雛鳥の餌付け

大シマロン次男




口を開けるように促すと、ぽかりと開かれる口腔。
こちらをまったく疑いもしない瞳に嬉しさと気恥ずかしさ、そして若干の危機感を覚える。
こんなに無防備でいいのだろうか。
親鳥に庇護される雛鳥のように口を開けている主人。

ひとつ指でつまんで干した果物をほうり込んだ。
生で食べるには渋すぎるその果物は、一旦水にさらしてから干すと渋みがすっきりとした甘さになる。
水にさらす時間などで味に違いが出るため売る店ごとにどれも味が違う。
これは腐れ縁のイチオシの店の物だった。
もぐもぐと二、三回咀嚼していくうちにじわじわと溢れるような笑顔を見せたユーリに、ついこちらも笑顔になる。
もっともっととねだる視線に夕飯前なんですからねと念を押してもうひとつ、なるべく小さい塊をほうり込んでやった。




町を歩く度にいつも思い出す。
ここはあなたと歩いた場所ではないのだけれど。
あなたの笑顔、前を歩く旋毛だとか、身を寄せたときの肩の位置、手のひらの温度。
あなたがここにいたら、と考える。
この店には興味を示すだろうか?
ではあの店は?
あの大道芸にはどんな反応を示すのだろう。
笑う?驚く?呆れる?



そして、最後に思い出すのは決まって雛鳥のような顔。





大シマロンに用意された私室はごだごたと色々な色で溢れていた。
国王の趣味なのか、やたらときらびやかなものが並べ立てられた部屋はどこか成金めいたものを感じさせる。
ユーリなら・・・機能性を優先させるのだろうな。
そして、豪奢な物には恐れ多そうに首をすくめて所在なさげにもじもじするのだ。
全部あなたのものだというのに。

派手な色の調度品の並ぶ部屋のなかでに埋もれるように、淡い色みの包装紙がこんもりと山をなす部屋の一角に彼足を向けた。
飴玉、クッキー、マカロンのようなものから干した果物、パウンドケーキの類いまで。
綺麗に包装されたそれらは全部彼の雛鳥のために買い集めた物だった。
咀嚼する姿を思い浮かべ、嚥下する姿を想像し、満足げな笑顔を夢想する。
いつでも彼がお腹をすかせてもよいように、何かあったときに彼を笑顔に出来るように。
懐に忍ばせたお菓子の包みは、けれど食べるもののいないまま屑籠行きになる。
当然だ。
彼の雛鳥はここにはいないのだから。
それを理解していながらついつい買い求めてしまったお菓子の存在をその一角に並べた彼は苦笑を浮かべた。

いままさに懐に忍ばせているお菓子の存在もどうせ口をつけられないまま屑籠行きになるのだろうな、と考えて。



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断捨離すると自分の部屋から出てくるお菓子の多さに頭を抱える系次男。

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