってできるし触れることだってできる。
自分がこの事に気付いたのはまだ小学生の頃だった。
理由は簡単。
死んだはずの父親が目の前に現れたのだから。
俺たち兄弟には父親が三人いる。
兄に一人。俺に一人。弟に一人。
計三人の父親に見下ろされるというのは不思議な気持ちだった。
その上みんな死んでいる。
ランドセルを担いだままポカンと口を開ける小学生だった俺の口に棒つきキャンディーをつっこんだ兄の父は「お前は霊能力者だ」と低い声で言った。

「メディ・・・すみませんなんと言いました?」

救いを求めて俺の父のほうに視線を向けると父親は苦笑しながら説明してくれた。

「メディエータ。霊能力者だよコンラート。現にお前は俺たちのことが視えるだろう?」

三人の父親はメディエータとはなんなのか懇切丁寧に説明してくれた。
頭がおかしいと思われたくないのならあまり公言しない方がいいという忠告もくれた。
・・・ご親切にドーモ。
そして父親たちは不器用に俺の頭を撫でて消えていった。

成仏したのかと思いきやそんなことはなく、その後気紛れに俺の前に現れて(家族のなかで彼らの存在を認知できるのが俺しかいないのだ必然的に俺の前に現れる)助言をくれたり厄介ごとを持ち込んだりちょっかいを出したりとちょっと困った存在になった。
困ったといえば父親が俺にくれたキャンディーは幽霊がお金など持ってるはずもなく、盗品で。
万引きの嫌疑をかけられた俺は目を三角にする駄菓子屋の店員に対しての弁明にさんざん苦労したのだった。


それから数年後に、俺の他にも視える人間・・・つまり霊能力者に出会った。
近所の教会の神父だ。
美貌の神父が言うには「私たちは神から授かったこの力を使って、この世に未練を残した者たちの次の世界に渡る手助けをしてやる義務があるのです」だそうだ。
霊能力者は幽霊を助けてあげなければならないらしい。
話し合いで成仏してくれるなら万々歳。
そうでないのなら力業・・・肉体言語で訴えてこの世からおさらばしてもらうしかない。
お陰で人生青痣だらけ。
正直ヤバイかもと思ったことは一度や二度何てものじゃない。
つい最近だとあばら骨を折った。

そんな訳で見えてしまうとはいえ幽霊とは仲良くしたくない部類だった。
・・・・・・ここまでつらつら長ったらしい説明をしてきて何が言いたいのかというと、新居の俺に与えられた部屋にはすでに住民がいたのだ。
もっと詳しく説明すると、



その住民は幽霊だった。







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これから!
これからゆーちゃん出てきますから!

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