二ヶ月遅れの衣替え

R18ではないですが
後半ちょっといかがわしい






つい最近即位なさった魔王陛下はお優しい方だ。

山奥から大きな氷を運ばせたりすることもなければ、侍女たちを侍らせ扇で仰がせることはもない。
ついでに鳥の羽を使って涼をとる方法は「鳥が可哀想」と完全廃止になった。

陛下の優しさに感動しながらも王宮に勤めている人々は皆首を捻った。
今年は特に暑さが厳しい。
この猛暑のなか陛下はどのようにして暑さをしのいでおられるのだろう?
王宮勤めの者達が皆、心配そうに視線を向ける執務室の窓の中。
当の陛下は、

ええい、もう我慢ならん!と


ブチギレていた。






「暑い暑いあっつーーーい!!!」

金の釦をむしるように外すと黒い魔王専用の(ユーリに言わせればただの学ランなのだが)上着を脱ぎ捨てた。
ついでに床に叩きつけた。

「あんた達は軍人だから汗のコントロールは完璧なのか、それとももういい歳だから汗もろくに出ないのかはわからないけど!夏でも黒服はないでしょう!?黒服は!!一番熱吸収のよい色だぞ!外でて黒い画用紙に向かって虫眼鏡かざしてみろよ!火がつくから!」
それとも皆、夏の間黒服長袖で過ごしてみる!?
そしたら俺の感じてる暑さもわかるだろ!

びしりと指差された魔族の重鎮・・・グウェンダルはまた何か言い出したと胡乱げな顔をし、ギュンターは怒っている陛下も苛烈で素敵だと顔の前で手を組んだ。

ちくしょう涼しげな顔しやがって!
暑さで半狂乱になった陛下によって「夏には黒服を着るべし」という、謎の法律が危うく制定されるところだった。

「だいたいこれと同じような服を着てる日本・・・俺の故郷でも夏は暑いからって上着を脱いだり半袖にしたりするぞ!ちょっとこの服装事情は問題なんじゃないの!?」

名付け子の剣幕にその親がおずおずと言葉をかける。

「陛下陛下、衣替えはジャパン特有の文化らしいですよ」
「うるさい帰国子女!!」

相当暑さが頭に来ているようだ。
上着を脱いでもまだ暑い。
散々喚いて体温をより上昇させてしまったユーリはYシャツの襟に指をひっかけ、パタパタとあおぎ始めた。
それをみた「ぷぎゃ」と奇声をあげてギュンターが卒倒した。

それもそのはず、暑さによって目が潤み、玉の汗は頬を伝って顎からポタリと滴り落ち、汗ばんで所々肌にくっついたシャツからは健康そうな肌の色がうっすらと透けてみえた。
声をあらげたことでふーふーと肩で息をするその姿も合わさってどことなく色気がただよう。


倒れたギュンターとユーリを交互に見やり、眉間を揉んだグウェンダルは弟を呼んだ。

「・・・コンラート」
「・・・失礼します陛下。」

これ以上被害が出る前に何とかしろ、兄の意図を正しく受け取った弟は自分の羽織っていた軍服の上着を脱いで陛下の被せると横抱きにした。
暴れるユーリをおさえこみそのまま執務室をあとにする。
連れてきたのは魔王陛下の自室。
そのベッドの上にユーリを降ろし、被せていた軍服を取り払った。

「ぶは・・・何すんだよコンラッド!」
「ええと・・・いえ、」

そこでようやく自分がいる場所に気が付いたユーリは首をかしげた。

「あれ?俺の部屋?」
「今日の執務はもう結構だそうですよ」
「・・・じゃあ、シャワー浴びて昼寝しようかな?」
「大浴場に行きます?」
「動きたくないからここのシャワー使うよ」
「着替えを用意しますね」





扉越しに水音を聞きながらコンラッド声をかけた。
「陛下、ここに着替えを用意しておきましたから」
「いや、もうあがったよ」
キュッと蛇口をひねった音の後に水音が止み扉の隙間からひょっこりと顔を出した。
「コンラッド、タオルとってくれる?」

汗を流してさっぱりしたのか幾分かその表情は晴れやかで湯気を纏う血行のよい肌は流れる水滴がいく筋も跡を作っている。
あんまりな姿にくらり、とめまいをおぼえたコンラッドは思わず呻き声をあげた。





「・・・・・・ちゃんと髪の毛を乾かしてくださいって」
案の定髪の毛の水気を残したまま服に着替えたユーリをコンラッドは引き寄せて肩に掛かっていたタオルで髪の毛を拭い始めた。
いつもならこの間に多少のお小言が挟まったりするのだが、ひたすら無言で髪を拭うコンラッドに内心ユーリは首をかしげる。

そのうちにピタリと腕を止めたコンラッドは固まったきり動かなくなった。

「どうかしたのコンラッ・・・ひっ、」




火照った頭のなかを冷やすべく、無心でユーリの髪の毛を拭いていたコンラッドだったが、ある一点に目を釘付けにされていた。
ユーリの項に張り付いた髪の毛から伝ってきた水滴が首筋を滑り落ちていく。
水滴に誘われたかのように思わず反対側から追いかけ、鎖骨の方から水の跡を舌でたどり、耳の裏に唇を押しあてた。

「どうかしたのコンラッ・・・ひっ、」

上がった少年の悲鳴に「我慢」という二文字の単語を脳内の隅っこに押しやった。
びくんと跳ねた肩を抑えもう片方の腕で腰を抱き込む。
ガッチリと逃げ出せないように名付け子を己の腕に囲いこんだ名付け親は耳朶を甘く噛み甘い囁きたっぷりに息を吹き込んだ。

「・・・昼寝、します?」






首筋の跡によって襟元まできっちりと釦を閉めざるをえなくなったユーリは暑さのせいだけではなく赤い頬を膨らませてむっつりとむくれていた。
けだる気に首をふり、ヒリつくのどを潤すためにぽってりと紅い唇でグラスから水を飲むユーリを目撃したグウェンダルは眉間のシワを深くし低く地を這う声で「コンラート・・・!」と声をあげた。





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暑いですね。
皆暑さに頭やられている感じ

次男次男、衣替えはジャパンだけの文化じゃないらしいですよ

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