髪が切れないのなら

なんか失敗している
グリエちゃん視点





最近の血盟城での流行は陛下の髪の毛をいじることです。

陛下の次の日の髪を結う相手を予想する賭博として陛下トト出張番!なる物ができるほど血盟城では陛下の髪の毛が注目されていた。


上王陛下が持ち込む石鹸やたまにまじっているアニシナちゃんの発明品のおかげで艶々と綺麗なそれは、けれどたいていは邪魔だとうなじでくくるか頭の上でくくるかされている。
こんなに綺麗な髪の毛なのに坊っちゃんたら色気も素っ気もない!
だってさー、今まで生きてきたなかでこんなに髪を伸ばしたことがなかったんだよ、
と口を尖らす坊っちゃんはどうやら自分の髪の長さに辟易しているらしかった。


ことの始まりはすこし前。坊っちゃんにべったりの隊長がいたのならばこんなことにならなかっただろう。
(まず第一に赤い悪魔の研究室の前を通らせなかったんじゃないかと思う。)
けれどウェラー=過保護=護衛卿はその日は居なかった。その日だけでなくウェラー卿は(渋々)数日間の予定で名付け子のもとを離れ(嫌々)視察に向かっている。



そのとき坊ちゃんは近道しようと赤い悪魔ことアニシナちゃんの研究室の前を通ろうとした、らしい。
ところがどっこい坊っちゃんがアニシナちゃんの研究室の前を通りすぎようとしたまさにその時、ぼかーんという爆音としては少し迫力に欠ける音とともに研究室の扉が吹き飛んだらしい。あとは音を聞きつけた・・・というか「わー!?」という坊っちゃんの悲鳴を聞きつけた俺達がすわ大事件か!?と集まってきてもうもうとたちこめられた煙が晴れるとそこには背中の中程までのびたこの国一番の高貴な色。
しょーとへあーからろんぐへあーへと変貌をとげた坊っちゃんがポカンと座り込んでいた。
流石というべきかなんというべきか日頃から自分がもにたあになることを好まないと公言しているアニシナちゃんは無傷・・・坊っちゃんにも傷は無いのだが・・・で普段と長さの変わらない髪の毛をぶん、と翻し腰に手を当て開口一番「何事です!?」とのたまった。
……。
………。
…………。


「それはこっちの台詞だ!アニシナ、おまえこそ何をしている!?」

はっ、と一番先に茫然自失から戻ってきたのは一番赤い悪魔に耐性のある閣下で、そのこめかみに青筋を浮かべて。

「私はただ依頼された毒を精製していだけです!」

そこで言葉を切りアニシナちゃんは首をかしげた。

「あら陛下?ずいぶんとお髪が長くなられましたね」
「あー、ははは、アニシナさんのせ・・・おかげかなぁ」

いま、アニシナちゃんのせいって言いかけたでしょうぼっちゃーん。




「「「「「育毛剤ぃ!!?」」」」」

在りし日のじぶんの髪よもう一度、略してりーぶ1(その名称だと育毛っていうか植毛じゃ・・・と陛下が首をかしげ、1じゃなくて21じゃない?と猊下がこめかみに指をおいた)
とにかく名誉のために名前は伏せられているのだが、頭皮の危うい依頼主のためにアニシナちゃんは育毛剤を作っていた、と。
ここで視線はかけつけた人々のなかにいた頭皮の眩しい人物に集まったわけだが・・・。
汁王佐が「ダカスコス・・・あなた・・・」とハンカチで目元をおさえている。
ダッキーちゃん・・・毒女に頼むほど切迫した頭皮事情だったのねん・・・。

「えっ、えええええ!?私じゃありません!私じゃありませんです閣下!」






ダカスコスの誤解がやっと解けたあたりでユーリがポツリとつぶやいた。
「ところで俺、髪の毛切りたいんだけど」
「えええ!?」
「なんだよ、ギュンター」
「いえ、あの、その、もったいないと思いまして」

「おや、髪の毛の長さをもとに戻したいのですか陛下?」
「うん。誉めてもらったのは嬉しいんだけどやっぱりこれだけ長いと邪魔かな・・・って」
「・・・まあ、みたほうが理解は早いでしょう」
アニシナちゃんはスッと鋏を取り出すと失礼します、と坊っちゃんの髪の毛を一房すくいあげ、シャキン。
後ろで王佐殿が悲鳴をあげた。
アニシナちゃんの手には切り落とした坊っちゃんのお髪。
ところが切られたはずの坊っちゃんの髪の毛は鋏なんて入ってませんよとばかりに、もとの長さのままなのである。

「このように」

ちょっと誇らしげなアニシナちゃんは鋏を高くかかげた。あぶないあぶない。

「薄毛抜け毛に悩む依頼主のために作ったため、髪の毛が減らないような作りとなっております!」

かかげられた鋏に若干身を引き、自分の髪を手繰り寄せて軽く引っ張っていた坊っちゃんは次の瞬間パッと顔をあげた。

「アニシナさん、アニシナさん!俺も依頼主になれる?」
「ええもちろんですとも」

アニシナちゃんはにこやかに陛下を見て、それから坊っちゃんの後ろに視線を向けた。くちの両端がにっこり、いや、ニヤリ・・・?とつり上がっている。
危険!危険!あれはもにたあを見る目だ。
閣下があぶない!
と、坊っちゃんが閣下を庇うように一歩前に出ると

「それに俺は今回もにたあとして手伝いかできると思うよ?!」

問題発言。
自殺行為。
陛下の御身に何かお辛いことが起こったのか、はたまた隊長がいないのがそんなに辛いのか。
さぁ、と青い顔をした周囲を面白そうに見渡して人の悪い笑みをうかべて友人の言葉補ったのは倪下だ。

「つまりさ、渋谷は協力はおしまないからこの育毛剤の解毒剤を作ってくれって言いたいんだろ?」





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